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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
旅立ちから修業まで
25/62

この世界は中途半端にハイテクだなぁ

 何やら、身体が重い。

 熱でも出てしまったのだろうかと思って右腕を持ち上げようとすると、それすらも持ち上がらない。

 

「う、うぅ……」

 

 風邪だとしたら、相当重症だな、と思ったところで、特に体にだるさはなく、物理的に身体が重いのだと言うことに気付いた。

 唯一動く左腕で被っている布団をはぎ取って、身体の重さの理由が分かった。

 

「何やってんだこいつら……」

 

 オレの足に縋りつくようにフランが、オレの右腕にリンが、そして胴体にコノハさんが覆いかぶさっていた。

 フランはまだ分かる。すぐ隣で寝ていたし、フランの寝相が悪い事はここ数週間の旅で把握していた。

 オレの布団にまで潜り込んでくるのはおかしくない。

 しかし、リンがくっ付いてるのはなぜなんだ。昨日コノハさんと隣り合わせで寝てたじゃねーか。寝相だって悪くないどころか凄くいい方のはずだ。

 

「いやな、昨日便所に起きたと思ったらそのままお前の布団に潜り込んで寝始めたんだ。だからオレもご一緒させてもらった」


 返事など期待していなかったんだが、いつの間に起きたのか、あるいは最初から起きていたのか、コノハさんが目を開けて返事を返してきた。

 

「じゃあなんであんたも入ってくるんだよ! 重いよ邪魔だよ!」

 

「子供の体温って高いんだよ。最近朝方は寒いから湯たんぽ替わり」

 

「石でも抱いてろ!」

 

 つうかマジで重い。苦しいっ。

 この重さの内約ってコノハさんが殆どだよな絶対。この中で唯一大人なんだし。

 フランは見た目相応の体重なのは昨日持ち上げたから知ってるし、リンは見た目よりは重いが、それでも想定の範囲内だ。

 

「うぐ……コノハさん、あんた体重何キロですかっ……重いんですけどっ!」

 

「普通はその質問したらぶっ飛ばされんぞ。体重は秘密だ」

 

 その返事は何となくするだろうと思ってた。

 

「つうかだんだん重くなってんぞ! 体重かけてるだろあんた!」

 

「ああ、わざと」

 

「ざけんな! おりろぉぉぉっ!」

 

 死ぬ! 死んでしまう! 本当に重いんだって!

 

「まぁ、冗談だ」

 

 ふっと荷重が一気に減る。しかしコノハさんは未だにオレの上に覆いかぶさったままだ。

 

「うう、さみぃ。お前体温高いなぁ」

 

「新陳代謝が活発なんです。つうか、くっ付かないで下さいよもう」

 

「いやだ、寒いんだ」

 

 ええい、鬱陶しい。


 しかし、改めてコノハさんの身体を見ると、特に太っているというわけではなく、むしろかなり細い。

 見た目よりずっと重く感じたが、剣士なんだから筋量が多いのかな。

 ついでに言うと、白の襦袢一枚という服装はかなり扇情的だ。男なら前かがみになる事請け合いだ。

 

「いやー、あったかいなぁ」

 

「うおあっ! な、なな、なんで背中に手ぇ突っ込むっ! つめてぇっ!」


「いや、あったかいから」


「オレは冷たいんだよぉ!」

 

 背筋が勝手に伸びてしまうほどにコノハさんの手は冷たい。冷え性なんだろうか。

 

 そうして暫くしていると、だんだんとオレの体温でコノハさんの手があったまってきて、冷たい感触は和らいでいく。

 

 そうする中で、オレはここに至るまでの昨日の事を思い出していた。

 

 

 

 昨日、稽古が終わってからオレ達は特に何をすることも無く一日を過ごした。

 時々双六をしたり、フランとリンが羽子板で遊ぶのを見たり。

 そんな風にして時間を潰し、夜になれば何故か全員が一つの部屋に集まって寝た。

 

 元々はオレとフランだけが客間で寝るはずだったのだが、何故かコノハさんが客間に訪れて、ここを野営地にする、とかわけのわからない事を言い始めて、自分も布団を敷いて寝始めたのだ。

