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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
旅立ちから修業まで
17/62

旅の醍醐味はメシだけど、これはなんか違うと思う

 拳骨されてめそめそ泣いて、泣き止んだと思ったらむくれて喋らなくなったフランシスカをなだめるのに、軽く三十分はかかってしまった。

 

 まぁ、なだめると言うよりは、勝手に機嫌を直したという方が正しいだろうか。

 と言うのも、フランシスカの腹が鳴り、そこでようやく自分の腹が減っている事に気づいたらしく、ご飯にしましょう! と言い出したのだ。

 そして作っていたシチューを全員分とりわけ、自分の分を一口食べたらニコニコして食べだしたのだ。

 もしこれからフランシスカが怒ったりむくれたら、適当に何か食べ物を与えようと学んだ瞬間だった。

 

「ところで、このシチューの材料はどっから出て来たんだ? いや、美味いけど」


「あ、これですか? これは私の持ち物ですよ。やっぱり旅の醍醐味は美味しいごはんですよねっ!」


 確かにその通りなんだけど、なんか意味合いが違う気がするぞ。

 普通、旅先で食べるものであって、自分で作るもんではないよな?

 

「うむ、美味だ。フランシスカ殿は料理が上手いな」

 

「はいっ! 教会では料理もよくしてましたから! 皆さんも美味しそうに食べてくれてましたっ!」

 

 そりゃお前がニコニコしながら食べてる姿見てたら、自然と頬も緩むだろうよ。

 しかし、このシチューは本当に美味い。トマトソースと赤ワインを贅沢に使ったデミグラスソースが非常に美味だ。

 

「しかし、フランシスカ、お前の持ち物の大半はこういう食料なのか?」


「はいっ。あ、でもトマトソースは瓶詰ですよ。トマトから作ったわけじゃないです」


「まぁ、それもそうか」


 コルクで詮をして蝋で塗り固めると、缶詰程ではないが長持ちするようになる。オレの持ってきているピクルスもそのようにして保存してある。

 しかしトマトソースか。オレも持ってくればよかった。赤ワインもすぐには悪くならないだろうから、美味いシチューが食えたのに。

 

 まぁ、今更言っても仕方ない事だな。今はとにかくこのシチューを味わおう。

 

「ところで、オレ達はシェンガに向かってる途中だが、お前の目的地は何処なんだ?」


「私もシェンガですよ。シェンガにも教会はありますから」

 

「そうなのか?」


「む? うむ、教会はあるぞ。私の家も教会だ」


「え、お前の家って教会なの?」

 

 教会よりも神社の娘って言われた方が納得出来るぞ。

 この世界の教会は特定の神や宗教の為の施設ではなく、単に神に祈るための場だからシェンガに教会があってもおかしくないのだが。

 

「何か変か?」


「教会の人間は片っ端から修道服を着てるものだと思ってた」


 別に貞淑であれ、みたいな教えがあるわけではないが、リンみたいな痴女同然の格好をしろと言う教えも無い。


「それは偏見ですよう。それに、シェンガはここらへんとは色々と風習が違いますから、教会もこちらとは様式が全然違うんですよ」


「そうなのか」


「うむ。特に特徴的なのが、鳥居と言われる門でな。これは神のおわす神域と、人の住まう俗界を隔てる結界を表している」


「お祈りの言葉もシェンガ特有なんですよねっ! 私、シェンガのお祈りは神秘的で好きです!」


「ああ、大祓詞という。私ももう諳んじれる」


「それは神社っていうんじゃ……」


「シェンガではそういうな。知っていたのか?」


 神社が教会って、この世界はやっぱりよくわからん……。

 

「して、シェンガの巡礼を終えた後はどうするつもりなのだ?」


「えっとですね、その次はルシウス王国に行きます」


 ルシウス王国ねぇ。そういえばこの世界の地図って見た事ないんだよな……せめて国の位置関係くらいは把握しとかないと拙いかな。シェンガについたら地図探してみるか。


「あの、ルシウス王国に行くつもりとか、ありません?」


「んー? 特に予定はないからなぁ。シェンガに行ったあとは暫くそこで行動するつもりだけど、もしかしたら行くかもしれん」


「旅の目的とかってないんですか?」


「特にないなぁ」


 強いて言うなら美味い物や珍しいものが見たいって所だが、余り当てはないからな。

 ああ、強くなりたいって言うのもあるが、これは何処かに行けば強くなれるってわけでもないし、シェンガにつけばリンのお袋さんに剣を教えて貰えるかもしれないからな。

 あ、剣と言えば……折れちまったんだよなぁ。まぁ、シェンガに行けば手に入るか。痛い出費だな……。


「まぁ、暫くシェンガに滞在するつもりだが、その後の予定はない。もしかしたらルシウス王国に行くかもな」


「その時は護衛とかってお願いしてもいいですか?」


「ああ、金貨三百枚でいいよ」


「高いですっ!」


 適当に吹っかけたけどやっぱ高いのか。

 

