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親友ポジションの憂鬱

「春花ちゃん、私、――と恋人になったの」


 結衣様? 何を言ってるの? いつの間に? 恋人って、そんな簡単に。


「彼、私のこと大切にしてくれるって」


 わたくしだって貴女を大切にいたします。


「もうやめてくれない?いくらそう言ったって無駄じゃない。私達……女同士なんだもの」




 そこで桜川春花は目が覚めた。瞬きすると涙がこぼれた。




「学校はどうだね」


 春花はいつも当主、桜川春生(さくらがわはるお)とともに豪華な朝食をとる。人が見たら羨む光景だが、春花にとって目の前の男とともにする食事は義務だ。義務を喜んでする人間はいない。春花は父親が大嫌いだった。


「いつも通りですわ」


 当たり障りないというより、そっけない返事だけして食事を始める。さっさと食べ終わって結衣に会いたかった。一刻も早く正夢になっていないか確認したいのに……。


「なら構わん。しかしお前なら県下一の高校にも通えたものを。それに友人も、相応しい付き合いというのがあるだろう?」


 この男は履き違えてる、と春花は思った。春花からすれば、この父親は放任主義と育児放棄を混同している。口元が怒りで引きつるのを必死で押さえ、愛想笑いを浮かべて答える。


「身分違いの付き合いも、社会勉強のうちですわ」

「そうか。まあ一理あるな」

「はい。……ご馳走様でした」





 迎えに行った守谷結衣家では、いつも通り結衣様が出てきた。三兄弟もおまけで出てきた。

 出会ったばかりの頃、彼女の口から親戚に絶縁されていると聞いたのに、彼らは今頃やってきた。確か、親である結衣様の親戚は今海外で……外国でも日本人学校くらいあるのに。それに結構裕福らしいと……だったら別に結衣様の家を頼らなくても……あら?何だか、頭にもやが……。


「……累さん、よければわたくしに貴方の両親について教えてくださらない?桜川家が何か力になれるかもしれませんわ」


 長男のルイに春花がそう尋ねた瞬間、次男のシュリーが頭に手を翳す。洗脳だ。異世界の魔法使い一族で王族。公にすれば騒ぎにしかならない情報だからとはいっても、親友が魔法をかけられるたび結衣は辛そうな顔をする。


「うわー。うわー。この前かけたばっかなのに変なの。……結衣お姉ちゃんと一緒にいたから耐性がついた、なんてことないよね?ルイ」

「それだったらとっくに魔法が効かなくなっていいはずだ。安心しろ、万一の時はこちらで相応の対処をする」


 三男で末っ子気質のレオは他人事である。レオにとって結衣は確かに想い人だが、その親友をどうとるか。親友が大事に思うなら自分も、もしくは好きな人は好きな人、その親友はまた別の存在と割り切るか。レオは後者だった。春花が焦点の定まらない目になるのを興味なさ気に見送る。学校が始まる時間はレオが一番早い。





「うう……どうしたのかしら、目眩が」


 食事睡眠運動。わたくしは健康には気を遣っているほうだと思っていたけれど。このところ三兄弟と会うと、時々貧血のような症状が出る。


「春花ちゃんも女の子だもの。貧血くらい起こすよ」


 結衣様がフォローしてくださる。最近ずっと、話題は三兄弟のことばかり。今までは母君のことかわたくしのことかだったのに。……でも、結衣様ご自身があの三兄弟を、親戚と復縁できたことを喜んでいるから何も言う事が出来ない。同居したばかりだから、話題がそれ一辺倒になるのも仕方ない。時がくればわたくしに、また……。


