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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
迷宮突入から脱出まで
30/62

クモなんて大嫌いだ

 道を進む。先頭はオレ、後ろがリズ、最後尾が玉藻。

 

「なぁ、オレ、腹減って来た」

 

「ん……私も、お腹空いた」

 

 歩き始めてそれほど経ったわけではないのだが、それでも腹が空いた。

 元々、落ちて来た場所で数時間回復に努めていたから仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

 しかし、腹が空いた。

 人間、空腹を感じると気が立つ。そしてそれが度を過ぎると虚無感に襲われ、全ての気力が消え失せる。

 最後には餓死でデッドエンドだ。

 

 何らかの方法で食料を得られなければ、このまま死んでしまう。

 前途多難にもほどがある道程だとは思っていたが、食糧確保にも悩むことになりそうだ……。

 

 ふと、すぐ隣を歩くリズを見やる。

 鎧を身に着け、槍を手に持っていながら平然と歩き続ける身体能力。

 華奢で柔らかそうな肢体に見えるが、あれで筋肉はついているのだろう。でなければ平然と歩いていられまい。

 

 そして、リズの後ろの玉藻を見やる。

 年齢はオレと同じかちょっと上くらいに見える。

 肩の出た和服という変な和服を身に着けているが、そこから覗く肩は非常に華奢だ。

 

「リズ、ちょっと止まれ」

 

「敵?」

 

「いや、特に何も感じない」

 

「?」

 

 リズを立ち止まらせると、必然的に玉藻も立ち止まる。

 

「どうしたんす? わっちも特になぁも感じてありんせん」

 

「いや……ちょっとな」

 

 しゃがみこんで、玉藻の腹を撫でる。服の上からで分かりづらいが、筋肉がよくついてる感触はしない。

 よく見ると胸も膨らんでいるのが分かる。動物に近いから成長が速いんだろうか。

 

「ん? ん? わっちの身体に興味津々でありんすか?」

 

「ふむ……食うとしたらお前が一番美味そうだな。リズは肉が硬そうだし、カニバリズムになっちまう。よし、非常食決定」


「……たしかに、たまもが一番おいしそうかも」


 うん、リズの同意も得られたし、いざって時に食われるのは玉藻だな。

 

「なぬーっ!? 何をさらっとわしを喰うと宣言しとるんじゃあっ! この鬼畜! 腐れ外道!」


「口調変わってるぞ」


「にゅやっ!? ぬぐぐぐ……もう知らん! わっちはもうなぁも知らん!」

 

 コイツ、意外とからかうと面白いのかもしれない。からかえるかどうかは別として。

 ちなみに、玉藻を喰うと言ったが流石に冗談だ。言葉が通じて人間に近い見た目をした相手を喰う気にはならん。

 

「でも、腹減ったのは本当なんだよなぁ。ここって何か食えるもん居ないの?」

 

「んー……知らない。でも、ここは元々は人の住む場所だったから、食べ物は自給自足できてたのかもしれない」

 

「人の住む場所だったのか、ここ」

 

 その割には内装がむやみやたらとデカイが……いやでも通路は結構狭かったな。人間サイズで言えば十分以上にデカイが。

 

「ここは女神達の住む聖域だった場所。国産みの女神が魔王を封印する為にこの場を提供してくれた。それ以来、ここには無数の魔に属する者が封ぜられて来た」

 

「なるほどな」

 

 元が女神の住む場所だったって言うなら、魔王だのなんだのを封印する場所としては充分だろう。

 だからこそここが封印として使われた……しかし、元が女神の住んでいた場所だと言うのなら、食料はあるのかもしれない。

 八千年も前の食料が食えるかどうかは別として、自給自足をしていたのなら喰える植物くらいはあるかもしれない。

 

「問題は、ここがどのあたりかってことなんだよな……大体の構造が分かれば食料庫の目星もつくんだが……」

 

 この階層の構造は特に奇をてらったものではなく、ごくごくまともな構造をしている。

 まず中央に魔王の封印されている部屋に繋がる広場。

 そしてその広場から横に繋がる、羅強の居た部屋と、無明の居た部屋。

 羅強の居た部屋の奥にはプールみたいな場所があった、恐らく無明の居た部屋の奥にもなにがしかの設備があったんだろう。どうでもいいが。

 

 そして、それ以外の部屋は恐らくない。

 今は魔王の封印されている扉の反対側の通路を歩いているところだ。

 しかし、その通路が異常に長い。何しろ、もう十分以上歩いている。

 