 そしたらリンも部屋にやって来た。大方コノハさんの部屋に行ったら居なかったんで、オレ達に居場所を聞きに来たんだろうな。

 

 何を目的にコノハさんの部屋に行ったかは知らないが、あれで可愛い奴だからきっと年相応にいじらしいお願いでもしにいったんだろう。

 

 で、気付いたらこのありさまだった……と。

 うん、やっぱわけわかんねえや。つうか、この人はいつまでオレの背中に手を突っ込んでるつもりだ。

 

「いやー、堪能した。さて、朝飯の用意するか」

 

 と、思った直後にコノハさんがオレの背中から手を抜いて布団から出る。

 オレも未だにくっついてくる二人を引っぺがしてから起き上がる。

 

「なんか手伝いましょうか?」

 

「いや、一応客だからな、顔でも洗って来な。オレはもう洗ってきたから」

 

 洗ってきた上で布団に入り込んで二度寝してたのかこの人は……。

 まぁ、突っ込んでも仕方ないな……そういう人だし。

 そう思いつつ、部屋から出て、昨日のうちに聞いていた井戸のある場所へと向かう。

 

 この家……と言うか、神社の本殿の内部は不思議な構造になっている。

 本殿の大きさ自体がかなり大きく、その内部にこの家があるわけだが、庭もちゃんとあるのだ。

 

 というよりは、本殿内部に広い中庭があり、その中庭に家があるような感じと言ってもいいだろう。

 そしてその中庭……この家から見ると庭に井戸がある。

 

 井戸で水を汲むのは中々に大変だ。結構重いし。

 さておき、水を汲んで、その水で顔を洗うと微かに残っていた眠気がきれいさっぱり消え去る。

 

 さすがに冬が近づいているだけに井戸水は非常に冷たく、身を切る冷たさと言う表現がしっくりくる。

 

「ふぅ、寒いな」

 

 ぶるりと体が震える。中庭のような状況だけに風は入ってこないが、気温は冷たい。さっさと家に入ろう。

 

 家に入り、居間へと向かう。この家自体は不思議な構造をしているが、内装や間取りは極普通で、茶の間は玄関から入ってすぐにある。

 

 その茶の間に入ると、奥の部屋、台所でコノハさんが慌ただしく動いてるのが見える。

 ……なんかIHクッキングヒーターみたいなものが見える。気のせいかな……。

 

 つい気になったので台所へと入ってみると、確かにクッキングヒーターみたいなもので料理をしている。

 この世界ってファンタジーな世界観じゃなかったっけ。

 

「あん? どうした? 腹減ってんならもうちょい待ってろ。米が炊けてねえからな」

 

 そういってコノハさんが顎でしゃくった先では竈で釜がじゅーじゅー言っていた。ご飯釜だな、あれは。非常にローテクな感じのするアレだ。

 じゃあ、あのハイテクな臭いのするクッキングヒーターはなんなんだ……?

 

「ああ、これか? これは【エレメント・クッキングヒーター/精霊調理器】だ」

 

「それはどういう原理で動いてるんですか?」

 

「火の精霊を呪縛してあるんだ。竈と違って熱の管理が楽でな。知り合いの技師に作らせた」

 

「ふうん……」

 

 近寄って見てみると、ガラス板に見えたものは箱状になっているようで、内部で炎のようなものが揺れ動いている。

 これが火の精霊だろうか。この精霊に命令を出して熱管理をさせてるようだが、確かに便利そうだな。

 しかし見た目はまるっきりIHクッキングヒーターだな。

 

 そう思っていると、コノハさんが部屋の隅にあった箱のようなものを開いて、そこから卵をいくつか取り出した。

 

「それは水の聖霊でも呪縛してるんですか」

 

「風と水の聖霊を呪縛してある【エレメント・リフリジェレータ/精霊冷蔵庫】だ」

 

 この調子だとクーラーとか扇風機もありそうだな。流石にテレビはなさそうだが、自動車くらいはありそうだな。ああ、馬車があるから無いのかな……。

 

「暇なんでなんか手伝いましょうか?」

 

「厚焼き玉子作れるか?」


「無理です」


「じゃあ鮭捌けるか?」

 

