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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
迷宮突入から脱出まで
34/62

わけわかんねえ

 無明の玉藻を助けるための説明が終わり、オレはそれを噛み砕き、理解に努めた。

 そして理解出来ないと言う結論に至り、理解する事を諦めた。

 だってわけわかんねえんだもんよ。これが霊珠とやらで、これで玉藻を助けられる事はわかったけどさ。

  

「つまりだな、それはぬしの種を元に……」

 

「説明めんどいからもういいよ。要はこれをどうにかしたら玉藻が助かるんだろ?」


 それだけが分かれば十分だ。他に何か考える必要はない。


「……まぁ、そうだが。本当にいいのじゃな? そう軽々しく使うものではないのだぞ?」


「なんで?」


「それは生命の摂理に反した道具じゃ。その道具が生み出す結果にぬしは向き合えるか?」


「そういう問答はいい。オレは玉藻を助けるためならなんでもするって言ったろ。だったら、どんな結果でも向き合うしかないだろうが」

 

 軽はずみになんでもすると言ったつもりはない。

 文字通り、オレに出来る事ならば全てをやるつもりだった。

 だとすれば、この道具が生み出す結果に向き合えなんていうことが、出来ないわけがない。

 

「それで、こいつをどうすればいいんだ?」

 

「うむ。……ところで、ニーナ。ぬし、初花は来ておるか?」

 

「はつはな? なんじゃそら」

 

「赤とんぼは飛んでおるか?」

 

「はぁ? ここにとんぼなんか飛んでるわけねえだろ」

 

「……馬の稽古はしたことがあるか?」

 

「馬? ロバになら乗った事あるけど……」

 

「ダメじゃな、乳臭いガキはこれだから……」

 

 え、なんでいきなり喧嘩売られてんの、オレ。

 

「ニーナ、赤ちゃんの作り方知ってる?」


「あん? 知ってるが、それがどうした」

 

「じゃあ、私に説明して?」

 

「えっ」

 

 リズに教えてもいいのか……? 見た目はオレと大して変わらないが、実年齢はそれ以上だから教えても問題ないとは思うが……。

 

「むしろ逆に聞くが、リズは作り方を知ってるのか?」

 

「うん。コウノトリが運んでくるとか、キャベツ畑で拾ってくるとかじゃないよ」

 

 ああ、そういうごまかしってこの世界にもあるんだな。そう思いつつ、でかい声で話す内容でもないのでリズに耳打ちで赤ん坊の作り方を説明する。

 

「なんじゃ、ぬし、赤子の作り方を知っとるのか。この耳年増め」

 

「うるせえよ年増」

 

 前世じゃもっと歳行ってたんだよ、知ってて当たり前だろうが。

 

「で、赤ん坊の作り方がどう関係するんだよ」

 

「うむ。知っておるなら話は速い。要するにだな、玉藻の腹の中に、その霊珠を埋め込んで来い」

 

「これを?」

 

 握っていた数珠を顔の前にぶら下げてみる。

 珠は一つ一つが一センチほどで、ビー玉のようにも見える。白く濁っているのでビー玉にしては汚いが。

 

「どうやって入れるんだ? オレの時みたいに腹に触れさせればいいのか?」


「赤ん坊を作るように突っ込め」

 

 かしゃーん、と音がした。何の音だろう、と思ってから、自分が数珠を落っことした音だと気付く。

 

「え? これを? どうやって?」

 

「手で突っ込め。ある程度入れれば後は霊珠が相応しい場所へと勝手に向かう」

 

「アウトォォォォォッ! 力いっぱいアウトォォォォォッ! セウトでもアウフでもねえ! 完っ全にっ、アウトォォォォォッ!」

 

「やかましいわ」

 

 尻尾でぶっ叩かれた。もふもふしてるけど、でかいから意外と痛い。

 

「それはやばいだろ! 玉藻! お前もヤバイって言え! ヤバイヨヤバイヨ! ほら玉藻もヤバイって言った!」

 

「今、ニーナが言ってた」

 

「うるせぇ突っ込むな!」

 

「いいからやれ。でなくば玉藻は一生そのままじゃぞ」

 

「ぬがっ……」

 

 そんなことは分かっている。とっくの昔に分かってるんだ。だからと言って、はいそうですかって分かるわけにはいかんのだ!