「この通路、何処まで続くんだ?」

 

「もう少しで終わる」

 

「わっちは覚えとらん」

 

 玉藻は本当に役に立たない奴だな。

 そう思いつつも口には出さずに歩き続ける。

 そうしていると、出口が見えて来た。

 ここに住んでいた女神達とやらは一体何を考えてこんなに無駄に長い通路を作ったんだか……。

 

 そして、通路の出口までたどり着いて、絶望した。

 

 通路を出た先の部屋には、大量のバケモノ達が居た。

 

「こんなにモンスターが居るなんて……ニーナ、戦える?」

 

「戦える事は戦えるが……あんなバケモノたちとまともに戦えるかどうかは疑問だな……」

 

 部屋を見渡すと、体長十メートル超のカマキリ、それよりも巨大なクモ、そして何やら凶悪な顔つきの蝶。

 そんなバケモノたちが部屋の内部を我が物顔で飛び回っている。

 オレを襲ったクモは小型な方だったんだな……あれ、ほんの数メートル程度だったし。この部屋に居るクモは明らかに象並みにでかいぞ……。

 

「階段がある。ここを一気に駆け抜けて、階段を上る……それが一番かな」


「幾らなんでも無理だろう。カマキリが十五、クモが二十、蝶は十……いや、壁にくっついてるのが見える、もっと多いな……」

 

 あんなもんが居る部屋を走り抜けるとかどう考えても無理だ。

 奴らの動きがどれだけ素早いかは分からないが、少なくとも無傷で通り抜けられるとは思えない。

 

「役立たずタマちゃん、お前は何か出来ないのか」

 

「誰が役立たずか。【ブラインド/視界朦朧化】と【サイレンス/無音化】を使えば察知されにくくなるとは思うが、【ブラインド/視界朦朧化】を一匹ずつかけるのは無理。【サイレンス/無音化】を使えばわっちも魔法が使えなくなりんす」

 

 魔法って無音になると使えなくなるのか?

 

「その【サイレンス/無音化】ってのは具体的にどんな魔法なんだ」

 

「音声要素が発揮されなくなる魔法でありんす。効果圏内では会話はもちろん、物音もしなくなるでありんす」

 

「音声要素とやらが発揮されなけりゃ魔法は使えないのか?」


 その疑問にはリズが応えてくれた。


「うん。音声要素を省略して魔法を使うことは出来るけど、強力な魔法ほど音声要素の省略は難しくなるし、魔力の消費も激しくなる。私は【ミドル・キュア/中傷治癒】くらいが限界」

 

 なるほどな。何も言わずに魔法が使えてたのは音声要素を省略してただけなわけか……落ち着ける状況なら音声要素も用いた方がよさそうだな。

 いや、それは今考えるべきことじゃない。今考えるべきなのはここを抜ける方法だ。

 

「玉藻、お前が使える魔法はどれくらいのものなんだ」

 

「わっちの本体であれば全て十全に使い放題でありんすが、今のわっちは大した魔法は使えないんす。この状況で使えそうなのはさっき言った二つと【オプティカル・ハイド/光学擬装】でありんすが……正直効果があるのかは分かりんせん」

 

 やっぱ本体と比べれば弱体化してるのか。そうだろうとは思ってたが。

 しかし【オプティカル・ハイド/光学擬装】ねぇ……名前を聞く限り、周囲の風景に同化するような感じだが。

 

「その【オプティカル・ハイド/光学擬装】ってのはどういう魔法だ?」

 

「周囲の風景に溶け込む魔法でありんす。ただ、余り激しく動くとバレるでありんす。本来の使い手ならもっと上手くやると思うんじゃが……」

 

 たまにコイツ婆口調になるよな。本体と違って何処か間が抜けてる感じがするんだよなぁ……いやまぁ今はどうでもいいんだ。

 

「それに【オプティカル・ハイド/光学擬装】は魔力の消費が激しい。これを使ってしまうと、後々厳しくなるでありんす。ここは温存するのが得策であろ?」

 

「ここを出られなけりゃ意味はねえが、確かに後に続かない状況ってのは拙いか……」

 

 あの部屋に居る奴ら全部ぶち殺して進めれば楽なんだが、そうもいかないだろうしな……。

 

「たまも、攻撃は?」

 

「余りまともなものは使えんす。【フレイムスロワー/火炎投射】くらいは普通に使えるでありんすが、それ以上となると【フレイムジャベリン/火炎投槍】や【ファイアボール/火球】くらいが限度でありんす」

 

 どれくらいのもんかは分からないが、それほど強力なものは使えないってことか?

