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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
旅立ちから修業まで
21/62

米は日本人の心

 メシメシとコノハさんは言っていたが、出された食事はメシだなんて呼ぶのが恐れ多い出来だった。

 何やら随分と高そうな食器に、素材の名前は分からないが、見るからに美味そうな料理の数々。

 それらがテーブルの上に所狭しと並べられ、実に食欲をそそる香りを放っている。

 

「ん、どうしたんだお前ら。先に食ってていいぞ」

 

 さっきからこの居間らしき部屋と、厨房と思わしき場所を往復しているコノハさんがまた新たな料理を手に戻ってくる。

 というか、どれだけ作ったんだ。明らかにオレ達で食い切れる量じゃないぞ。

 

「いや、先に勝手に食ってるのも悪いですし……」

 

「そーですよっ! ご飯は皆で一緒に食べるのが一番ですっ!」

 

 しかしそういうフランの尻尾はパタパタ揺れている。明らかに目の前の料理を喰いたくてたまらない様子だ。

 そういえば、尻尾丸出しって事は浴衣に最初から尻尾通す穴があったのか?

 

「まぁ、別になんでもいいけどな。これで終いだ。さ、喰おうぜ」

 

 テーブルの上にコノハさんが並べた料理もまた美味そうで高価そうだ。

 この食器とか割ったら一生かけても弁償出来なさそうだな……。

 

「ああ、それオレが作った奴だから別に金なんてかかってねえよ」

 

「あ、そうなんですか」

 

 言われてみると確かに素人っぽい……けど、食器ってよくわかんないから、もしかしたら滅茶苦茶高いのかも……。

 

「母上の作った食器が流通していたりということは無いから値段がつくことは無い。案ずるな」

 

「ああ、そうなの?」

 

 いやでも流通してないからこそとんでもない値段とかついてそうで怖いな……。

 

「ま、とにかく食おうぜ。いただきます」

 

 そういってコノハさんが席について手を合わせて食前のあいさつをする。オレもそれに追随していただきますと唱和する。細かい事は気にしない事にした。壊さなきゃいいんだよ、うん。

 しかし、コノハさん姿勢すげえいいな。背がしっかり伸びてるから凄い綺麗だ。

 リンも姿勢いいけど、コノハさんと比べると見劣りするんだよな、何故か。


「はわぁ……このおさかな凄いおいしいですっ! これ、何のおさかななんですか?」


 そういってフランがまた一枚刺身を取って口に含む。確かにうまそうだ。白身魚っぽいけどなんだろ。

 しかし、フランは何の躊躇も無く刺身食ってるな。バルティスタ共和国じゃ魚の生食は一般的じゃないはずなんだけど。


「フグだ。一度に三枚くらい喰うとうまいぞ」

 

 フグ! 前世でも食ったことのない高級魚だ。ぜひともこれは一度賞味しておかなければ。

 ちょっと失礼してフグの刺身を一枚取って、醤油らしきものにつけてから食べる。

 こりこりとした歯ごたえがあって、美味いんだけど、味はあんましないな。白身魚! って感じはするけど。

 

「美味い」


 でも、高級魚だから美味い感じがする。というか、実際に美味い。

 

「遠慮せずに喰え。どうせオレが作ったもんだ」


 この人料理もこんなに出来んのか、リンの言った通り本当になんでもできそうな人だな……。

 

「フグって捌くのが難しいって聞きますけど、料理の修業とかした事あるんですか?」


「いや、したことなんざねえよ。適当にフィーリングで捌いた」


 ……今、なんつった、この人。

 

「母上、記憶が確かならフグには毒があったと思うのですが?」

 

「細かい事は気にするな。腹下すくらいで済む。死にゃしねえよ」

 

「死ぬよ! 思いっ切り死ぬよ! 一口で十回は死ねるよ! 腹下す前に息の根が止まるよ!」


 やべえええええっ! 喰っちまった! どうすんだよ!

 

「冗談だ。フグは今までに何回も捌いたことあるから大丈夫だ。毒のあるとこは捨てた」

 

「そ、それ信頼していいんですよね!?」

 

「あのな、オレでも毒喰らったら死ぬんだぞ。気を付けてるに決まってるだろ」

 

 それが信用ならねえから困るんだよあんたは……!

 

「それに毒喰らっても死んだりはしねえだろ。死ぬ前にフランシスカに【アンチドート/解毒】して貰えばいいんだから」


「あ、ああ……確かに……」


 フランならそれくらい使えるだろうから、確かに心配する事は無かったのかもしれない。

 いやでもわざわざ毒を喰らいたいって思うことはないぞ……。

 

「つうか、リン。お前はなんでそんなに落ち着いてんの……」

 

「ただの魚の毒なら【内養功】で解毒出来るからな」

 

 ああ、こいつも心配する事ない立場なのか……毒喰らったら死ぬのオレだけ?

