サイオン族
はて、何をしようかと首を捻るが、元々人の家なので無茶苦茶することは出来ない。
では、芸も無く妥当にリズか玉藻と話すか。あるいは思考にでも耽るか。
「……故に針一本の動きにすらも意味を持たせるのが一流の彫り師であり、その点で言うならわしは針一本の動きにいくつもの意味を含ませる超一流の……」
とりあえず、未だに刺青について喋り続けている玉藻との会話は不可能なようだ。
ならリズはと視線を向けると、座ったままくーくー寝ていた。
「…………」
ついいたずらしたくなって、頬を指先で触る。うん、柔らかい。
「なに?」
そして当然のようにリズが目を覚ます。なんでそんなに一瞬で起きるんだよ。
せっかくその長い耳を触ってやろうと思ってたのに。
「いや……寝てるようだったので、ちょっといたずらを」
「ん、少し【メディテーション/瞑想】をしてただけ」
「瞑想ねえ……寝てるように見えたが」
「【メディテーション/瞑想】をしてる時は寝ているように見えるだけ。私は寝てない」
「そうか……で、本当は?」
「寝てない」
「なに、人間誰でも寝るんだ。恥ずかしがることはない。で、本当は?」
「……ちょっとだけ、寝てた」
あ、寝てたんだ。本当に瞑想してただけかと思った。
「けど、私達エルフは本来眠る必要はない。今のはちょっと不覚を取っただけ」
「え、それ本当か?」
眠る必要が無いって事は、眠らなくても死なないってことだよな?
エルフの脳味噌はどうなってるんだ?
「もともと私達エルフは精霊に近い種。だから魔力さえ満ちていれば睡眠は必要ない。でも、起きてるだけで魔力は失われるから一日三時間は【瞑想/メディテーション】を行う必要がある。別に寝るのでもいいけど」
「【瞑想/メディテーション】は魔力を回復させるためのものなのか?」
「うん。ただ、睡眠は必要なくても肉体は疲れるしお腹も減るから休息は必要。三時間必要なのは、体の休息も含んでる。魔力を満たすだけなら【瞑想/メディテーション】はもっと短くていい」
不便なんだか便利なんだかよくわからん種族だな。
しかし、睡眠が要らない癖に体は疲れるから休息が必要ってどういうことなんだろ?
「って、待てよ。お前昨日寝てなかったか?」
うん、寝てた。思いっ切り寝てた。オレと一緒にぐーすか寝てた。
「ん。体を休める為に必要だった。それに、寝る必要はないけど、寝る事はできる」
「つまり、お前が寝汚いだけか?」
「私はちょっとお昼寝が好きなだけのエルフ。さぼり癖があるわけじゃない」
「そう言うのを寝汚いって言うんだよ」
実際の意味はいつまでも寝てる奴ってことだが、まぁ些細な違いだ。
さて、そんなことを話していると、ゾルドが戻って来た。
そして、オレへと指輪を差し出す。いや、これは腕輪か……?
「我らが朋友の証だ。受け取ってくれ」
「ん、ああ」
とりあえず受け取るが……これは、指輪、なのか?
ゾルドの手のサイズを見るに指輪のようだが、しかしオレの目から見ると小さめの腕輪にも……。
「……これは、腕輪か? 指輪か?」
「指輪だ」
こんなでかい指輪入んねえよ。
ほら見ろ、こんなにでかいぞ。指輪にも腕輪にもならねえよ。
そう思って指を通すと、あっという間に指のサイズにまで縮みピッタリと嵌ってしまう。
「スゲエな、魔法の力か?」
「魔法の力を持った武具は着用者の体に見合ったサイズになるのがふつう」
「そうなのか」
すっかり解説役が板についたリズの説明を聞きつつ指輪を眺める。
幅広の金の指輪で、何某か意味があるだろうと思われる紋様が彫り込まれている。
色合いも鈍い金色で嫌味じゃない輝きだ。うん、結構いいな。
「それは我らが朋友の証。サイオン族の者に出会った時はこれを見せるがよかろう。無下にはされぬであろう」
「へぇ。でも、サイオン族ってここにいるのが全員じゃないのか?」
「我らサイオン族は元より流浪の民。ここに訪れたも旅の騎士に聞いたが故よ。ここには強いモンスターが住まうと聞いてな。ここ数か月は滞在しておるが、ここには来なかった老人や、どこぞに定住する事を選んだ者も居る」
「ふうん……」
オレより強い奴に会いに行くのを部族単位でやってるのか。とんでもない戦闘民族だな、おい。
「うん、気に入ったよ。ありがとう」
「気にするな。さて、では戦士ニーナよ、ついて来られよ」
「ああ」
防具だか武器だかについて何かすることがあるんだろうかと思いつつ、ゾルドの後をついていく。
ゾルドの足取りは幾つかのテントの前を通り過ぎ、他のテントから大きく離れた一つのテントの前で止まる。
なんか、暑いな。ここに立ってても熱気が伝わってくる。ここは鍛冶場か何かか?
