オレの鎧
ゾルドのところで世話になって、三日が経った。
この三日は主にゾルドの狩りを手伝ったり、ゾルドを倒した戦士と戦ってみたいとの事で勝負を挑んできた奴らを返り討ちにしたりしていた。
その中で分かったが、どうやらゾルドは少なくともこの集団の中では最強らしい。
あの紋章の力を発揮していれば、コカトリスと互角に戦い打倒出来る程の力が発揮出来る。紋章の力を発揮しているのは族長とゾルドだけ。無論、努力もあったのだろうけど。
ゾルドに匹敵する歯応えの者は居なかったし、族長はドルイドだからと戦いを挑んでは来なかった。
それでも族長はかなり強いと思うんだがな。挑んで来ないならそれはそれで別に構いやしない。
族長相手に自分から喧嘩を売るほど馬鹿ではないし。
「ふぅ……」
そして、今日も今日とてオレに挑んできたミノタウロスをぶっ飛ばした所だった。
今朝は夢見が最悪で全く以て寝れた気がせず、どうも不調だ。単純に気が重いとかだるいとかって感じではあるが。
さて、オレに挑んでくる者が居なくなった辺りで、オレは逗留させてもらっているゾルドのテントへと戻る。
テントの中ではリズが槍を磨いていた。
毎度熱心なことだが、武器の手入れに時間を使うのは当然のことだ。リズの場合、槍に意思があるから尚更らしい。
オレもそれに倣って自身の武器を手入れする。
オレの武器はもうあの大鉈ではない。
ゲルドがオレの手に合うように誂えてくれた戦斧だ。
元は普通の戦斧だったのを、握り部分を細いものに取り替えて握りやすいようにしてもらったのだ。
何しろ元の柄はオレの腕くらいの太さがあったのだから握れるわけがない。
防具の方も、今日には完成するとゲルドから伝えられている。
驚きのスピードだが、元からあった鎧のパーツを流用して、それを切ったりしてダウンサイズするだけだから、それほど時間がかからなかったそうだ。
まだ見ぬ防具に想いを馳せていると、のしのしとゾルドがテントに戻って来た。
ゲルドのところに行っていたはずだが、用事は終わったんだろうか。
「ニーナ、喜べ、鎧が完成したそうだぞ」
「マジか! ちょっと行ってくる!」
どうやら、オレの鎧の完成を伝えに来てくれたらしく、それを聞いてオレはテントを飛び出した。
向かう先はゲルドの待っているだろう鍛冶場。
テントの立ち並ぶ集落を駆け抜け、離れた場所にある鍛冶場へと駆け込む。
「おお、来たか、ニーナ。見ろ、これがお前の鎧だ」
そういって、ゲルドが鎧を指示した。
そこにあったのは炉の火の光を反射して煌めく鎧だった。
磨き上げられたブレスプレート。胸には剣を意匠化したらしい紋章が刻印されている。
肩部分に装着する為だろう瓦状の装甲。
ガントレットには上腕を保護する為だろう強靭な布が付属している。
グリーブは靴部分も付属しており、全体を保護するフルグリーブのようだ。
そして腰部分と腿を保護する為だろう、鉄板が張られたマント状の布が垂れ下がっている。
見るからに立派な鎧で、本当にオレの為に作られたのかと疑問になるほどだった。
しかし、サイズは明らかにオレに合わせられたもので、それがオレのためのものであることは明白であった。
「色々と考えたのだが、やはり今の状態でも、大人になった状態でも扱えるものを作るのは難しくてな。耐久性は落ちてしまうが【フィッティング/調整】をエンチャントした。しかし、凡百の一撃など容易く跳ね返すぞ!」
「へぇ……凄いな……」
「さぁ、早速着てみろ。服の上からで構わん」
「ああ」
革鎧を脱ぎ捨て、手伝って貰いつつ鎧を装着する。
装着した瞬間は微妙な違和感を覚えたが、すぐにそれも消えて、しっくりくる感触がした。
グリーブもガントレットもしっくりきてるのだが、ブレスプレートだけが大きい。胸部分に当てるものなので、それほど変ではないのだが。
「胸当てはそのベルトで調節すれば問題なく装着できるのでな、それには【フィッティング/調整】がかかっていない」
「なるほど」
確かに大人形態になればピッタリ来そうな感じだ。
ベルトで調節するなら大人になった時には多少緩めればいいだけなように、ベルトの位置も工夫されてるし。
「ありがとう。あんたいい腕してるな、流石だよ」
「ふあはははっ、我こそはサイオン族一の鍛冶師ぞ。この程度は当然だ」
自慢げに胸を張るゲルドだが、そういうだけの事はある。本当にいい鎧だ。
「けど、その【フィッティング/調整】ってのがあるなら、採寸する必要はなかたんじゃないのか?」