「俺と朱里は先に行っている。お前達は後から車で来い」


 累と朱里にまで気を遣わせてしまった。本当に、わたくしはどうしたのだろう。間違っても他人に気遣われる人間じゃなかった。それなのに。


「行こうよ、春花ちゃん」


 どんなもやもやも、貴女を見たらふっとんでしまう。結衣様は少しだけ、ずるい。



 家で厳しくしつけられた私はどんな時でも敬語だった。亡き母の遺言で中学はその母校へと通ったけれど、わたくしはひたすら浮いていた。


「いつでも敬語って他人行儀すぎ」

「趣味がオペラ観賞で得意なことがバイオリンって、住む世界が違うよね」

「気取ってない?一々行動が癇に障って仕方ないわ」


 陰口を聞いて泣いて帰った私に父は言った。


「嫉妬だ。それか愛情の裏返しというものだろう。全くそんなことで泣きつくとは桜川家の者が情けない。私がお前くらいの時には文句を言う者達には成績で一位を取って黙らせたものだ。廊下に張り出された順位表を見た無礼者達の表情といったら……先生方も困った事があったらいつでも相談しなさいと、向こうから全面協力を言ってきたものだ」


 泣いて相談して自慢話されるとは思わなかった。それに廊下に順位表とかいつの時代ですか、もうやっていませんよ……と申し上げる気力もなかった。あれから父を信用しても信頼していない。



 中学の頃、特に初期は地獄だった。お昼はクラスで班をつくって食べるけれど、わたくしの机だけいつも皆と離れていた。近くの女の子がボソッと「桜川さんと近いと男子に比べられるから嫌。箸使いが何よ、食事くらい好きに食べたいわ」と言ったのを覚えている。……そう。わたくしが悪いのですね。


「わー、桜川さん綺麗に食べるね!」




 あの時。結衣様がそう仰った瞬間。初めて、褒められたと思った。



 自宅についてからずっと彼女の顔が頭から離れなくて、考えるだけで胸が苦しくて。それが恋だと気づいた後は、自分でもさすがにやりすぎと思うくらい一時暴走していた気がする。


 今でも、嫉妬が抑えられなくなる。どうして、彼女はわたくしだけを見てくれないのだろう。いいえ、本当は分かってる。彼女はきっと普通に結婚するのでしょう。それでも……。


 貴女を見て、幸せだと思ううちは一緒にいたい。そう思っている。例え貴女が振り向くことはなくても。






「……しかし、桜川とはその、本当に友情なのですか?」


 携帯電話に出ていたら結衣様のいる図書室に行くのが遅れてしまった。五月の夕暮れ。おそらく最も人が少なくなる時期。結衣様は石岡朱里と二人で話していた。ドアの向こうから聞こえてきた会話にわたくしは思わず立ち止まる。


「友情だよ、私は」


 結衣様の声。分かっている。そんなのとっくに。それでもいいから、貴女の側にいるのだもの。


「酷ですね。彼女にとっては」

「ふふ。本当に……。昔、一人でいるのが可哀相で少し喋ったらすごい懐かれちゃって」

「そのような話、自分に聞かせてどうする気ですか」

「陰口じゃないよ。春花ちゃんときたら、優しくて美人で文武両道でひたすら一途。重いって感じるのはそんなに酷い?大体さ、仲間外れにするほうが不思議だった。いいところのお嬢様なんだから見返りだってあるだろうに、中学生はまだ子供だね」


 ぼろぼろと涙がこぼれてくるのが分かった。ただショックで。


「……迷惑なら、友達やめたらいかがですか?」

「やだよ。シュリーだって味わったでしょ、この世界のぼっちの洗礼!それにうち貧乏じゃん」

「最低ですね」

「どーも」



 トイレに駆け込んで、涙がとまるまで、目の充血が治るまでじっとしていた。時間が経って、何事もなかったかのように二人の前に現れた。


「少し長くなってしまって、申し訳ありません」

「いいよ。それに丁度閉館時間だし、一緒に帰ろうか」


 彼女も何事も言わなかったかのように振る舞っている。当たり前だけど。


「自分は小塙の家に寄りますので、これで失礼します」


 朱里さんが去って、二人で帰る。今まで、それだけで幸福だったのに。



「……それで累がね」


 車の中で楽しそうにおしゃべりする結衣様。結衣様の話題は意外にも神栖累が一番多い。好かれてる結城礼緒でも同学年の石岡朱里でもなく。婚約者だからだろうか。本人達を見る限り、血縁で固めたい親の意向で無理矢理という感じだから心配はしていないが。それにもしそうなったら、想いあって結婚するより隙が生まれるからわたくしとしては歓迎する。それに好かれたくて大人びた行動する礼緒や落ち着いた朱里より、突飛な行動が多い累が印象に残るのは妥当だろう。