 玉藻にそれを聞いた張本人であるリズの反応を見る限り、この状況を打破できるほど強力な魔法ではないのはわかるのだが。

 

「出来る事なら、モンスターを薙ぎ払って進めればいいんだけど……私はまだしも、たまもとニーナがついて来れない」

 

「むぅ……」

 

 確かに、オレとリズの差は大きい。武具の差もあるが、恐らくリズはオレよりもずっと強い。

 近くに居るだけで、強い生命の脈動のようなものというか、何か、強い、と直感させるものがある。

 生命の脈動のようなものの強さを基準とすれば、オレを十とするなら、恐らくリズは四十から五十と言ったところだろう。

 

 この差は途轍もなく大きい。

 もしオレとリズが戦いになったとすれば、オレが百人いても勝てないと直感できるくらい。

 

「リーゼロッテ、ぬしが全てを倒して安全を確保すればよいのではないか?」

 

「虫系の魔物は仲間との交信能力を持っている場合が多い。近くに仲間が居なければいいけど、うかつに戦闘になれば、あれ以上の数がなだれ込んでくるかもしれない」

 

 それはぞっとする話だな……。

 

「壁を破壊して迂回出来ればいいんだが……」

 

「既にわっちが試したことがありんす。この神殿の紅水晶はアダマンティンに匹敵する硬度を持ちんす。これを破壊するくらいなら、正面突破した方が楽でありんす」

 

 この神殿は本当になんなんだ……?

 

「やっぱり、正面突破以外に方法はないか……」


「うん……出来るだけ戦闘を回避して進むしかない。階段まで、凡そ二百メートル。ニーナ、どれくらいで走り抜けられる?」


「そうだな……三十秒。それだけあれば走り抜けられる」


「そう……なら、私が先頭を切る。ニーナは真ん中。たまもは一番後ろ」

 

「んむ。妥当でありんすな。わっちが最後尾なら気にせずに攻撃魔法が使えるでありんす」

 

「ニーナは私に送れないでついてくることだけを考えて」

 

「分かった」

 

 今の状況じゃオレが一番弱い。

 そりゃ普通の人間相手なら負ける気なんか欠片もしないが、あんな巨大昆虫相手に勝てるとは思えない。

 いや、先ほど言った生命の脈動のようなもの……それを基準に考えると、あの昆虫たちは大体が二十前後。オレでも十分に勝機がある……とは思うのだが、流石に多数を相手に勝てはしない。

 

 やはりここでは一番強いリズに身体を張ってもらうほかにない。

 情けない話ではあるが、この状況で無駄に命を張る気にもならない。

 

「それじゃあ、いこう」

 

「あいよ」

 

 リズの言った通りの隊列となり、リズが走り出すと同時にオレも一気に走り出す。

 それに玉藻が続き、モンスターたちのひしめく部屋へと突入し……リズが倒れ込んだ。

 何が起きたのかを理解する暇も無く、走り出した体を止めらずに走り抜けそうになって、何かに足を取られて倒れ込む。

 

「くあっ!?」

 

「ぬっ!?」

 

 倒れ込んだ直後にオレの背中に何かが落ちて来た。たぶん玉藻。

 そして、今の状況になって何が起きたかを察知する。

 

 地面に何か、光る糸のようなものが張っている。

 

 それがオレ達の足をからめとり、この場にひっくり返させたのだ。

 そして、その光るものが何なのかはすぐにわかった。

 

 オレ達が倒れ込んだ事に反応し、静かに佇んでいたクモが動き出したのだ。

 そして、オレ達の足をからめとり、今では身体に張り付いてきてすら居るものは、そのクモの尻から伸びていた。

 

「クソッ! クモの糸か!」

 

 クモの糸は粘着質で、獲物を捕まえて離さない。その糸を利用して巣を作る事で、クモは強力なハンターとなるのだ。

 オレ達はその糸の存在に気付かず、まんまと地面に這うようにして作られていた巣にかかった間抜けだったのだ。

 

 身体に張り付く糸を引きちぎろうと、髪の毛ほどの太さの糸を引っ張るが、全く以てビクともしない。なんて強度だ!

 

「クソッ! クモなんて大嫌いだっ!」

 

 これでクモの所為で命の危機に陥るのは二度目。

 とことんクモとは相性が悪いらしい……。

 

 そう思った時にはもうクモは眼前にまで迫っており、オレ達の体液を啜ろうとその口蓋を開いていた……!

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