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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
迷宮突入から脱出まで
36/62

どうしろっていうんだ

 眼を覚ますと、オレは腹部に張り付いている玉藻の存在を自覚した。

 その玉藻を引きはがし、オレはベッドから降りて全身の筋肉をほぐすように背伸びをした。

 強張った筋肉がほぐれていく、何とも言えない爽快感。

 そして力を抜いて、ため息をつく。

 

「よく寝たぁ……」

 

 眠る直前まで感じていた疲労や倦怠感はきれいさっぱり消え失せ、全身に活力が漲っている。

 いや、それどころじゃない。最早溢れ出すと思えるほどの活力が漲っている。

 ベッドに立てかけていた大鉈を拾い上げてみると、昨日よりもずっとずっと軽く感じる。

 

「ニーナ、どうしたの?」

 

 ふと背後から声をかけられて振り向くと、槍を抱えてソファに座っているリズが居た。

 

「なんか身体が軽くてさ。もう昨日までのオレじゃねえ! って感じだ」


「なるほど」

 

 大鉈の重さが物足りないのは気のせいじゃないだろう。もっと重い得物が欲しい所だ。

 しかし、どうしてこんなにも活力が漲っているんだろう?

 昨日やった事は……ああ、そうか。そういえば、虫を殺したっけな。

 レベルアップが行われたってことだろうか? ってことは、睡眠をとる事でレベルアップが行われるのか?

 まぁ、いずれにせよ身体能力が大幅に向上してるのは確かだ。

 これはこの迷宮を脱出するにあたって、大きなプラスになるのは間違いない。やはり休憩を取ったのは間違いじゃなかったようだ。

 

「リズ、オレはどれくらい寝てた?」


「六時間くらい」

 

 六時間か。普段よりは少ないが、十分に問題ない睡眠時間だ。

 普段は明りを取るのが勿体ないから長く寝るだけだしな。

 

「あと二時間くらいしたら、たまもを起こす。そうしたら出発しよう」


「おう」

 

 返事を返してから水道に向かい、幾らか水を流してから顔を洗う。

 僅かに残っていた眠気をきれいさっぱり吹き飛ばし、ついでにいくらか水分を補給しておく。

 

 そして部屋へと戻り、机の上に放り投げられていたクモの肉を見やる。

 そういえば焼いて処理をしておいた方がよかったなと今更に思い出したのだが、既に焼いてある。

 触れてみると暖かくは無いので、だいぶ前に焼いたようだが。

 

「私達が寝てる間に、たまもが焼いておいてくれた。食べておいたほうがいい」

 

「ああ、玉藻がな」

 

 寝る直前だったから、魔力の消耗はそれほど気にする必要が無かったんだろう。それで焼いたんだろうな。

 そう思いつつ、適当に肉片を手に取って食いつく。

 淡泊な味だが、まずくはない。しかし、淡泊であると言うのは脂が少ない事を表している。

 脂質の不足は身体に悪影響を与える……んだったと思う。

 数日くらいなら問題ないだろうが、これが続けば体調が悪化していくだろう。それは戦闘力の低下に直結する。

 なんとかして脂質の補給が出来ればいいんだが……あとビタミンも。

 ビタミンはどうすりゃいいんだろ。生野菜なんかここにはないだろうし……。

 

「リズ、食糧庫に心当たりとかないか? 菜園とかでもいいけど」

 

「ない」

 

「だよなー」

 

 内部の構造すら覚えていないと言うのに、食糧庫の場所を聞いても仕方あるまい。

 何か動物が居れば、肉や肝臓からビタミンを摂取できるんだが……。

 いや、それよりも早く脱出できれば問題は無いんだが、長期戦を覚悟する必要もあるからな……。

 

 本当に前途多難だよ……まぁ、水の確保がここでも出来るって言うのは大きな収穫だけどな。

 

「オレが寝てる間に何か変わった事はあったか?」


「特に何もない。何かが通ったという事も無かった」

 

「そうか……」

 

 少なくとも、部屋を徘徊するような敵は居ないようだ。

 だとすると遭遇戦の可能性は大幅に減る。それは多少の僥倖と言える。

 

 それから暫く、この階層の敵についての考察をリズと重ねていると、時間はあっという間に過ぎ去り、玉藻も起こすまでも無く自分で起きた。

 そして各人の体調が問題ない事を確認すると、オレ達は部屋から出発するのだった。

 

 

 

 道を歩くのが昨日とは比べものにならないほどに楽だった。

 それは身体能力が向上した事などによるものではなく、オレの感覚が昨日に比べて遥かに鋭くなった事によるものだった。

 

 起きた時には気付かなかったが、聴覚や嗅覚が昨日よりも鋭くなっている。

 その感覚器官が捕える情報が、周囲に敵が居ない事を確信させ、気分を楽にしているのだった。

 

 どうしてこうも感覚が鋭くなったのかは分からないが、レベルアップが発生した事による何かなのだろうか?