「楽しそうで何よりですわ」

「うん!何だかんだで彼らが来てから、滞在費が出て生活の心配が減ったからね」

「……わたくしが力になりますのに」

「え、駄目だよ、友達って利用するものじゃないでしょ」


 時々、本当に時たまだけ。結衣様の考えが分からなくなる時がある。利用すればいいのに。そうしたらわたくしは、もっと貴女に親しくする権利が得られるでしょう? ホストに貢ぐ女のように。


 やがて車が守谷家について、結衣様が降りる。


「ありがとう、また明日ね!」

「はい、また明日……」





 その夜、寝室でひっそり考える。わたくしのしている事は何なのだろう。自己満足にすぎないのではないか。それに、側にいられればいいなんて思っていても、利用されているだけと実感すると傷ついてしまう。何と勝手なのか……。結局わたくしは、見返りがほしくてたまらないんだわ。


 自己嫌悪で眠れぬ夜を過ごしていた。真夜中くらいだろうか、ふと携帯が鳴る。これは結衣様専用の……!


 三兄弟が来て携帯を買うことになった結衣様に無理にお願いして、わたくしと結衣様だけの携帯を購入した。だって、悔しくてたまらなかった。もし携帯を購入することになったら、一番に私のアドレスを、と思っていたのに、まったく予想外の形で期待が裏切られた。親戚だからと無条件で一緒にいられるあの三兄弟と同列にいれられるのが我慢ならなかった。多分、わたくしは携帯電話に夢を見すぎている。


「もしもし? 結衣様?」


 犬のように条件反射で携帯に出る自分。出てからまた自己嫌悪した。


「……春花ちゃん?」


 おかしい。結衣様に元気がない。それに、声が怯えているような……。反感を覚えても、結局わたくしは結衣様を心配してしまう。


「どうしましたか?何かあったのですか?」

「助けて……」

「え?」

「怖い……殺されるかも。ルイも、レオくんも、何かやばいよ……」

「落ち着いてください、一体、何があったのです?」

「……言えない、でもとにかく危険な状態っぽい……。明日、会えないかも……」


 わたくしは飛び出した、運転手は寝ていたから、タクシーを呼び出して結衣様の家へ。






「まだ何も進展していなかったとは。いけませんよ殿下方。これ以上王に心配かけるようなことがあっては。我らも長い不在を危惧しておりますゆえ」


 守谷の家で、結衣と三兄弟が夕飯を食べ終わってくつろいでいると、突然地震が起こった。そしておさまった瞬間、空中に丸いカプセルのようなものが出現し、中から初老の男達がわらわらと出てきた。そして結衣を一瞥し、三兄弟に目を向けて言った。


 異世界ユージェルの、三兄弟の関係者だ――結衣はそう確信した。カプセルのようなものに見覚えがあったからだ。


「……守谷結衣の意向で決定される以上、長い期間の検討は必要不可欠だろう」


 ルイの言葉で結衣は思い出した。忘れかけていた、三兄弟のここに来た理由。次期王を決めるため。


「ルイ殿下、いけませんねえ。社交辞令が分からない貴方ではないでしょう。レオ殿下、なにやら通信でこの女を妾にとご所望とか」


 彼らは結衣など目に入ってはいない。くたびれた家にあからさまに嫌そうな顔をし、「みすぼらしい服だ」と三兄弟の着ているものを非難する。まるで彼らのほうが王のようだった。結衣は嫌な予感を覚える。


