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救出

 月の綺麗な夜だ。


 どうせ死ぬなら、華々しく、大勢に見取られながら、ドラマティックに。そんな風に思う人は少なくないだろう。


 自慢しちゃおう。私はそういう風に死ねるんですよ――って。


 牢屋の鍵はシュリーの手で開けられた。彼は私を引っ張って起たせようとしたけれど、その前にすっくと立ってやった。微妙な顔をするシュリーに向かって特大のにっこりしてやった。私が出来る精一杯の皮肉だ。

 あのアントワネットだって、死ぬ前に執行人の足を踏んで「わざとじゃありませんのよ」 とかやったって言うし、私が自尊心満たすようなことして何が悪い。……彼女の場合は、過酷で一方的な裁判の末だから本当に疲れきっていたのかもだけど。


「手枷をつけさせてもらうぞ」

「……別に逃げないのに」

「儀礼的なものだ。それに、これは王家に代々伝わる由緒ある手枷だ。記念になるぞ」


 ならないよ。これから死ぬのに。冗談も皮肉も下手なのね。


 迷路のような神殿? 宮殿? の中を延々と歩く。やがて着いたのは、着飾ったルーカスと数人の神官らしき人が佇み、真ん中に人が寝られるような台がぽつんとある、広々とした空間。有無を言わさず、シュリーによって私は台に寝かせられる。俎板(まないた)の鯉ってこういう事かな。


「始めるぞ。……アレを持ってこい」


 ルーカスが側にいる人に命じて持ってこさせたのは……骨!?


「あの山でリホが死んだあとは、一時別の場所に放置されていた。祟りが怖いからと後に神殿で保管となったが……最初からそうすれば良かったんだ。腐食が進んで使い物になるか心配だ」


 まあ、僕の魔力なら何とかなるだろうが。ルーカスがそう言って、儀式は始められた。まず、私に目隠しが施される。金属の音がした。剣? 刀? 「リホと同じ死に方を」 ……彼女の死因って、魔法で死んだんじゃなくてもしかして失血死? 痛いのやだなあ。



 多分現地語だろうけど、ぶつぶつ言ってて私には何も分からない。呪文なのかな。殺すなら一気にしてほしいのに。待っている間、ちょっと……いやかなり怖い。いつ刺されるの? 今? もうちょっと後?


 お母さんごめんなさい。春花ちゃん、ずっと感謝してた。奏ちゃん、異変に気づかなくてごめん。あとは……。


――まだ、私のこと好き?

――好き!


 レオくん……。



 その時、右側から爆発音がした。爆風? で飛んできた砂と埃が私の顔にあたる。何か悲鳴も聞こえるけど……これも儀式の一部?


「結衣ちゃん! ……! 目隠しまでされて、手枷まで! 今外すからね」


 聞き覚えのある声……この声まさか。


「奏ちゃん?」

「うん!」


 目隠しが取れて見えたのは、別れた時に満身創痍だった、あの奏ちゃんだった。彼女は深くニットキャップを被っていた。続いて手枷も外され、煙幕の中誘導される。


「……! 逃がさん! このっ!」


 ルーカスはしばらく煙にむせっていたが、結衣を取り逃がすまいと視界不良のなか闇雲に突っ込む。やがて、少女の人影が見え、手を伸ばして捕まえる。


「結衣、ここで死……!?」


 腕を捕らえた瞬間に異変を感じた。少女の腕にしては固い。固すぎる。まさか……。


「結衣様だと思った?」


 かつて、掌握出来なかった神官の一部が暴走し、地球に向かったことがある。しかし早くに連絡があり、ルイから返すのでそちらからも魔法を使ってくれと言われ、神官達をこちらに呼び戻すと、揃いも揃って半死半生の身だった。「筋肉の化け物が」 と言われた時は、思わず鼻で笑った。石頭で融通も利かない、儀礼や伝統に固執する偏屈爺どもの言うことなど、当てにならないと思っていた。


「残念! 春花ちゃんでした!」


 もろに顔にくらった。数分意識が飛んだ。





「ルーカス様! 桜川か!? いくらお前でも邪魔するなら容赦は……!」

「やめて朱里くん!」


 安置されていた武器を取ろうとし、シュリーは思わずとどまった。好きな女性の声が、まさか。


「葵!? 君まで?」


 煙幕が徐々に引いてきて、場の全貌が見えてきた。壁際に並んで横たわる神官達。そして床に倒れたルーカス。その側に立つ春花とレオ。少し離れたところにいる奏と結衣。そしてすぐ近くには……。


「人殺しなんてやめて、どうしてそんな事するの」


 泣いて懇願する葵。


「結衣が、君を傷つけたから……」

「そんなの、私の自業自得なのよ。結衣さんを死なせても私は喜ばない。そんな朱里くん見たくない。だから、もう……」


 シュリーは、武器を床に落とした。

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