「無理です」

 

 どうしてそう手伝いが高難易度なんだ。

 

「んじゃま、おとなしくしてな」

 

「そうしときます」

 

 大人しく引き下がり、居間で座布団に座ってぼうっとする。

 何かしら鍛錬でもしとこうかなとも思うのだが、今から鍛錬を始めたら身体が温まる頃にメシが出来そうだからな……。

 

 それでもちょっとでも鍛錬をしておくべきかと迷い始めた辺りで、リンが目元を擦りながら居間に入って来た。後ろにはフランも居る。

 

「おはよう、ニーナ」

 

「おはよう」

 

 リンの朝の挨拶に返事を返す。

 続くフランはと言えば、朝っぱらから目が輝いていて元気そうだ。相変わらず朝に強い奴だ。まぁ、オレも朝には強いが。

 

「おはようございますっ! 今日もいい天気ですねっ!」

 

「そうだな」

 

 本当に元気な奴だ。その代わりなのかどうか、夜になるとすぐ寝るが。動物みたいな奴だ。

 

 全員が揃うとなんとなく鍛錬をし始める気が失せるもので、そのままのんべんだらりとした。

 今朝の井戸の水が冷たかっただの、これから冷え込んでくると考えると気が重いだの、そんな他愛のない会話を繰り広げる。

 そうこうしているうちに、料理を終えたのかコノハさんが料理を運んできた。

 

「メシだぞ。お前ら全員席に就け。席につかない奴の朝メシはくさやオンリーだ」

 

 くさやオンリーとは恐ろしい話なので全員で席に着く。

 フランだけは理解していなかったようだが、オレとリンの慌てようから拙いものだと理解したらしい。

 

「なんかほんと色々とお世話になってすいません」

 

「ガキがんなこと気にすんな。将来身体で返してくれりゃいいよ」

 

 こうやって落とさなきゃ本当に尊敬できる大人なんだけどなぁ……。

 

「さて、んじゃいただくとしようか」

 

 コノハさんの号令と共に早速箸を手に取って朝食が始まる。

 ふかふかの白米に、少し塩辛いくらいの赤味噌の味噌汁。

 鮭の塩引きも丁度よい塩加減でご飯が進む。

 副菜の厚焼き玉子はふんわりとしていて非常に美味。

 

「コノハさん、本当に料理上手いですね」

 

「褒めても米のお代わりしか出ないぞ」


 そういってコノハさんはお茶を一啜りする。……コノハさんの前に並んでる料理が空っぽだぞ? いつの間に食ったんだ?

 

「……まぁ、いいや。んじゃ米のお代わりください」

 

「あいよ」

 

 コノハさんにお代わりをよそって貰い、再び喰い始める。

 シェンガを出たら白米なんかいつ食えたか分かったもんじゃない。今のうちにたっぷりと堪能しておかないとな。

 

「ところで、お前らこれからの予定はどうすんだ? 暫く逗留するなら逗留するで教えておいて貰いたいんだが」


「あ、私は今日にはもう旅立ちたいと思いますっ。シェンガではあと十二か所の教会を巡らなきゃいけませんから」

 

 そういえばフランの旅の目的は巡礼だったな。

 何れ別れると考えると寂しくなるが、元から途中までという約束での同行だったのだから留まれと言うわけにもいかない。

 

 しかし、これからの予定か。正直当てなんかないからな……ただ、今は一番やりたいことは決まってる。

 強くなること。ただそれだけだ。

 強くなるには戦うしかない。何かを倒せばそれだけ強くなる。

 

「オレも早ければ今日には旅立ちたいと思います。当てはないんですけど、とりあえず危険な方に行こうかと」

 

 自分で言っておいてなんだが、ロックな考えだな。

 危険な方に自分から突っ込んでいくって言う言い方はアレだが、その分だけ戦う事が増えるってわけだし。

 

「危険な方ねぇ。とすると、迷宮に挑むか未開地域に挑むか……いずれにしろ選択肢は多いな。手近で済ませるなら、ここにも迷宮はあるぞ」

 

「え?」

 

 そもそも迷宮なんてあるのか?