そう思いつつも躊躇なくテントの中に足を踏み入れるゾルドの後に続く。
そしてテントの内部はオレの予想した通りに鍛冶場だった。
内部は広く、ものは殆ど無いが、床に置かれた金床や並べられた大槌、そして何よりも部屋の中央に置かれた炉が鍛冶場であることを物語っている
炉は小型だが、数メートル離れた場所に立っていてもむっとする程の熱気が伝わってくる。
どうやってこんな火力を生み出してるんだか……。
「ゲルド、この者が我を打ち倒した戦士、ニーナだ。連れて来たぞ」
炉を眺めていて気付かなかったが、部屋の隅で何やら鉄鉱石らしきものを眺めていたミノタウロスにゾルドが話しかける。
そのゲルドと呼ばれたミノタウロスがこちらに振り返るが……ゾルドそっくりだなぁ。
そう思っていると、そのゲルドがオレの事をじろっと舐めつけるように見る。
かと思うと、へらっとわら……笑った、のか? なんか厭らしい笑みを浮かべてるように見えるぞ……。
「兄者を打ち倒した女戦士だと言うからどれほどごつい女かと思えば、こんなに小さい子供とは」
あ、ゾルドの弟なんだ。名前の響きは確かに似てるけど。
ってことは、オレがミノタウロスの顔を見分けられないんじゃなくて、単純に似てるだけなのか?
「して、ゲルドよ。我はニーナに負けた。それ故、我は武具を贈らねばならぬ。最高のものを用意してほしい」
「とは言っても、この子に合うサイズの鎧なんてないぞ。大女だと思っていたから、幾らかのサイズ合わせだけで済むかと思ったが……」
そりゃないだろうな……ミノタウロスとじゃ体格が違いすぎる。
「武器の方は余計にどうしようもない。俺達の伝統武器は大きすぎるし重すぎるだろう」
「そのような事は無い。ニーナであれば、我が戦斧も使いこなすであろう」
いや、使いこなすのは無理だろ。振り回すならともかく。
「とは言っても……とりあえず、どれだけのものが持てるんだい?」
「どれだけのものがって言われてもな……」
何か持ち上げるものでも、と思って辺りを見回した所で、ゾルドがオレに戦斧を差し出してきた。持てと言う事だろうか。
とりあえず受け取ってみると、トップの方が重いためにバランスを崩し掛けるがすぐにバランスを取り直す。
落ち着いて持ち上げ、軽く動かしてみる。
へぇ、こりゃいいな。トップヘビーだから振り下ろせばインパクトはデカそうだ。
「どうだ、ニーナ。我が戦斧の重さは」
「中々いいね。持ち上げるだけならこの倍でも行けるぜ」
「ぬはは、我を打ち倒した戦士は言うことが違うわ。我らミノタウロスに匹敵する力の持ち主などそうはおらぬ」
むしろ居たら困っちまうよ。
「これは驚いた……兄者の戦斧を軽々と持ち上げるとは……いやしかし、これなら我らの伝統武器を少しばかり手直しするだけで済むな。一日もあれば仕上げてみせよう」
「防具の方はどうだ? 武器だけでは格好がつかぬであろう」
「ううむ、そちらは何とも言えないな。材料はあるが、小さいものは作った事がない。とりあえず、三日は欲しい」
「ふむ、そうか。ニーナ、構わぬか?」
「あー……」
出来る事なら速く迷宮を出たいのだが、無鉄砲に飛び出すほど馬鹿ではない。
鎧をくれるというなら三日程度なら待つのも問題は無い。
リズと玉藻の説得は、まぁ頑張ろう。
「うん、別に三日くらいなら問題ないさ」
「そうかい? それじゃあ、少しサイズを測らせてくれ」
「いや、待て。ニーナ、うぬは身体の大きさを変えていたであろう。それはどうする?」
「あー、それなぁ」
どうしたものだろうなぁ、それは。
オレのサイズにピッタリにすると、大人形態になった時に偉い事になる、さりとて大人形態に合わせると普段は使えなくなる。
「ふむ、大人にもなれるのか。ちょっとなってみてくれるか?」
「いや、アレは使うととんでもなく腹が減るんだよ。飯を食わないと死ぬんじゃないかって思うくらい」
「食事は兄者に食わせてもらってくれ。構わないだろう?」
「む、うむ、構わん」
そこまで言うなら、と革鎧を脱いでから【バトルドレスアップシェイピングボディ】を使用する。
一気に体躯が大人にまで成長し、高くなった視界に一々感動する。
お、指輪も今のサイズに合わせて大きくなってる。魔法の力ってスゲー。
「ふむ、中々大きいようだな。では採寸をさせてもらうよ」
「手短に頼む」
そう言ったのだが、採寸は全く手短に終わらなかった。
胸回り腹回り腰回りと測り、腕の長さから足の長さ、肩幅の広さと、関節のある部位は片っ端から測られた。
終わったのは一時間近く経ってからのことで、【バトルドレスアップシェイピングボディ】の効果が切れそうなくらいまでかかった。
