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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
迷宮突入から脱出まで
26/62

ヘヴィにもほどがある……

 速い――――!

 

 まず脳裏に浮かんだのそれ。

 オレの首を落とす勢いで迫る刃を後ろに跳び退る事で回避し、更に続けざまに振るわれる刃を大鉈の腹で受け止める。

 

 クソッ、速い。速過ぎる! 反応が遅れてたらマジで首が吹っ飛んでた!

 なんだこの速度は! 集中してなかったら死んでたぞ!

 

「はあっ!」


 リンの振るう剣がオレの大鉈へと激突する。なんつう乱暴な攻め方だよ! 反撃喰らう事なんざ欠片も考えちゃいねえ!


「ぐうっ!」


 しかし、その攻めの苛烈さゆえに受けに回らざるを得ない。迂闊にこちらから攻め込めば、その隙を縫って首を落としに来る。

 

 規格外の大きさを誇る大鉈は盾として使用する事も可能なサイズであり、正面に構えれば十分に盾として力を発揮する。

 だが、それで受け続けられるわけもない。

 リンの武器が不壊の力を持っているのに対し、この大鉈は粗悪な鉄で作られた乱雑な武器だ。

 当然のことだが、不壊なんていう上等な性質は宿っちゃいない。

 リンの持つ剣と打ち合っていれば、武器を破壊される。

 

 今はまだ受けに徹していられる。大鉈の巨大さと腕力に救われている。

 だが、このままじゃジリ貧だ。何れ守りを突破される。

 であれば攻め込むしかないのだが、うかつに攻め込めば反撃で仕留められる。

 

 八方塞がりな状況。この状況を打破する方策を考え、すぐに思いつく。

 

 最速で呪文回路を構築する。

 慌てる必要はない。既に一度使用した魔法だ。失敗なんてしない。

 あの時と同じように、焦らず、ゆっくりとやればいい。

 受けに集中していれば攻撃はまだ防げるんだから、焦る必要なんかない。

 

 そして呪文回路の構築が完了し、それと同時に流し込まれた力がこの世界に神秘の力を発揮する!

 

 それと同時、オレは大鉈を正面からズラし、振り下ろす体勢へと入った。

 それを見てリンが突きを放つ姿勢を整える。

 オレが踏み込むと同時に、喉を貫いて仕留めるつもりだろうことが視線で分かる。

 

 だったらやりやすい!

 

 オレは先ほどまでのリンと同じように、攻撃を受ける事など一切考えない捨身に近い踏み込みで迫った!

 

 そして、それを迎撃するリンの刃の一撃。

 だが、その一撃は空中で何かに逸らされ、オレの喉を貫くことは無かった。

 

「な、にぃっ!?」


 リンの驚愕の声に笑みを浮かべる。

 【シールド/盾】の魔法だ。正直強度に自信は無かったが、現れた盾はある程度なら自分で操作することが出来た。

 攻撃に対し斜めに盾を配置すれば、貫く力は正面から受けるよりも大きくなければならない。

 それだけの力をリンは発揮できないだろうと言う半ば賭けだったが、成功した。

 

 そして、突きを放った事で大きな隙を晒したリンに対し、オレは【シールド/盾】が砕ける音を聞きながら必勝を確信した一撃を叩き込んだ。

 

 だが、手に帰って来た感触は人間の肉を裂く感触でも、肉を叩く感触でもなく、まるで硬い金属を殴りつけたような衝撃。

 

「何だと!?」

 

 驚愕せざるを得ない。いくら鈍い刃しかない大鉈でも人間を真っ二つにするくらいの切れ味はある。

 なのに、リンには一切の傷が無い。

 そんなあり得ない現実に動揺するオレに対し、リンがしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべながら言う。

 

「【神文鉄甲】と名付けた力だ。今の私は鋼よりも硬いっ!」

 

 その言葉と同時、リンが握っていた刀を投げ捨て、腰の小太刀二刀を引き抜いた。

 そしてそれを武器に、今まで以上の手数で襲い掛かって来た!