 考えても分からないとはいえ、やはり気になりはする。

 

 暫くレベルアップについての考えを歩きながら頭の中でこねくり回していたのだが、唐突にリズが腕を差し出してオレ達を無言で静止した。

 何かあったのか、と目線で問いかけると、リズが指差したのは床。

 そこには白いものがこびりついている。液体か何かが固まった跡のようだ。

 

「鳥類のフン。何かが居る」

 

「これが鳥類のフン、ね……」

 

 床一面にこびり付いているそれは、少なくとも一メートル以上の広がりを見せている。

 これからするに、その体躯は途方もない大きさだろう。少なくとも、人間よりは遥かに大きい。

 

「たまも、これ、何か分かる?」

 

「さぁのぉ……しかし、フンの部分が見当たらぬ」

 

「フンの部分って、この白いのは?」


「これはフンと一緒に排出される、尿に該当するものじゃ。フンが見当たらん」

 

 確かに言われてみると、普通ならフンに含まれる黒いものが無い。

 その部分を喰うような昆虫でも居るんだろうか。フンコロガシとか。

 

「特異な進化を遂げた鳥類がおるか、あるいは糞虫が居るか……どちらにせよ、危険な敵が居る事は間違いないじゃろうな……」

 

「うん。気をつけていこう」

 

「ああ。しかし、これだけでかい鳥となると食いでがありそうだがな……」

 

 脂質の補給も出来そうだし、胃を取り出せれば水筒に使えるかもしれないな……。

 場合によっては、挑むことも視野に入れた方がいいかもしれない。

 しかし、無闇な戦闘は危険だしな……。

 

 挑むか否か。後を考えるなら挑むべきではある。しかし、安全を取るなら挑まないべきだ。

 それについての考えを巡らせながら道を進むと、次第にあちこちにフンが落ちているのが散見されるようになる。

 

 確実に、何かが居る。

 

 オレの感覚器官では何も捉えられていない。

 リズと玉藻も同じようで、周囲を警戒しつつも、焦燥などの雰囲気は見受けられない。

 

 その時だった、雄鶏が夜明けを告げるように、大音響の鳴き声が響き渡った。

 

 鳴き声はまるっきり雄鶏のそれ。だが、その音量は鼓膜が破れるのではないかと思うほど。

 フンの量から分かっていたことだが、こうして鳴き声聞く事で実感する。相手は途轍もないサイズの怪物なのだと。

 

 そして、リズと玉藻が血相を変えて相談を始める。

 

「今の鳴き声、ニワトリそっくり」

 

「う、む……拙い、かもしれん」

 

 二人の焦りようから、敵が何なのかの心当たりがあるらしい。

 それは二人ともに共通の見解であるらしく、それはかなりの確率で当たって居るのだろう。

 

「今の鳴き声、何だったんだ?」

 

 二人の態度に不安を煽り立てられつつも、鳴き声の主について尋ねる。

 そして、玉藻が重々しくその鳴き声の主の名を告げた。

 

「コカトリスじゃ。【ペトリフィケーション・ブレス/石化吐息】か【ペトリフィケーション・イーヴィル・アイ/石化の邪眼】を持ち、その爪には途轍もない猛毒を持つ」

 

 コカトリス。名前だけは知っている。ただ、それは前世で知ったものだが。

 バジリスクと並んで、石化能力を持った怪物の代名詞。

 玉藻の言によれば、そのコカトリスは石化する吐息を吐くか、見られただけで石化しちまう。

 挙句、石化しなかったとしても、その爪に猛毒を持つのだと言う。

 

 話を聞けば、かなりの危険性を孕む敵だ。

 倒そうなどと考えるのは馬鹿だろう。迂回すべきだ。

 道中には分かれ道がいくつかあった。そこから進んだ方が賢明だ。

 

「一応、コカトリスがどれだけいるかの確認だけしておきたい。卵があるようなら、かなり危険。バジリスクが居る事の証明」

 

「だからって、うっかり鉢合わせしちまったら拙いだろう」

 

 様子を見に行くこと自体は間違いでは無いのだろうが、そこにはかなりの危険があるだろう。

 大人しく避けて、迂回すべきだと思う。

 

「大丈夫、私の鎧には【プロテクション・フロム・ペトリフィケーション/石化の保護】の力がある。私は石化しない」

 

「凄いな、その鎧……」

 

 見た目からして凄そうな鎧だとは思っていたが、そんな魔法がかかっていたとは……。

 毒に対しては、リズは自前で【アンチドート/解毒】が使える。

 交戦した際にどうなるかは分からないが、少なくとも逃げるくらいは出来るだろう。

 