 

「ニーナ、何がやばいのかはわからないけど、これはたまもを助けるための行為。だから、仕方ない。たまもだって許してくれる」


 リズの真剣な瞳で頭が冷静になる。オレは何をトチ狂ってたんだ……。

 

「ああ、うん……」

 

 冷静になって考えてみれば、この世界には児童ポルノも無ければ、淫行条例も無い。

 オレの母さんだって、オレを産んだのは十三の頃だったじゃないか。

 逆算すれば父さんは母さんを十二歳で身籠らせたロリコン野郎ってことだ。

 まぁ、オレが生まれた時、父さんは十二歳で、姉さん女房だったわけだが……。

 いや、それは別に大事なことではないな。

 

 重要なのは、そう……この行為はいわば医療行為だということだ。

 ならば、何の問題も無い。そう、何の問題もない。……たぶん。

 

「そう、大丈夫だ、何の問題も無い」


「うん、その意気。ニーナ、がんばって。私も、応援する」

 

 うん、応援しかすることのねえリズは気楽そうでいいなぁ。

 前世の価値観を中途半端に引き摺ってるせいで、オレは二の足を踏まざるを得ないよ……。

 

「では、ニーナよ。さっさと玉藻の腹に霊珠を埋め込め」

 

「ああ、うん……とりあえず、玉藻をなんとかしないとな」

 

 未だにニタニタ笑っている玉藻にとりあえず足払いをかけてひっくり返す。

 そして地面に倒し、固定しようとするのだが、クソッ、暴れるなっ。

 

「ええいっ、立つんじゃねえ! 大人しく寝てろ!」


 もう一回ひっくり返そうと足払いを繰り出すのだが、どうしても暴れる。

 にっちもさっちもいかなくなったとき、オレは玉藻の肩出し和服の襟を掴み、全体重をかけてひっくり返しに行った。

 

「この野郎ォ!」

 

 玉藻を一本背負いで背中から地面に叩き付け、その勢いのまま背後に回り、スリーパーホールドで首を絞めて落とす。

 頸動脈を締めればどんな人間だって昏倒するのだ。

 

 ニタニタ笑いのままピクリともしなくなった玉藻を前に息をつく。

 やれやれ、ようやっと大人しくなった。正確に言うと大人しくさせた、だが。

 

「……ぬし、ムチャクチャするのう」

 

 無明の言う通り、やってから気付いたが病人にすることじゃねえな。まぁいいか、別に体調を崩してるわけではないんだし。

 

「よし……まずを服を脱がす」

 

 服を脱がし、そして、玉藻の下着を脱がせる。うっ、なんか濡れてる……。

 

「山の神は好色じゃからな」

 

「神は変態ばっかりか……」

 

 今のところコノハさんと、あの山の神とやらにしかあった事がないが、ベクトルは違えど変態であることは一緒だ。

 

「で……これを入れればいいんだな?」

 

「うむ。優しく入れてやれよ」

 

「わからいでか」

 

 数珠を引き千切り、その珠を玉藻の体内へと挿入する。

 暖かい泥のような感触を指先に感じつつも、珠を奥へと押し込んでいく。すると、途中から珠が独りでに動き出す。

 

「無事、胎内へと宿ったようじゃな。さ、残りを埋め込め」

 

「はいよ……」

 

 その後、全ての珠を埋め込んでいく作業は滞りなく行われた。

 全ての珠を埋め終えた後は、もう出来る事は無いらしい。

 後はただ、運を天に任せ待つだけ。

 