「まぁ、そうではあるのだがな。【フィッティング/最適化】は余り融通の利く魔法でもない」
「そうなのか? 見ただけだと便利そうに見えるけど」
「強度は落ちるし、設定した範囲内での調整しか出来ん。なのでそれはまさにお前専用だ。【オプティミゼーション/最適化】であれば強度も落ちんし、自由自在にサイズも変わるのだがな。俺には使えん……未だ修練が足らんのだ」
鍛冶師ってのも結構大変なんだな。
けど、この鎧がとにかくいいもんなのはよくわかる。
本当に感謝してもしきれないな。
「ありがとう、ゲルド。改めてゾルドにも礼を言ってくるよ」
「なに、鎧と武器を手に入れるのは勝者の特権だからな。しかし感謝は受け取らせてもらおう」
改めてゲルドに礼を言ってから、オレは鍛冶場を出てゾルドのテントへと戻る。
テントの中に入ればゾルドは戦斧の手入れをしているところだった。
リズも同じく槍の手入れをしていた。玉藻は居ないようだ。
「おお、勇ましい姿であるな、ニーナよ。よく似合っておるぞ」
「へへっ、サンキュー。こんないい鎧に武器まで貰っちまって、本当にありがたいよ。改めて礼を言わせてくれ」
「なに、鎧と武器を手に入れるのは勝者の特権ぞ。しかし感謝は受け取ろう」
ゲルドと殆ど同じこと言ってるよ。兄弟なんだなぁ。
「確かによく似合ってる。かっこいい」
リズも褒めてくれた。ありがたいことだ。
「おお、そうか? そうだろそうだろ。カッコイイだろ」
鎧を身に着けると、気分が引き締まる感じもする。
何気にオレは形から入るタイプだったりもするのだ。
「鎧と武器が揃ったから、出発もできるね」
「ああ、そうだな。道も聞いてあるし、バッチリだ。早いところ出発しようぜ」
極普通に入口から入って来たゾルドたちサイオン族は道中の道をちゃんと把握していた。
その辺りのことも聞き出して、ちゃんと道を暗記している。
「うぬらは早速出立するか。うぬらの旅に幸運の追い風がある事を祈っておるぞ」
そういってゾルドが拳を握って差し出してくる。それにオレも拳を握ってコツンと合わせる。
「再開できた時は、また手合せを願うぞ。次こそは勝つでな」
「はん、返り討ちさ」
そういって笑い合う。再開が楽しみだな。
「さて、玉藻は何処だ?」
別に置いてってもいいんだが、それは流石に薄情な気もするので玉藻の居場所を聞く。ここには居ないようだが。
「荷物を纏めるって」
「そうか」
ゾルドのテントから出て、すぐそばに併設するようにしてあるテントの中に入る。
来客用のテントだそうで、寝る場所として借りているのだ。
そのテントの中ではリズの言った通り、玉藻が荷物の整理をしていた。
「んお、ニーナか。おお、勇ましいではないか。よう似合っておるぞ」
「サンキュー、で、荷物纏めてたんだろ? どうだ?」
「うむ、とりあえず問題はあるまいよ」
そういって玉藻が荷物袋を放る。
その荷物袋をキャッチして肩に担ぐ。中身は食料と水の入った水筒だ。
この袋は主に挑戦代として巻き上げたものから出来ている。武器と鎧の代わりに布や針などを貰ったのだ。
「んじゃまあ、出発しようぜ」
「行くとしよう」
立ち上がった玉藻を伴いテントの外に出ると、リズが外で待っていた。ゾルドも一緒だ。
「達者でな、うぬらと無事再開できる事を祈っておるぞ」
「おう、見送りありがとう。またな」
そういってオレ達は出立した。
ほんの数日の逗留だったが、サイオン族の奴らはいい奴ばかりだった。また会えるといいな。
迷宮内の構造を聞いていただけに、脱出の道筋には苦労しなかった。
非常に危険なモンスターが潜んでいる場所も分かっていたので、そちらには近づかないように脱出したり。
最初の苦労は一体なんだったのか、と言いたくなるほどだった。
そうして階層を上がり、あと二層登れば脱出できると言う所で、リズが唐突に行きたい場所があると言い出した。
「この階層には、私の仲間が居るはず。彼に会いに行きたい」
「はぁ。お前以外にもここで番についてる奴が居たのか?」
「うん。場所は知らないけれど、階層は知っている。ここのはず」
とは言っても、場所が分からんことにはどうしようもないのだが。
「彼の居る場所は、エルゴリアが教えてくれるはず。エルゴリア、彼の場所は?」
リズが槍に問いかける。それに槍がぐいーと動き、なぜか斜め下を指す。
「この階層じゃないんじゃないか?」
「そんなはずは……エルゴリア、彼の愛馬の場所は分かる?」
そういうと今度は左側を指す。そちらには通路がある。この先にその愛馬とやらが居ると言う事だろうか?