「とすると、オレは反対はしないが……玉藻、お前はどうだ?」

 

「好きにしたらええじゃろ」

 

 投げやりだな。

 

「うん。それじゃあ、今まで通り、私が先行する。コカトリスを察知出来たら、そこで待っててもらう」

 

「分かった。ちなみに、戦闘になったとして、勝ち目はあるのか?」

 

「分からない。私だけだと、五分。玉藻が手伝ってくれればほぼ確実に勝てるんだけど」


「わしは石化してしまうからのぉ。【プロテクション・フロム・ペトリフィケーション/石化よりの保護】は使えるんじゃが……触媒がないでな」

 

 お手上げ、と言わんばかりに玉藻が肩を竦めた。

 触媒さえあれば、その魔法が使えるってことか……。

 とは言え、ここで触媒が調達できるとも思えないし、やはり戦闘になったとするとリズ一人に任せる事になってしまうと言う事か。

 それはやはり避けるべき事態だろう。この中ではリズが一番強いのだろうが、それでも一人で戦うと言うのは拙い。

 

「となると、やっぱコカトリスとの交戦は避けるべきか。【ペトリフィケーション/石化】を受けないのがリズしか居ないんだから」

 

「いや、恐らくニーナも問題ないじゃろうな。本気では無いと言え、わしの本体の【チャーム/魅了】を自力でレジストしたのじゃから。コカトリスの【ペトリフィケーション/石化】は効きはすまい」

 

「えっ」

 

 オレってそんなに凄いのか?

 

「元々【ペトリフィケーション/石化】は抵抗しやすい魔法。逆に【チャーム/魅了】は抵抗し辛い。たぶん、ニーナなら問題なくレジスト出来ると思う」

 

「はぁ……レジストつっても、どうやって?」


「気合いを込めろ。要は気の持ちようじゃ」

 

 なんかそれで敗れる魔法って凄いしょっぱく感じるぞ。

 しかし、気合いか。気合いを込めるのは得意だ。

 要は【ペトリフィケーション/石化】になんか絶対にかからねぇって思えばいいんだからな。

 

「とにかく、いこう」

 

「ん、ああ」

 

 歩き出したリズの後を追って歩き出す。

 先ほどよりもずっと、緊張感は増していた。

 だが、昨日の疑心暗鬼に近い不安とはまた違う緊張であった。

 

 何しろ、敵の存在は明確だったからだ。

 敵の存在が明確であるなら、不思議な事に多少気が楽になっていた。

 

 そうして進むうちに、リズの表情が険しくなった。

 もう少し進むうちに、オレもそれに気づいた。

 

 何かが歩き回る音がする。

 ニワトリの足音に近い。

 そんな足音が断続的に響き渡っている。

 

 これが、コカトリスの足音。足音からでも分かる。

 相当にデカい。少なくともメートル規模のサイズ。

 あの虫たちよりは小さいようだが、それでも、あの虫たちよりも余程強いだろうと予感できた。

 

 でなければ、あの虫たちはコカトリスに挑んで生存する場所を勝ち取っていたはずだ。

 それが成されていないと言う事は、コカトリスは捕食者側の存在だと言う事。

 既にオレはあの虫たちに苦戦する気がしないが、コカトリスには勝てるかどうかわからない。

 

 やはり、挑むのは愚の骨頂だ。

 

「ここで待っていて」

 

 と、リズがオレ達を静止した。

 元の予定通り、リズだけで偵察に行くのだろう。

 オレも行くべきかと考えたが、玉藻にレジストに失敗する可能性もゼロではないからと押し留められた。

 魔法による抵抗力を持っているリズに任せた方がいい、それは確かなので、それに頷いてリズに向かってもらった。

 

 

 

 そして、数分と経たずにリズが戻って来た。

 その表情は酷く暗い。

 何か拙いものでも見たのだろうかと思い、直後にリズが言った事で、その表情の理由を知る。

 

「コカトリスは一匹。けど、階段の前に巣を作っていた」


「はは……ヘヴィだぜ……」


 それはつまり、コカトリスに挑まなければ上の階層に行くことが出来ないと言う事。

 運よくコカトリスが移動してくれればいいのだが、そう上手く行くとも限らない。

 待つとなると持久戦になる。食料も大して無い状況で、それは無謀だ。下の階の虫たちも、腐敗し始めている頃だろう。食べるのは危険だ。

 しかし、勝負を挑むのもまた無謀だ。

 どちらにせよ、無謀。ああ、クソッタレだ。

 

「一度、近くの部屋に退避しよう。それで会議をしたほうがいい」

 

「ああ、そうだな……クソッ」

 

 どちらにせよ、意見を交換した方がいい。

 そのリズの申し出に従って、オレ達は近くの部屋に退避するのだった。

エイプリルフールネタは特にございません。ご了承ください。

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