 

「くっ!」

 

 ヤバいっ、受けきれないっ。手数が倍になっただけじゃなく、多方向から仕掛けられて防御が間に合わん!

 

「つうっ!」

 

 小太刀の刃がオレの左肩を掠め、直後に右腕を貫こうと迫った刃を避け、更なる追撃を大鉈で受け止める。

 やばい、このままじゃ負ける……!

 受けきれない、攻めにも転じれない、【シールド/盾】を展開出来る程の余裕もないっ。

 

 だからって、はいそうですかって納得出来るか!

 

「舐めんなぁぁぁぁっ!」

 

 打ちかかって来たリンの小太刀を全力で上方へと弾き飛ばした。

 腕の筋肉が引き攣るのが分かる。だが、それを堪え、更に続けて一撃を繰り出す。

 

 上方に弾いた事で腕を逸らされ、胴体を晒すこととなったリンのみぞおちへと大鉈での突きを叩き込んでいた。

 

「かっ……!?」

 

 リンが吹き飛び、地に転げた。

 そして起き上がろうとするが、その前に口許を抑えて蹲った。

 

 ああ、予想が当たった。

 

 幾ら肉体が鋼の強靭さを持っていても、衝撃に耐えられるとは思えなかったのだ。

 みぞおちを打てば、身動きが取れなくなる。それが人間の機能。

 勝算の高い賭けだったとはいえ、肉体が鋼の強度を得るなんてわけのわからない状態なのだ。

 もしかすれば意味を成さない可能性もあったが、無事に勝つことが出来た。

 

「よしっ、そこまで!」

 

 コノハさんが試合の終了を告げた。それにリンがあからさまに項垂れるが、すぐに何とか立ち上がった。

 

「負けてしまったな……」

 

「ああ、オレの勝ちだ」


「強かった。いかに新しい力を手に入れても、やはり実戦を潜り抜けた者は違うな……」

 

 リンは悔しげながらも素直にオレの事を称賛してくれた。

 そう簡単に出来る事じゃない。少なくとも、オレなら悔しくて悔しくて、相手の事を褒めるなんてそう簡単に出来ない。

 

「お前こそ強かったぞ。少し経過が違っていれば、負けていたのはオレだ」

 

 それは事実だ。もしも途中でもっと傷を負っていれば、あるいは最初の時点でリンがもっと早ければ、決着は別の形で、もっと早くついていた。

 オレが勝てたのは偶然によるところが大きい。誇れるような勝利じゃない。

 

「次やる時は、完勝して見せるぜ。だから、精々腕を磨いておけよ」

 

 そう、次こそは完璧に勝利して、誇れるような勝利にして見せる。

 そして、オレの遠回しな再戦の約束を聞いたリンは、笑って答えた。

 

「それはこちらのセリフだ。次こそは私が勝って見せる。それまで首を洗って待っているがいい」

 

 不遜なセリフにオレも笑った。そして示し合せる事無く、互いが互いの拳をぶつけ合った。

 

「次こそは私が勝つ」


「次はオレの完勝さ」

 

 そして約束を交わした。

 次がいつになるか分からない。だが、必ずまた試合う。

 それは生きて再開する事の約束でもあり、また次会う時までも友であることの約束だった。

 

 

 

 互いにしっかりと約束を交わした上で、今まで空気を読んでくれたのか黙っていたコノハさんとフランのところへと戻る。

 

「お前ら、いい試合だったぞ。リンは踏み込みが迂闊過ぎたな、それは絶対の鎧ではない。過信し過ぎるな。ニーナ、お前は戦術感はよかった。だが、まだ武器に振り回されているな。仕方ない事とも言えるが、それは克服しておけよ」

 

 そして試合の立会人であったコノハさんがオレとリンの悪い点を端的に指摘してくれた。

 確かに、オレは武器に振り回されている。しかし、体格の問題である以上、そう簡単に解消できるものではない。

 幾ら腕力があっても、体重が多いわけではないのだから振り回されてしまうのは仕方ないのだ。

 

 やはり、成長するあの技を使うしかないのだろうか?