「まぁ、金とかはその時に決めりゃいいさ。さて、ごちそうさん」


 空になった器を水で軽く洗い流し、水気をふき取ってから背負い袋に放り込む。

 水気をふき取らないと、内部でカビが出てしまうとデリックに注意されていたのだ。ちなみに実体験らしいが……この背負い袋の事じゃないだろうな……。

 

「ところでフランシスカ。オレが動けるようになるまでどれくらいだ?」


「どうでしょう? たぶん一週間もあれば動けるようにはなると思いますけど、回復次第ではもっと早く動けるようになると思いますよ」


「そうか」

 

 何れにしろよく喰って寝てだな。怪我はそうして治すのが一番だ。

 まぁ、今までさんざん寝てたせいであんま眠くないけど。

 

「ところで、ニーナ」


「あん?」

 

 地面に敷いていた外套の上に寝転がった所でリンが話しかけて来た。

 何やら表情が重々しい。

 

「しゅこひ、話があるのだが」


 噛んだ。

 

「ごほん……少し、話があるのだが」


「あ、ああ、なんだ?」


 何事も無かったかのようにやりなおしたので、こちらも何事も無かったかのように応じる。

 

「その、すまなかった!」


 そう叫んで、リンは土下座した。

 土下座。それは最上級の謝意を示す行い。

 この世界にも土下座ってあるんだな、とか一瞬だけ思い浮かんだが、オレはリンの行動の意味が分からず困惑せざるを得なかった。

 

「すまなかったって、何が?」


「責任をお前に押し付け、挙句お前に全ての重荷を負わせてしまった。本来ならば、私こそが戦うべきであった」


 ああ、あの討魔と戦った時の事か。

 何言ってんだか、こいつは。

 

「お前は子供で、オレは年上。だからオレがお前を守るのは当たり前だろ。そういう事だ。気にしなくていい」


「いやしかし! 私は闘う力があった! ならば私も戦うのは当然だ! 何より、あの場に私が居たのは私の選択の結果、ならばその責をお前に問うのはお門違いだろう!」


 ああ面倒くせえ。こいつ何を言っても絶対納得しないだろ。

 

「責任云々はオレも悪い。あそこに行ったのはオレの選択の結果でもあるんだ。お互い様だ、それは気にしなくていい」


「だが……」

 

「ああもう面倒くせぇ! じゃあ次はお前がオレを助けろ! それで貸し借り無しな!」


 それでオッケー。万事解決。次があるかは知らんが、それならこいつも納得するだろ。うん、それでオッケー。


「わ、分かった! 任せておけ! 一命を賭してでもお前を守る!」


「ああ、死なれたらめんどいからほどほどに頑張って」


「あの戦いでお前は死にかけたのだから、私も身命を賭す心持ちでなくては……」


「面倒くさいからそういうのやめろ」


 命賭けられても困るんだよ、そんなもん。

 

「ところで、年上とのことだが、お前は幾つなのだ?」


「八歳」


「同い年ではないか。私も八歳だぞ」


「ああ、そうなのか」


 同い年くらいだろうとは思ってたから別に驚きではないが、こんな八歳児も珍しいよなぁ。

 でもまぁ、前世とは世界観自体が違うからな……子供もすぐに大人にならざるを得ない世界だ。それを加味すれば、おかしくは無いのかもしれない。

 

「お二人は八歳なんですか。私は九歳ですっ! 私がお姉ちゃんですね! えへへ……」


「よう姉ちゃん、小遣いくれよ」


「ふぇぇ……姉妹でそういうお金のやりとりはいけないと思いますっ!」


 まぁそれもそうか。逆にくれたら困ってたところだ。

 

「ところで、ニーナさん。具合悪かったりとかしないですか?」


「ああ、別に何ともないけど?」


「じゃあ、かゆい所とか、お風呂入りたいとか」


「ねえよ」


「そうですか? 何かあったら何でも言ってくださいねっ!」


「じゃあ頼みがある」


「はいっ! なんですかっ、なんでもやってあげますよっ!」


「うざってえから黙れ」


「酷いですっ!」


 お姉ちゃん風吹かし始めやがったよコイツ。

 