 

「そりゃあるさ。古代文明の遺跡なんて腐るほど存在するんだからな。この神社は遺跡じゃないが、千三百年前にシェンガで暴れ回った妖怪を封じ込める為に作られた遺跡の上に建ってる」

 

「はー……」

 

 ますますファンタジーな話だな。しかし、迷宮か。

 

「迷宮にお宝とかってあるんですかね」


 まず一番気になったのはそれ。オレの目的は強くなることが一番ではあるが、金が無ければ生きていけない。

 収入が無いのであれば、その迷宮とやらに挑むのは後回しだ。資金を貯めてから十分に準備を整えてから挑むべきだろう。

 

「あるんじゃないか。ここの迷宮の挑戦者が落としたものが大半だろうけどな。魔法効果のある品なら相当な額がつくだろうよ」

 

「ふむふむ」


 それは中々魅力的な話だな……リンの持ってる刀は不壊の効果があるらしいが、武器にかける魔法としてはポピュラーな癖に、それがかかっていれば軽く金貨数百枚は値段が上がると言うんだから。

 他にも希少な素材を材料とした武器や鎧が手に入ればさらに高く売れるだろうし、ワンドやスクロールでも発見することが出来れば高く売れるはずだ。

 

「ちなみにここの迷宮に挑んだ奴の生還率は一ケタ切ってるぞ。オレに剣の教えを乞うてた奴も結構いる。まぁ、一人でしか挑めないってのがデカいんだがな」


「挑むのは止めておきます」


 オレくらいの力量じゃまず生き残れないだろう。


「それが懸命だな」

 

 からからとコノハさんが笑う。オレは苦笑いで返さざるを得なかった。

 

「で、リンはどうするんだ?」

 

「私はニーナとの試合を行い次第、再び武者修行の旅へと出ようと思います。ニーナ、約束は忘れてはいないな?」


「あたりきよ」

 

 リンと交わした約束はきっちりと覚えてる。流石に約束を違えるほど酷い奴ではない。

 

「今日試合をして、怪我とか疲労が大した事なければ旅に出る事にする。怪我とか疲労が大変な事になったら、もう一日泊めて貰えますか?」

 

「構わんよ」

 

 約束も取り付けられたので一安心だ。これで何の気後れする事も無く試合することが出来る。

 試合も早めにやった方がいいだろう。少なくともフランが出発する前にやった方がいい。怪我をしたときはフランに治療してもらえるし。

 

「メシ食い終わったら、早速試合だな」


「うむ。負けんぞ」


「そりゃこっちのセリフさ」

 

 そして朝食はつつがなく終わり、暫く腹ごなしの軽いウォーミングアップを行った上で、オレとリンは野外の稽古場で相対していた。

 

 オレはあの大鉈。対するリンは何時も通りの剣と、腰に二刀の小太刀らしきものを佩いている。

 察しの通り、試合は真剣で行われる。例え死んでもコノハさんが蘇らせられるし、致命傷でもフランが治せるからだ。

 

 正直木刀とかでやりたい気もするが、真剣じゃないと真剣な立ち合い稽古にならないと、洒落なんだか真面目なんだか分からないコノハさんの言葉で真剣での試合となった。

 とは言え、振り切って殺すのを推奨しているわけではなく、寸止めをしたいなら好きにしろとのお達しも受けている。

 寸止めをしても確実に勝負が決まったと判断すれば、コノハさんが勝敗を告げるとのこと。


 さて、リンの戦闘方法は暫く旅路を共にしながらも殆ど知れていない。

 ただ、オレとは違って正道の剣術を修めていることがわかっているくらいだ。

 オレの方が身体能力で優っていても、決して油断できる相手ではない。

 

「では、これより我が道場の門弟、リンの試合と、流浪人ニーナの試合を執り行う。見届け人はこの私、エル=シルト=コノハが務めよう」

 

 コノハさんでも畏まった言葉遣いが出来るんだなと思いつつ、オレは大鉈をしっかりと握り直し、目の前のリンへと意識を集中した。

 

「では、始めるがいい!」

 

 そして、コノハさんの合図と同時、戦いの火蓋が切られた――――!

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