 しかし、あれは使うとアフターリスクがでかいからなぁ。

 腹が減るだけとはいっても、その飢餓状態もハンパじゃない。メシを喰う事しか考えられないほどだ。

 

 そんなことを考えていると、コノハさんの隣で試合を見ていたフランが駆け寄ってきて、オレの肩の傷に手を触れた。

 

「【キュア・ライト/軽傷治癒】」

 

 フランがそう呟くと同時、力強いエネルギーがオレの体内へと流れ込み、傷口をあっという間に治癒していく。

 この回復魔法、便利そうなんだけど神から与えられてる魔法だからオレには使えないんだよなぁ。

 

「どうですか? 痛い所、他にもありますか?」


「いや、大丈夫だ。さんきゅーな」

 

 そういってフランの頭を撫でる。ああ、フランの犬耳が気持ちいい……。

 このこりこりくにゅくにゅとした感触が何とも言えない……。

 フランの柔らかい茶髪と、さらさらの獣毛に覆われた耳の触感が何とも言えないハーモニーを奏でる。

 

「はふぅ……はっ!? わ、私の方がおねえちゃんなんですよっ! もうっ!」

 

 そういう割には尻尾が随分と嬉しそうに動いてるじゃないか。

 お姉さんぶってる割には頭を撫でて貰うのが嬉しいんだろ?

 けど、本音を言うのは恥ずかしいから隠してるんだろ?

 へっへっへ、オレには全部お見通しだぜ……。

 

「ほう、どれどれ。ちょっとオレにも撫でさせてくれ」

 

「ええー……ちょっとだけですよ」

 

 唐突に横から割って入って来たコノハさんにフランの頭を譲ってやる。

 この時ほどコノハさんが人の心を読める事を恨めしく思ったことはないぜ……フランの頭の撫で心地を知られてしまうとは……。

 

「おぉ……これは中々……」

 

「はうう……コノハさんの手、優しくてあったかいです……」

 

 ああ、クソ、羨ましいなぁ。オレもフランの頭撫でてぇなぁ。

 あのこりこりふにゅにゅの犬耳を思う存分撫で尽したいなぁ、もう。

 唇ではみはみしたらどんな反応するのかも気になるぜ……。

 

「ほほう。はみはみか……試してみるか」

 

「なっ……! ふ、ふざけるなっ! それはオレがやるんだっ! はみはみはオレのものだ! オレのものだっ!」

 

「バカめ。考えてしまった時点でお前の負けさ」

 

 そういって、コノハさんはフランの耳をはみはみし始めた。

 ああ……ああっ! 柔らかそうな耳を、あんなにはみはみして!

 唇は一番敏感な感覚器官……そこで触れる事は、フランのふにふにこりこりの獣耳を最も堪能できるという事……!

 

「ひゃっ! ちょっ、やあ……くすぐったいですよぉ……」


「ほほーう。唇で挟まれて、すりすりされるのが好きなのか? はむ……」

 

「わきゃっ、きゃうっ! く、くすぐったいですよぉ! ひゃっ!」

 

 おのれぇ……! 憎しみで人を殺せたらぁ……!

 畜生、畜生……羨ましいぞ畜生っ!

 

「次はオレ! オレ!」

 

「三分交代な! まず三分オレが堪能する!」

 

「もう軽く一分半は堪能したろ! 一分半で交代!」


「ふざけんな! 子供にはまだ早い!」


「大人気ねーぞ! 子供に譲れ!」

 

 ええいっ、クソッ、だが実力行使で奪い取れる相手でもない……!

 ならば的確に三分を待つ……!

 

 そして秒数を数え始めた辺りで、異様な地鳴りが周囲を襲った。

 まるで巨獣が唸り声を上げているかのような、途方もない地鳴り。

 

「な、何だっ!?」

 

「地震か……? いかんっ、でかいぞ! 家から離れろ! オレの傍に来い!」

 

 日本風とはいえ、シェンガも地震大国なのかよ!