「……具体的に、どれくらい待てばいいんだ」

 

「そうさな。常ならば二月と言ったところだが、元々玉藻はわしの分身、融通が利く。四時間もあれば、十分じゃろう」

 

 そう言うと、無明は静かに目を伏せた。まるで居眠りを始めたかのように。

 

 そうして、今までの人生で最も長い四時間が始まった。

 

 

 

 元々、時間の感覚の薄い場所だ。

 周囲は常に仄かな光を放つ紅水晶で覆われており、今が夜なのか昼なのかすら判別がつかない。

 

 十分は経ったかと思うのと同時に、もう一時間は経ったのではないかとすら思える。

 しかし、玉藻に何の変化もなく、無明も何も言わない。ならば、まだ時間ではないと言う事。

 

 何度も何度ももう四時間経ったのではないかと思い、まだ経っていないと分かるとイライラしながら再度待ち始める。その繰り返し。

 

 何か暇潰しをするような気分にもなれない。リズもただ無言でずっと玉藻を眺めている。オレもだ。

 

 そうして、どれほど経ったろう。それは無明が言う通り、四時間ほどだったのかもしれないし、もしかしたらもっと長かった、あるいは短かったのかもしれない。

 唐突に玉藻が起き上がり、悲鳴を上げたのだ。

 

「かぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ひっ……!?」

 

 狂気じみた悲鳴。その悲鳴に思わず押し殺した悲鳴が漏れる。

 そして、玉藻が再び倒れる。

 

「……抜けた」

 

「え?」

 

 背後から響いた声に振り返る。そこには先ほどと変わらず、いや、目を開いた無明が居る。

 

「今、神が抜けた」

 

「ぬけ、た?」

 

「うむ……荒療治ではあったが、無事抜けた」

 

 地に倒れ伏す玉藻の顔を見れば、先ほどまでと違って、極々普通の、安らかな寝顔を浮かべている。

 先ほどまでの厭らしいニタニタ笑いを浮かべている顔じゃない。

 

「よかったぁ……」

 

「まだ終わってはおらぬぞ」

 

「え?」

 

 無明がそう言った直後、玉藻の腹部から何かが浮かび上がって来た。

 肉体も服も透過して、飛び出してきたのは先ほどオレが玉藻の体内に押し込んだ、霊珠とやら。

 先ほどとは色が違う。白く濁っていたものが、赤く濁って、蠢いている。

 

「なんだ、これ」

 

「あえて言うのであれば、卵だ」

 

「卵?」

 

 確かにそれっぽいような気もするが、これが卵というのは無理があるのではないだろうか。

 

「それはぬしと玉藻の血肉を元に生み出された生命。生命として確定しながらも、それはまだ如何なる者へと変ずるかも定かではない。いわば可能性の卵」

 

「可能性の、卵」

 

 可能性の卵。字義通りに解釈するなら、この卵は何にだってなれるという事なのだろう。

 例えてみるなら、卵割が起こり始めたばかりの受精卵。

 

「さて、ぬしはそれをどうする。我はぬしがそれをどのようにしても文句は言わぬ。活かすも、殺すも、ぬしが決めるがよい」

 

 無明の言葉を聞きながら、手の中のそれを見やる。赤黒く蠢く塊。その塊からは暖かい感触が伝わってくる。

 思考すらも存在しないだろうそれは、恐らくは、本能で、オレを庇護してくれる存在だと知覚していた。

 

「生きてる……」

 

 そう、それは生きていた。

 明確な思考も、形も存在しないのに、純粋な本能と生命の脈動が確かに存在していた。

 そして、その本能がオレに無条件の信頼を寄せていた。

 

 オレに任せておけば大丈夫。そんな混じりっ気なしの完全な信頼。

 

 それは重荷なのかもしれない。オレに対して全幅の信頼を寄せ、オレに全てを委ねると言う事は、この命が失われた時、その責はオレに向かうのだから。

 それは十二の命全てを背負うということ。

 もし、無限の可能性を持つ十二の命が失われたのなら、その責任は途方も無く重いだろう。

 

 だが、その信頼を無下にする事はしたくない。できない。

 だって、この命は、オレが、オレだけが生かすことのできる命なのだ。

 この命はオレが選択し、成した末の結果。

 その結果を受け止めず、ただ無碍にすることは許されない。オレが納得できない。

 

 オレは、どうしたらいい? この命にどうすれば答えてやれる?