 

「ははは、オレなんか魔法は一個も使えないから大丈夫だ。死なばもろともだ。一緒にあの世行って極楽浄土見物してから帰ってこようぜ」


 なに散歩して桜でも見に行こうぜみたいなノリで死ぬの肯定してんだよこの人は……。

 

「一応言っておくと、母上も【内養功】が使えるから、死ぬのはお前だけだ」


「……あとでその【内養功】っての教えてくんない?」


「それは構わんが、覚えられるとは限らんぞ」


「無駄にはならんだろ……たぶん」


 さすがに毒で死ぬのは勘弁だ。それも死ぬ危険性の無いはずの食卓で死ぬのは。

 そう思いつつ、再び料理に箸を伸ばす。食欲は消えてしまったような気がしたが、料理を食べ始めれば食欲もすぐに戻ってくる。

 

 しかし、本当に美味い。素材がいいのもあるんだろうけど、コノハさん本当に料理上手いんだな。

 

「フッ……」

 

 なに自慢げに笑ってんだこんにゃろう。心読める人はやり難くて仕方ない。

 こうなったら頭の中でコノハさんを散々に汚してだな……。

 

「いや照れるな。そんなにオレのことが好きなら、すぐに布団敷いてやろうか」

 

 だめだ、この人には通用しない。

 

「ま、冗談はさておき、しっかり食えよ。残したら捨てる事になるからな。まぁ、残すことはないだろうけど」

 

「いや、この量はさすがに無理があるんじゃ……」

 

 明らかに十人前とかの量があるぞ。オレは相応にしか喰わないし、リンも大食漢というわけではない。

 フランはかなり食べるタイプだが、それでも大人と同じくらい喰うと言うだけで、とんでもない大食漢ではないのだ。

 コノハさんが大食漢なのかと思えばそういうわけでもなく。確かに健啖ではあるが、見た目相応にしか食べないようだ。

 

「なに、どうせ全部食うことになるから大丈夫だ」


「はぁ……」


 この人には本当に何が見えてるんだろうか……。

 

「ああ、とりあえずお前らのスリーサイズはバッチリ見えてるぜ」


 ひっくり返りそうになった。


「どうしてあなたはそうオチをつけるんですか……」


「ニーナ、突っ込んでいてはキリがないと学んだはずだろう」


「ああ、うん……」


 よくこんなトンチキと八年も母娘やってられたな、こいつも。

 

「まぁ、とにかく腹いっぱい喰えよ。お代わり一杯あるからな」


 そういってコノハさんが自分の茶碗にぺしぺしと飯を盛る。

 おひつによそってあるが、あの米も軽く一升くらいありそうだな……。

 まぁ、喰えるだけ喰っておくか。白米に味噌に醤油。日本人の心だね! 和だね! 今のうちに堪能しとかなきゃな。シェンガ出たら食えるとも限らん。


「ようし、コノハさん、お代わり!」


「おう、ドンドン喰え。米は好きか?」


「日本人の心でしょう」

 

「そうだ。日本人の心だ。だからガンガン喰え」

 

 よそって貰った米を受け取り、さわらっぽい魚の西京焼きのようなものをおかずにメシを喰う。

 うん、やっぱり、米だろう。パンよりご飯だ!

 

 

 

 それからしばらくして、オレ達全員はメシをしっかりと堪能して食休みに浸っていた。

 ああ、なんかこんな世話になって悪い気分だ。けど今は腹いっぱいでお返しを考える気分にもなれん。

 

「まだメシあるぞ。お代わりいるか?」

 

「いや、もういいです。これ以上食ったら吐く……」

 

「それもそうか」

 

 今はとにかく横になってたい。

 フランも幸せそうに転がっている。リンは座ったままお茶を飲んでいる。

 

「さて、食休みが終わったら稽古をつけてやるからな。今のうちに心の準備をしとけよ」

 

「今動いたら吐きそう……」


「動く必要のない稽古だから大丈夫だ。辛いけどな」


 座禅とかの精神修養を重視した修業だろうか。それともさっき教えてくれって頼んだ、えーと、なんたら功ってやつだろうか。

 まぁ、何れにしろ今はぐだぐだまったりしてたい。

 

「しかしフラン、お前妊娠したのか。相手は誰だ。お姉さん許しませんよ」


 フランの腹は膨れ上がり、ゆったりとした浴衣の上からでもぽんぽんに張っているのが分かる。妊娠五か月ってところか?

 

「ふわぅ……私の方がお姉ちゃんですよーだ。あんまりお姉ちゃんをからかう子にはこうですっ」

 

 どすっ、とフランのチョップがオレの腹に命中した。

 

「うおうっ! 吐いたらどーしてくれんだ! 顔に吐くぞ!」

 

「ひええっ、外で吐いてくださいようっ」


 だったら腹を攻撃するんじゃねえ。

 

「吐いたら自分で片づけろよ。手動で」

 

 コノハさんに嗜められた。

 しかし、手動でって、自動で片づける方法なんてねえだろ。いや、わざわざ断りをつけたんだからあるのか?