 しかし文句を言っても仕方ない。言われた通りにコノハさんの元へと向かおうとした瞬間、突き上げられるような凄まじい揺れが襲った。

 

「うあっ!? た、縦揺れ!?」


 縦揺れ地震はヤバいと何かで聞いたことがある。

 この世界でもそれが通用するのかは分からないが、何かヤバそうだとは感じる。

 

「ひゃあああぁぁぁぁっ!? ゆ、ゆゆ、揺れてますぅっ!? か、神様ーっ!」

 

「くあっ!? お、大きいっ! 山が崩れる!?」


「ええい落ち着け! この山は遺跡の上に固定されてるから崩れはせんっ! オレの傍に早く来い!」


 地面を転げそうになりながらも、必死でコノハさんの元へと向かおうと一歩を踏み出し、地面が喪失した。


「え――――?」

 

 何が起きたのか理解出来なかった。

 だが、次の瞬間に感じた浮遊感で、何が起きているかを理解した。

 

 落下している!

 

 地盤沈下か、もともと地下に空洞があったのか。そのどちからは分からないが、地面が崩れ、落下している。

 

「う、わ……わああああああああああああああああっ!!」

 

 無明の闇へと落下していく恐怖と、落下という現象に対する恐怖。

 その二つの恐怖が独りでに腹の底から悲鳴を絞り出させ、耳元を悲鳴が通り抜けていく。

 

 どれだけ落ちたのか、ほんの数秒、長くても十数秒程度だったとは思う。

 それだけの落下を経て、オレは何か硬い物に叩き付けられ、直後に何かに沈み込み、呼吸すら出来なくなった。

 

「がっ、ぼっ! ごぼぼ!」

 

 全身を苛む激痛と打撲傷による異様な倦怠感。

 それを必死で堪え、今自分が何処にいるのかを理解した時、オレは光の見える方向へと必死で泳いだ。

 

 その光が強くなり、やがてオレの顔が水面から出て必死で酸素を吸い込み、岸辺へと泳ぐ。

 

 必死の体で岸辺へと辿り着き、五体を地に着けることが出来たと同時、体中の激痛にのたうち回った。

 

「っ、くっ……! ぐぅっ……!」

 

 痛みを堪え、呼吸を必死で整えると、次第に痛みは引いていった。

 それでも体の芯に鈍い痛みが残り続け、例えようもない倦怠感がオレを襲っていた。

 

「くっそ……はぁ、はぁ……骨折は、してない、か?」

 

 どれだけ落ちたかは分からないが、オレが落ちたのは湖らしき場所だった。

 水面に叩き付けられるのはコンクリートに叩き付けられるのに等しい衝撃が襲うが、不幸中の幸いか、斜めに入水する事が出来たらしい。

 

 それで衝撃がだいぶやわらげられたようで、身体の何処かが折れているということは無かった。

 だが、正直言って、それも気休めにしかならないらしい。

 

 上を見上げれば、空に開いた光の差す穴は酷く小さく見える。

 あの時に開いていた穴のサイズは分からないが、少なくとも数メートル近いサイズだった。

 それが掌で隠せるほどのサイズということは、かなりの距離を落ちたという事で……よじ登る事は不可能だろう。

 

 であれば、他に道があるのか。

 それはおそらく、あるだろう。

 先ほどから、身体が濡れているから風を感じやすい。横合いから風が吹いているのが分かる。

 そして、その風に、獣臭が混じっている事も。

 

「妖怪が封印されてるとかって、言ってた、な……」

 

 なら、ここはその封印されている遺跡……迷宮だろうか。たった一人しか入る事の出来ない、迷宮。

 そうだとすれば、それはなんて不運だ。

 生存確率がどれだけ下がったのか、分かりもしない。

 唯一の救いは、すぐ近くにオレの武器の大鉈が転がっていることくらい。

 

「くっそっ……! ヘヴィにもほどがあるだろ……!」

 

 どうやらだが、オレはこの迷宮からたった一人で脱出する事を余儀なくされたらしい……。

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