「妾とか言うな! 正式に妻にするんだ!」

「……よくお考え下さい、この女には選択肢があるのですよ。選ぼうと思えばルイ殿下を選べるのです。そしてルイ殿下も」

「!」

「別にここで決める必要はありません。ユージェルに連れ帰っても問題はないのです。ただ異邦人がうろちょろされても困るから、相応の対処はさせてもらいますがね」

「ちょ、ちょっと何いってるの貴方達! 人の家で!」


 身の危険を感じて思わず横槍を入れる結衣。


「……安全が確保されていると思うから傲慢になる。控えよ女、我らは貴様と話すような身分ではないのだぞ」

「ちょっと!何様よ! それなら私彼らと話してるんだけど!」


 そう言って三兄弟を指差す結衣。彼女はあくまで地球の価値観しか持たない。


「ルイ様、あまりにも悠長かつ優しすぎでしょう。貴方様なら魔法でこの女を喋る置物にできるでしょうに」

「え」

「魔法なら目を抜き耳を削ぎ手を切っても痛みはないのですから、遠慮する必要はないのですよ。レオ様も、これなら誰かにとられる心配もなくなるでしょう?」

 

 思い出した。

『脳を破壊して口だけが動く魔術でもかけたほうがマシか?』

 まさか、経験者なんてことは……。ふとルイを見たら考え込んでいる。レオを見ると何か迷った表情をしている。


「お待ち下さい。元老院の皆様。彼女にはあくまでこちらに付き合ってもらっている形です。それに以前事故があり、彼女は魔に耐性があります。ですのでやはりこちらで長期戦になっても、というのが……」


 シュリーが結衣と元老院、継承者の二人の間に割ってはいる。まともな感性だと結衣は一瞬ほっとする。


「そうですか。まあ、生きていれば問題ありませんので」


 結衣は逃げた。魔法に強い鍵あのあの部屋へ。それにあそこには……。


「春花ちゃん……お願い出て……春花ちゃん……」






「結衣様! 一体なにが……!?」


 飛び込んできた春花が見たもの。結衣の部屋の前でぞろぞろと昔の貴族のような服装をした男達が並んでいる。


「……集団泥棒?」

「小娘、我らをそのようなものと一緒にするな」


 そう言われても……なんにせよ怪しすぎる。携帯で警察に連絡しようと取り出す、が。


「きゃあ!?」


 携帯電話が爆発した。あまりの事態にしばし呆然となる。


「……そうか、桜川を呼んでいたのか……」

「累さん!何事です!その方々は貴方の知り合いですか?」

「何故お前に答える必要がある。魔法も使えないお前に」

「え……?」


 彼は何を言っているのだろう?もしかしなくてもあの集団は新手の詐欺集団だろうか。催眠術とか?