「だいたい分かったよ。うん……とりあえず、努力させてもらう。それじゃ、行った行った。これから製作に取り掛かるからね」
そういって、オレとゾルドはテントを追い出されてしまった。
うーん、具体的にどこがってわけではないんだが……どっかズレたような奴だったなぁ。
「我が弟ゲルドは腕の良い鍛冶師だ。戦斧造りならばドワーフにも負けぬぞ。出来上がりが楽しみであるな」
アンタらの体格に合わせた戦斧なんてアンタらしか作らんからじゃないか、それは。
まぁ、武具が出来るのが楽しみなのはオレもではあるが。
「まぁ、今は待つしかないわけだからな。とりあえず、戻ろうぜ」
早いところ戻らないと効果が切れて飢餓状態に陥ってしまう。
あと十分ほどで効果が切れるのがなんとなくだが、自分の体のことなので大雑把に分かるのだ。
ゾルドを急かしてテントに戻り、厚かましいとは思いつつもメシの用意を頼んだ。
その用意してもらっている最中に効果が切れ、ゾルドを焼いて食えば牛のステーキになるのだろうかと物騒な事を考えつつも必死で待った。
そして用意して貰ったメシで腹を満たし、何とか今回の副作用も乗り切った。
この腹減り、本当にどうにかならんのかね……?
「よく喰ったな。戦士とはこうあるべきだ」
うんうん、と何やら満足げに頷いてるゾルドだが、こいつの中の戦士は暴飲暴食が当たり前なのだろうか。
まぁ、豪快に喰らい、豪快に飲む、ハリウッドスターみたいな戦士ってのは何となく誰でも思い浮かべそうではあるが。
「いや、悪いな、さんざん喰っちまって。食料もそう楽じゃないんだろ?」
「なに、問題は無い。上の階層に行けば、獲物は幾らでも居る」
さっき喰ったのってモンスターの肉だったのか。何の肉だったんだ? 豚っぽかったけど。
「その得物ってのは?」
「猪と馬だ」
「へぇ、猪と馬……」
つまりは牡丹と桜肉か。
牡丹と言えば鍋で、桜肉と言えば刺身だが、普通に焼いてもイケるんだな。臭みは結構強かったけど。
「散々喰っちまったし、次に狩りに行くときはオレにも手伝わせてくれ。嫌とは言わせんぞ」
「ぬははは、こちらから頼みたいくらいだ。頼りにさせてもらうとしよう」
そういってゾルドは満足気に酒を煽る。
言っておくがオレは飲んでないぞ。元々酒を飲む習慣は無かったしな。
それに、匂いだけでもとんでもなく度数がキツイ事はわかる。飲んだらくたばりそうな程に。
「ニーナ、お酒は飲まないほうがいい。ミノタウロスはドワーフと並んで底無しの酒量で知られてる」
リズにまで釘差された。
「元から飲むつもりなんかない」
「ほう、戦士ともあろうものが酒も飲まぬか。戦士であれば浴びるほどに酒を飲むものだぞ」
それはどういう偏見だ。確かにそんなイメージがある事は認めるが。
しかし、だからと言ってその酒は……。
「飲んだら火ぃ噴きそうな酒はちょっと……」
「なに、噴きはせぬ。少しだけ飲んでみろ。少しだけ」
「いや、飲まないって」
「遠慮するな」
遠慮してるんじゃなくて本当にいらねぇんだよ、ああ、コップに注ぐな!
「舐める程度で構わん。飲んでみろ」
「うう、分かったよ……」
ちょっとだけ、舌先で舐めるようにしてみる。
うっ、舌が痺れる。しかし、舐めるようではいつまでたっても無くならん。
ええい、ままよと口の中に放り込み、ゆっくりと飲み下す。
胃がジワリと熱くなった感じがする。
んー……やっぱ酒は慣れないなぁ。
「どうだ?」
「別に不味くはないけど、好き好んで飲もうとは思わないかなぁ」
これと紅茶を差し出されたら、まず間違いなくオレは紅茶を取る程度には。泥コーヒーとこれならちょっと迷うかな……?
「それよりニーナ、体調は大丈夫?」
「別に何ともないぞ。ちょっとしか飲んでないしな」
「そう……」
そういってリズが【アンチドート/解毒】の呪文回路を霧散させる。
おい、この酒はそんなにヤバイものだったのか。
「このお酒は、普通の人間が飲んだら泥酔するから、子供のニーナだと倒れるかと思った」
「それもそうだが……」
しかし、言われてみると体が火照ると言う事も全くない。
今世では酒に強い体質に生まれたらしいな。
まぁ、活用するつもりは欠片もないけど……。
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みなさんの応援のお蔭です。今後もよろしくお願いします。
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