甘えっこの我侭
結城礼緒。
異世界ユージェルの王の三男で王位継承二位。長男の母親の身分のほうが一位とか、次男の母親が下の身分で寵愛もないから三位とか色々あるけどそのへんは割愛。
王様が絶対なら、その命令は絶対。だから二位といってももう次の王は決まったようなものだ。ボクが王になって、結衣お姉ちゃんを連れ帰って王妃にするんだ――。
「十八になっても同じこと言ってくれたらね」
結城礼緒。こちらの世界の小学五年生。まだ十歳。結衣お姉ちゃんは十五歳。年齢の壁は厚かった。
「あまり結衣を困らせるなレオ」
「レオ様、以前のように無体を働かないように」
継承権一位のルイと実質的にはない三位のシュリーが二人揃ってうるさく言う。
黙れよ。信用も信頼もない敵同士じゃないか。
異世界ユージェル。ボクの故郷。元々魔法はとある一族しか使えなかったが、ある時期に王女とその魔法使い一族が婚姻。便利なものを手に入れた無敵の王家……になるはずだった。
何故か波乱続きで、王の一族はこれで繁栄するどころかどんどん数が減ってしまった。
というのも、ただでさえ王の一族は後継者争いに神経過敏になるのに、そこに魔法なんてものが増えて余計混乱せざるをえなかった。
争いに敗れたほうは、勝ったほうに徹底的に殲滅される。魔法なんて便利な手段が、さらに恐怖を増やした。頭がよくても生まれがよくても見た目がよくても、魔法が劣ってたら、知らぬ間に殺されることもある――。なんてね。きっちりしたルールが出来るまでは『魔法使い狩り』というおぞましい話もあったが、まあ、今話すことじゃない。
とにかくそういうわけで、険悪な兄とエセ中立を気取る蝙蝠の兄。そいつら二人とこの地球へ来た。そして運命の出会いをした。
守谷結衣。魔法が使えないのに、天井から落下したボクを生身で受け止めた人。
好きになってほしいな。兄二人よりずっと信用できるから。
「おーっす礼緒、お早うさん!」
「義将クン、うんおはよー」
ある日の通学班登校中にクラスメートと会う。これがよくあるようでないんだな。挨拶してきたのは久保田義将。トモダチだ。
友達(笑)一人にならないために無理してまで他人に合わせる下等生物の馴れ合い。将来王様なボクに必要なのは友人ではなく道具なんだけどね。かといってこの星で暮らす必要がある以上、あまりコミュニティで浮くのも問題……しょうがなく得意のぶりっ子(男にもいうのかな)でトモダチつくった。
なぜ久保田かって?三人兄弟の長男で面倒見がいいからだ。ボクが「わからない」「どうやるの」と言えば「しょうがないな」って代わってくれる。こういう利益がないと付き合いなんてやってらんないよ。
「そうだ、お前今日家に来いよ、母さん今いないんだ。新作のゲームやろうぜ」
「……そうだねー。行くよ」
本音を言えば嫌だ。でも断ってばっかだと疑われるからな。休み時間に「遅くなる」というメールを結衣お姉ちゃんとシュリーに送る。これだって本当は結衣お姉ちゃんだけでいいけど、シュリーを明確に敵に回すのはいいことじゃない。本当に、付き合いって面倒だ。
「悪いな。先に保育園行かなくちゃいけなくて」
久保田義将は三人兄弟の長男。つまり下に弟が二人いる。両親は共働きで、年長の義将が毎日保育園に迎えに行っているらしい。迎えに行った一番下の弟はミルクくさい幼児だった。
「利発そうなお子さんだね」
適当に媚びを売っておく。そうすると義将は嬉しそうな顔をした。
「そうだろ?俺の弟だからな!」
愛想笑いをしておいたが、ボクは無性にその台詞に腹が立っていた。何故かは自分でもよく分からなかった。その時は。
家に着いたあとは義将の自室で適当にゲームして遊ぶ。十五分休憩(律儀に守るとか)の際やつが席を外した。飲み物を持ってくるらしい。くつろいで待っていると、ミルクの匂い、幼児が来た。
「……こんにちは。どうしたの?」
「かみとおめめ、きれー」
ルイほどではないが、ボクも結構目立つ容姿をしている。薄い茶色の髪は地毛だ。王家で最も多い色。そして琥珀色の目。……こちらは母からの遺伝。
「ありがとう。ところで何か用?」
用がないなら向こう行けよと言外に含ませた言い方。勿論幼児には通じない。
「きれー、きれー」
どうしたものかと戸惑っていると、幼児のほうから近づいて髪を引っ張られる。
「……っ!何するんだくそガキ!」
許可も遠慮もなく強く引っ張られ、かっとなったボクは幼児を突き飛ばす。間が悪いもので、その時に義将が戻ってきた。
「将太!?……礼緒お前何するんだ!」
お前こそ何なんだ。こっちは髪を引っ張られて痛かったから抵抗しただけだ。でも義将はそんなこと関係なくとっさに家族のほうを心配したらしい。
「言っとくけど、チビが先に悪さしてきたんだ」