「ところで、ニーナさん。頭撫でていいですか?」


「触ったら噛むぞ」


「ひええ、怖いです」


 言いつつも撫でてんじゃねえよ。

 噛み付いてやろうと頭を起こしたら腹筋が痛くて起き上がれない。死ぬ。

 

「ぐぐぐ……!」


「ふわー……ニーナさん、髪さらさらですねっ。気持ちいいですっ!」


「うぜえ、触るな」


「いやですっ! もっと髪伸ばさないんですか?」


「前は背中くらいまではあったよ。燃えたから切ったんだ」


 ヅラ用途に売れるという世知辛い理由からだがな。

 

「じゃあもっと伸ばしましょうっ! こんなにさらさらなんだから勿体ないですっ!」


「あーはいはい」

 

「ふむ、確かにさらさらしていて気持ちいいな」


「テメェまで撫でんな、蹴るぞ」

 

「やってみろ」


 蹴ってやろうと足を動かしたら腹筋と足に激痛が走った。


「うごごご……」


「ニーナさんをからかって遊んじゃだめですよっ、怪我人なんですからっ!」


「どうせ三日もあれば治すぞ」


「そんなに早く治るか!」


 いや、治るような気もするな……左腕の傷も結局一週間くらいで治ったし。筋肉痛なら三日くらいで治るかも。

 

「しかし、ニーナが治るまでは動けんのだから、早く治すのだぞ」


「あー、前向きに善処する」


 確かに、オレが動けるようにならなければ動けないのは確かだ。

 リンの目的はオレの案内と試合なのだから。

 フランシスカの方はどうだか知らんが、まぁどうせ護衛目的についてくるだろう。そうなればオレ達が動けるようになるまで動けないのは同じだ。

 

「なんでしたら、ぱぱーっと治しちゃいますけど」


「それは止めておいた方がよかろう。少しでも丈夫な体になった方がいい」


「そうだな、オレもその意見に賛成だ」


「そうですかー。でも緊急事態になったらぱぱーっと治しちゃいますからねっ」


「はいよ」


 まぁ、確かに緊急事態に陥ったらそうも言ってられないな。討魔が出てくるとか。

 あれ、そういえば討魔ってどうなったんだ?

 

「なぁ、あの時の討魔ってどうなったんだ?」


「ああ、討魔の事か。いつ聞かれるかと思っていたが……忘れていたな?」


「すっぱり忘れてた」


 メシ食ったりあれこれとあったしなぁ。

 

「討魔の事だが、お前が倒したのだろう?」


「倒したけど、倒せないんじゃないのか?」


「異界化しているのであれば倒せる。彼奴等はこの世界の物質で肉体を形作っているが、異界の物質で肉体は作れんのだ。それ故、異界化しているのならば倒せば出れる」


「なら、異界化させてから倒せばいいんじゃねえの」


「異界化すれば討魔の強さは増すのだぞ。加えて言えば、異界では人間はそう長くは生きられん。更に言うと入るは易く出るは難しなのだからな。討魔が出れば逃げを打つのが常套だ」


 あー、それもそうか。こっちが強いとしても、相手が逃げを打ったりしたら拙いもんな。結局は分の悪い賭けになっちまうのか。

 

「それに、あの討魔、よくは見れなかったが、相当の強さのはずだ。私とお前でかかったとしても容易い戦いではなかったろう……」


「そんなのに勝てたニーナさんって、もしかしたら本当にベルセルクなのかもしれませんねっ、いえ、きっとそうですっ!」


 一歩間違ったら死んでたような戦いだったけどな……。

 もし、もう一回やれって言われたら金貨を天井まで積まれても首を縦に振らんぞ。部屋いっぱいならちょっと迷うかも。

 

「まぁ、オレがそのベルセルクだとしても、次は勘弁願いたいところだね」

 

「その時は私に任せておくといい! 今の私は以前の私とは一味違うのだからな!」

 

 そういってリンが無い胸を張る。

 

「何が違うか分かるか? 馬鹿さ加減が増したのか?」


「えっと、どうでしょう? 胸が大きくなったんでしょうか?」


 言われて胸を見てみるが、別に大きくなっているようには見えない。ぺったんこなままだ。


「違うわぁ! その時になったら見せつけてやるから楽しみにしているがいい!」


「いや、あんなのはもう勘弁だから、見れなくてもいいよ、べつに」


「う……まぁ、確かにそうなのだが……」


 そういってリンがうなだれてしまう。何があったんだ?

 まぁ、もしも討魔が出るようなことがあれば、その時はリンに任せればいいな。

 とにかく、今は身体を治さなきゃあなぁ……。

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