 

「フラン、掃除する魔法とかあるのか?」

 

「えー? ああ、ありますよー。私は癒しの力を重点的に学んでますから使えませんけどー」

 

「あるのかー。便利そうだなー」

 

 魔法って本当に便利だなぁ。

 

「マジックアイテムがあれば、そういった魔法を使う事も出来るんですけどね」


「ワンドとかスクロールのことか?」

 

「そーですよー。ただあれは使ったらそれで終わりなんですよ」

 

「それは知ってる」

 

 もう一月近く前になるが、リウィアにスクロールを使わせてもらったからな。

 

「そういえば、ああいうのってどうやって作るんだ?」

 

「羊皮紙に呪文回路を描くだけですよ。ワンドはわからないです。専門の職人さんがいますから」

 

「ふーん……」

 

 まぁ、自分の使える魔法のスクロール作ってもしょうがねぇしなぁ。

 というか、オレの使える魔法は【フレイムスロワー/火炎投射】と【サモン・ウォーター/召喚水】だけだ。こんなもん作ってもしょうがねえ。

 ああ【シールド/盾】も一応使えるかもしれん。スクロールで見ただけだが、一応呪文回路は覚えてるし。

 

 まぁ、どうでもいいか。

 

 

 

 その後しばらくグダグダとして過ごし、三十分も経って腹がこなれてきたところで、唐突にコノハさんが立ち上がった。

 

「よし、これよりお前達に稽古をつける」

 

 言い放った言葉も唐突だった。

 とは言え、稽古となるといつまでも転がっているのも失礼だろう。起き上がり、その場に正座する。

 

「母上、稽古と言っても何をするのですか?」

 

 リンとフランもすぐ横で正座の体勢だ。なんかはたから見ると変な光景のような気がする。

 

「うむ。ぶっちゃけ、お前ら全員土台が違うからなぁ。それに、血の小便が出るまで打ち込み稽古するとか、白木の木刀が血で染まるまで素振りするわけにもいかんだろ」

 

 とんでもないスパルタだな。というかそれ本当に稽古として大丈夫なのか。

 

「だから、お前らの胆力と根性と気合いと度胸を鍛え、潜在能力を引き出すことにした」

 

「すみません、胆力も根性も気合も度胸も全部同じ意味合いに思えるんですが」

 

「ああ、全部同じ意味合いだ」

 

 じゃあなんで全部言ったんだ。いやいや、突っ込むな。突っ込んだら疲れるだけだ。いやもう遅いけど。

 

「さて、リン、ニーナ。お前達はお互いにとって足りない物をお互いが持っている」

 

 お互いが足りないものを、お互いが持っている?

 オレが持っているものをリンが持っておらず、リンが持っているものをオレが持っていないという事。

 それは、一体なんだろう。剣の腕、という単純なものではないと思う。

 

「リン、お前には勝とうと言う気概が足りない。いや、正しくは、今の瞬間に全てを賭ける姿勢が身についていない。これは慣れるしかないから仕方ないともいえるがな」

 

「全てを賭ける姿勢、ですか」


「そして、ニーナ。お前には立脚点が無い」


「はぁ、立脚点、ですか」


「そう。生きて、何を成したいのか。命を賭けるに値する程の理由がない。それは時として脆さとなる」


「何を成したいのか……」


 何を成したいのか。そんなことは、まだ分からない。

 ただ漠然と、もっと強くなって、故郷に帰って、幸せに生きていきたいと、そんな想いがあるだけ。

 自分が命を賭けてでも成したい事なんて、早々思いつきもしない。

 

「だから、お前達にはそれを身に着けて貰う。フラン、お前はやるか? お前はどっちもちゃんと持ってるから、やる必要はないだろう」

 

「うー、お腹が苦しいのでお休みさせてもらいますー」

 

 締まらねぇな……。

 

「さて、それじゃあ、稽古を始める。オレの目を見ろ」

 

 そういって、コノハさんがこちらに視線を向けた。

 その黒水晶のように闇色の瞳を覗き込んだとき、一瞬気が遠くなって、次の瞬間には、別の場所に居た。

 

「ここは……」

 

 何処までも続く桜並木と、それに挟まれた石畳の道。

 涼やかな風が桜吹雪を吹かせる。ここは、何処なんだろう。

 

 すぐ隣にリンが居る事に気付いた。事情を聞こうとして、リンも困惑気味な事に気付いて、聞いても大して意味のある答えは帰ってこないだろうと予感した。

 

「――――構えろ」

 

 静かな、静かな声が聞こえた。

 

 石畳の先、石段の半ばにある踊り場に、剣士が居た。

 直視すれば、気が狂いそうになる程の美貌。

 仄かな桜色の生地に、桜の刺繍が施された振袖。

 そして、手には途方もない長尺の刀。

 

 そんな姿をした剣士が居た。

 

「構えねば、死ぬぞ――――!」

 

 そして、その手の刃が閃いたとき、世界が、切り裂かれた。

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