「そもそも、居場所が分かるのはどういう理屈なんだ」
「同じ炉で造られたカナマンチウムは共感現象を持っている。彼はカナマンチウムの盾を持っているし、彼の愛馬はカナマンチウムの鎧を持っている。だからエルゴリアがそれを察知出来る」
相変わらず不思議な槍だな……。
「それで、ニーナ、とりあえず彼の愛馬を探してみたい。いい?」
「うーん……」
さっさと脱出すべきではあるんだがな。
とは言え、食糧には余裕があるし、道も分かっている。
リズの意見は尊重してやりたいのだが、簡単に頷くわけにもいかないからなぁ。
「会いに行って、どうするんだ?」
「できれば、彼にも同行を願いたい。彼はとても強かった。私よりもずっと」
「ふむ……」
うーん、確かに同行してくれるなら心強いな。しかし、さっきの探知の結果ではここにいるかも怪しい状況だったのだが。
まぁ、いずれにしろ、会いに行ってみる価値はあるか。居なけりゃ居ないで、リズも諦めがつくだろう。
「良し分かった。んじゃ、行ってみよう」
「ん、こっち」
リズの槍が指し示す方向にリズが歩いていく。
というより、引っ張られていると言う形容の方が正しいかもしれない。
そんな感じで進み、道中で何度か昆虫の化物や妙な粘液の塊などに遭遇し、それを倒したり避けたりしつつも道を進む。
そして途中で長い通路に入り、その通路を抜けた先は広いホールだった。
そして、そこには馬が居た。白黒の斑模様のある馬であり、黒い部分は烏よりも黒く、白い部分は雲よりも白い。そんな美しい馬だ。
額に星型の模様があるな。こいつがリズの言ってたそいつの愛馬か。
で、その人物は見当たらない。
まず間違いなく、ここを抜け出したのだろう。
どうしてそんな確信を持って言えるのかと言えば……。
「デカい穴だなぁ……」
「うん……凄い穴」
壁にはでかい穴が開いていた。
その壁の向こう側は土で覆われていたようだが、それも掘り抜いてトンネルになってるようで、向こうから光が差している。
「ここの紅水晶はアダマンティンに匹敵する硬さのはずじゃが……よう掘り抜いたもんじゃの……」
壁を軽く叩いてみるが、ここだけ脆いと言うわけではないようだ。
穴の開いてる場所を斧で削ってみるが、やはりとんでもなく硬い。よく掘り抜いたなこんなの……。
そう思った時、何かを踏んだ。
何かと思って拾い上げてみれば、黒い金属で出来たナイフだった。
「ん、なんか重いな。何で出来てるんだこれ」
明らかに金属ではない重さだ。かなり重い。
「ほう、アダマンティンか。それで掘ったようじゃな」
「これがアダマンティン?」
硬い金属だったか。硬いってことはそれ相応に切削する能力が高いってことだ。
紅水晶の壁もアダマンティンに匹敵する硬度って言ってたし、これなら削れるのかも。
そう思って壁を擦ってみると、確かに削れる。
「凄いな、貰っておこう」
どうせここに放置されてたんだから問題あるまい。
ナイフを懐に仕舞いつつ、馬と見つめ合っているリズのところへと向かう。
「うん……うん……そう……」
リズが頷き、馬が静かに嘶くが、会話出来てるのか?
「リズ、何か分かったのか?」
「彼はもうここには居ない。かなり前にここから出て行ったらしい」
「……話せるのか?」
エルフにはそんな特殊能力まであるのか?
「ラビカンはとても聡明な馬。それに付き合いも長い。仕草でなんとなくは分かる」
「はぁ……」
オレは故郷のロバと数年来の付き合いだったが、何を考えてたのかさっぱりわからなかったぞ。そのロバが馬鹿なだけだったかもしれんが。
「ふむ、なるほどのぉ。リーゼロッテの言うておる事は間違っておらん。数百年以上前に「世界中の美しい女性たちが私を待っている! こんなところで遊んではいられない! 美しい私がこんなところに引きこもっているのは世界の損失だからね!」と言って出て行ったそうじゃ」
なんだそのとんでもないナルシストかつ馬鹿は。
「彼ならそう言う。間違いない。だからって番人の役目を放棄するのはどうかと思うけど」
「そんな奴だったのか……」
そいつをよく知るリズが言うのだから間違いないのだろう。
というか、玉藻は本当に動物と会話できるのか。
「まぁ、それが分かったら用は無いな。さっさと行こうぜ」
「うん。ばいばい、ラビカン」
「ではの、ここで主を待つのじゃぞ、ラビカン」
そして、オレ達はラビカンとやらの居る部屋を後にした。