 この無条件の信頼にどうやって答えてやればいい。

 この小さくも無限の可能性を持つ儚い命に、どうやって答えてやればいい。

 

「その命、拾うか。あるいは捨てるか。ぬしが決めよ」

 

 そんな問答の答えはとっくのとうに決まっている。

 

「拾うに決まってる。だが、オレはこいつにどうやって答えてやればいい? この信頼にどうやって答えればいいんだ」

 

「ならば、受け入れてやるがいい」

 

 受け入れると言われても、どうやって。

 ただ受け入れるだけであるのなら、オレはこの命を既に受け入れている。

 優しく抱きしめてやりでもすればいいのかと思って、それを胸にかき抱いた時、それはオレの体内へと吸い込まれていった。

 

「お、おい!? 今の何だ!?」


「それが受け入れると言う事じゃ。じきに、その命も確固とした形を成す。それまでぬしの体内で護ってやるだけのことよ」

 

「はぁ……そういうもんなのか……」

 

 カンガルーが腹の袋に子供を入れるようなもんだろうか。この場合、袋ではなく体内そのものだが。

 

「で、いつになった出てくるんだ?」

 

「そんなもんは知らん。とは言え、それほどかからんとは思うがな」

 

「そうかぁ」

 

 何が出てくるのかなんか怖いな。そう思いつつ体のあちこちを触る。どこに入ってったんだろ。

 そう思った時、腹の中で脈動を感じた。


「そっか。ここか、ここにいるんだな」

 

 腹を撫ぜれば確かにそこにいるのが分かった。一度気づけば、すぐにわかる。

 静かに息衝いて、オレの体内で目覚めの時を待ち続けている。

 

「うん……後は玉藻が目覚めるのを待つだけだな!」

 

「うん。よかったよかった」

 

 今まで黙って話を聞いていたリズも笑顔でパチパチと拍手をしてくる。

 それほど苦労したわけでもないので、拍手なんかされると少し照れくさい。

 そんなことを思いつつも、オレ達は静かに玉藻の目覚めを待つのだった。

 

 

 

 そして、一時間ほど経った頃、玉藻が目を覚ました。

 喜び勇んで体調やら具合を聞くのだが、なにやら目がとろんとしていて反応が無い。

 もしや、まだ神が抜けていないのか……と言う割には、特に異常があるわけでもなく。

 

「きゅぅ……きゅぅん……」

 

 そして、喉を鳴らすような甘えた声を出しながら、オレに摺りついて来た。

 

「な、なんだ!? 何のつもりだ!?」

 

「んんぅ~……主様ぁ……」

 

 なに言ってんだこいつ……。

 

「おっと、言い忘れておったな」

 

 と、何やらくつくつと笑っている無明が口を開く。

 コイツがこういう含みのある言い方をするってことは、明らかに何か面倒事がある……。

 なら、オレは驚かんぞ。絶対に驚いてやらんぞ。

 

「霊的に見れば、ぬしは玉藻を孕ませたと言う事になるからな。それはつまり、番ったと言う事に等しい。今の玉藻の主であり夫はぬしだ」

 

「はあああああああぁぁぁぁっ!?」

 

 無理だった。驚かないなんて無理だった。

 だって、もう、理解の範疇を超えてる。

 

「ああああ、もおぉぉぉっっ、わけわかんねええええぇっ!」

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