「ルイ様!」

「シュリー、黙っていろ。……結界は張っておいたんだがな。数日で耐性がつき過ぎたか。何にしろ、見られたからには生きて帰す訳にはいかない」


 その時春花の頭がクリアになった。何故気づかなかったのだろう。結衣様に親戚などいない。こいつらは、ある日突然現れた……。


「春花ちゃん!? そこにいるの!? お願い助けて!」

「結衣様! こいつらは一体……」

「殺される! お願い春花ちゃんの力で……」


 結衣は権力と地位と身分のある桜川に期待していたのだろう。しかし、突然のことで春花は着の身着のままでここに来た。


「馬鹿なことを。供の人間もいないようだし、死にに来たようなものだ。薄いながらも王家と血縁関係の我らにかかればこのような小娘……」


 春花はとりあえず目の前にいた男を投げた。壁に当たって床に落ちたその男は泡を吹いて倒れた。


「なっ!?」

「くっ、悠長に喋っているから……うわああああ!?」


 次に春花は臨戦態勢と思われる男を組み敷いた。鈍い音がする。


「ぎゃああああああああああ!!!」

「正当防衛です。さようなら」


 何だかんだでお坊ちゃま暮らしのルイとレオは仰け反って隅へ行く。唯一シュリーだけが「もしかして一緒にいた理由って防犯ブザー代わりだったのでは」と冷静に考えている。


 やがて十人近くいた不法侵入の男達は全て春花一人によって倒され、春花は悠々と部屋をノックする。


「三兄弟は残っていますが、他は片付きました」

「ありがとう……開けるよ」


 若干びくつきながら結衣が出てくる。廊下の惨状をちら見して胸を撫で下ろす。シュリーは友人を使った対策といいやっぱりいい性格してるな……と思っていた。


「まだ、何かすることはございませんか」

「いや、もうないよ、多分」

「あの兄弟達は……?」

「いや、それはその……」


 視線を向けられてひきつるルイとレオ。奥歯に物が挟まったかのような言い方に問題ありと判断して近づいていく春花に、シュリーが二人を庇うように立ちふさがる。


「待ってほしい。もうこちらに戦う意思はない。今後よく言って聞かせるから、これ以上は……」

「信用できません」

「……くっ。何故そこまでする! 利用されているだけだというのに!」

「シュリー!」

「そうですね」


 普通に答えたかと思うと、春花はふと遠くを見ながら言った。


「電話、貰ったとき、何も考えられませんでした。ただ、結衣様が危ないと聞いて、それでわたくしは……。もういいのです。利用されてるだけでもいい。尽くして尽くして、それで結衣様が私を少しでも哀れと思って頂けたなら、きっとそれでわたくしは報われるのです」

「春花ちゃん……」

「だから結衣様の脅威は排除しなくては。そんなものが存在したら、結衣様とわたくしが一緒にいる時間が減ってしまう。それに、嫉妬しなくて済むから一石二鳥ですわ」


 春花はまず唖然としているルイを壁に叩きつける。呻いて意識がなくなったところでレオを片手で引き寄せ、首をギリギリと絞める。慌てて止めに入るシュリーは鳩尾に一撃して黙らせる。結衣は春花が着痩せするタイプで、夏の水泳で筋肉がそのへんの運動部男子以上だったのが発覚し、引かれていたのを不意に思い出した。余計なお世話だが、顔と身体のバランスがちょっと悪い気もする。顔と服を着ていればどこから見ても理想のお嬢様像なのだが。と、結衣が現実逃避している間にうめき声が耳に入る。


「も、もうやめて!」


 暴れまわる春花に結衣からストップが入る。脅威はとりあえずなくなったし、これで三兄弟にいなくなれれると今度は生活が……。


「お優しいのですね。でもやめません」

「……あーもう!!」


 春花の唇に何かが触れる。結衣のそれだった。



 頃合いを見て結衣が唇を離す。春花はピクリとも動かない。腹を抑えてシュリーが恐る恐る近寄り確かめる。


「失神していますね」



 ルイとレオの力で元老院達を治療のち元の世界へ送り返す。その間、結衣は春花を膝枕していた。シュリーが近くに座る。どちらともなく話し始めて雑談になる。




「……お金に困っているという話でしたが、春花さんと恋仲になれば解決するのでは?」


 シュリーが前々から思っていた疑問。金持ちで自分にべたぼれの友人がいるならそっちを頼ればいいのではないか。


「ヤダ」

「……自分が言うのもなんですが、春花さんが気の毒です」

「どうしてよ」

「生殺しだ。友人と思われているかも微妙で」

「思ってるもん」

「……一人が嫌だからともにいる。家に何かあった時のためにキープしている。そう、図書室で言っていましたよね」

「そうだけど。だからって全然友達と思ってないみたいに言わないでよ」

「友人のすることでも言うことでもないでしょう」

「……私と春花ちゃんの間にお金の貸し借りはないもん」


 嘘だな、とシュリーは思った。この金にうるさい守谷結衣がそんなこと……。顔に出たのか、結衣が睨んでくる。


「一人が嫌だから付き合うし、いい友人みたいに振る舞うし。それくらいの利用のされあいはいいよ」

「あなたは利用してばかりのような」

「話の腰を折らないで!でも、私、何でかな。春花ちゃんとお金の話だけはしたくないんだ。……出来ないんだ」



 何でかな。一番重要なのに。とぼやく結衣には黙っておこう。寝ている春花の耳が赤かったことを。それだけ意識しているんだろうという事も。兄弟をぼこられた腹いせだ。

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