「だからって突き飛ばすことないだろう!まだ赤ん坊なんだぞ!」
「じゃあボクはどうなってもいいっていうのかよ!何で言葉も分からない脳味噌相手にそこまで気を使わなきゃならないんだ!ボクはなあ……!」
お前が知らないだけで、ボクは未来の王様だ。故郷なら友達どころか跪かせられるものを。
「……!お前とは絶交だ!!!」
少し前、シュリーのぼっちを笑ったが、今はボクがぼっちだ。クラスを仕切り信頼も厚い義将が「あいつに構うな」と言ったことで男のみならず女からも遠巻きになった。体育が一番嫌いだ。何かと実験で班ごとに分かれる理科も嫌いだ。家庭科も嫌いだ。数学はいいな……。
「レオくん、なんか最近元気ないけど、どこか具合でも?」
結衣お姉ちゃんが心配してくれる。いつもだったら「うん大変なんだー」と言って甘えるが、今回はそうはいかない。内容を知られたら恥で死ねる。ぼっちが辛いなんて。
「……そうなのか?」
「レオ様、具体的にどこが……」
重要人物が心配したら自分達もっていい面の皮してるよ。
「ううん、別にー。お腹すいたのかも」
「そうなの?ごめんね、今日は遅くなって。今作るから」
図書委員の帰り、桜川春花の家によっておしゃべりしていたらしい。あの女、本当に結衣お姉ちゃん好きだよな。そこそこの財力と権力もってる家らしいし、将来結衣お姉ちゃんにこっちに来て欲しい身をしては、アイツの存在がネックだ。絶対邪魔するだろ。あの女がただの一般人だったら今ももう少し進展していたかもしれないのに。
噂をすれば影というが、思っているだけでも呼び寄せるのだろうか。玄関のベルが鳴って、一声かけて当の桜川春花がやってきた。
「こんばんは。お邪魔します。結衣様の忘れ物をお届けに来ましたの」
そう言う彼女の手には安物のペンケース。小さく色ペンで名前が書いてあるから、間違いなく結衣お姉ちゃんのだ。
「本当だ!ごめんなさいわざわざ……」
「いいえ、そんなことは。少しでも貴女と長くいられるのは嬉しいですから」
時々こいつが女でよかったとすら思う。歯の浮くような台詞が妙に似合う人間だ。
「……」
ふと、桜川がこっちを見る。そして凝視する。何なんだ。
「……黙っているのは性にあいませんし、隠れて言うのは卑怯というもの。本人の目の前で言うのが一番後腐れありませんわね」
「はぁ?」
こいつの行動理念は結衣お姉ちゃんのためって分かってはいるけど、それでも考え方が斜め上をいっていてイマイチ読めない女だ。
「何故そんな暗いしけた顔しているのです?こっちまで移りそう。結衣様の前でそんな酷い顔を晒してよくも好き好き言えますわね」
……こいつ、昔話のライバルを蹴落とす意地悪キャラかよ。しかし、むかつくことを言われたのに、言い返す気にはなれなかった。来たばっかりの桜川にまで知られるほど、酷いっていうのか、このボクが、人当たりのいいと評判だったボクが……。
「「うちの弟に何を言うんだ(ですか)!!」」
まさかの兄二人の擁護。……何のつもりだ?
「本当のことではないの。わたくしは、恋愛というものは相手に尽くすことだと思ってます。なのに心配してください構ってくださいオーラが鬱陶しいったら」
「春花ちゃんありがとう超ありがとう。でもだからって追い詰めないであげてください」
「結衣様……。ごめんなさい。でも心配する人も無下にするようなら厳しく言うのも手かと思いましたの」
見た目は美少女だが何様だこの女。誰が誰を粗末にしてるって?
「ボクは結衣お姉ちゃんを無下になんかしてない」
「そうでしょうか?まあ、あの二人に比べたらそうかもしれませんわね」
この場でボクと結衣お姉ちゃんと桜川以外の人間は二人しかいない。でも、そいつらは絶対にボクを心配なんかしないだろう。
「俺の弟は酷い顔なんかしてないだろ!むしろいいほうだろ!」
「そうではないと思いますルイ様。桜川、レオを無駄に傷つけた事を謝ってもらおうか」
「どうしてわたくしが?貴方達、仲が悪いのでしょう?」
何であいつら桜川に怒ってるんだろう。
「実家の都合もあるが、それでも、俺の弟だ!弟なんだ!甘ったれで我侭で自己中な俺の弟だ!」
「幼い頃から側にいたのです。傷つけられたら、我が身のように思ってしまう」
お前らなあ
赤ん坊を、弟を心配した義将みたいなこと言うなよ。
「義将、ごめん」
「……俺も、悪かったな。変にムキになって」
結衣とシュリーが夕飯の支度をしている時、ふとシュリーが呟いた。
「占いで貴方のもとへ行けと出たのは……」
「うん?」
「貴方自身がどうこうではなく、貴方を取り巻く環境が、今の自分達に最も適していた、そういう事なのかもしれません」
エアヒロイン・・・。活躍したのも主人公じゃない・・・。




