祈り
「処刑は夜にならなければ執行されない。ならその前に、行きたい場所があるんだ」
一般人に身をやつして王城の周りをうろつく四人。主導権を握るのは春花だが、最も重要な人間はレオである。そのレオがこう言い出したのだ。
「それは、重要なのかしら」
春花が注意深く聞く。何せユージェルの事情など全く知らない。今最も頼れるレオがこう言い出すとは……。本音を言えば、すぐにも結衣の近くに行きたい、出来る事はなくとも側に居てあげたい。春花の本心だ。
「……決意を固めたいんだ」
「分かりました。参りますわ。かの織田信長も、桶狭間の戦いの前にはトリック仕込みの神頼みをしたと言いますから」
自己暗示も侮れないのだ。他の二人にも同意をとってその地へ向かう。
「この抜け道を使って。王城内のある場所に繋がっている」
「行ったら鉢合わせなんてありませんわよね」
「ルーカス、もこんなところには用はないさ。何たってここは……」
城を取り囲む塀の一部をいじると、隠し通路が出現した。おそるおそる歩いて抜けると、そこは。
「広場?」
ただただ広い、開けた場所があった。ずっと向こうに城が見えるが、そう離れた場所という訳でもない。いくらでも利用できそうな地なのに、この閑散ぶりは一体? 春花は腑に落ちないという顔をする。それを見たレオが説明を開始した。
「ボクの先祖……というか、王家の先祖は、元々は魔法が使えなかった。魔法の使える一族がいて、それが影のように王族に従っていた。この二つの一族は、結託したり仲違いしたりの末一つとなった。その仲が一番こじれていた時かな。時の王が魔法使いの一族の男を、ここで処刑した。その結果、当時存在した異世界からの救世主は、不遇すぎる扱いを受けることになった」
「異世界からのってことは」
春花の言葉に、レオが頷く。
「多分、結衣お姉ちゃんの先祖にあたる人だと思う。前見た戸籍で、祖母にあたる人が字面から読み取れるほどの魔力を持っていた。そして祖父のほうはここの香りを漂わせていた。最も、それは何代目かは知らないけど」
「結衣さんって、本当に漫画のヒロインみたいな人ね」
その話に、ずっと黙っていた二人のうち一人が、フードをとって話し出した。
「羨ましかったな。朱里……シュリーと付き合っても、いつか彼が結衣さんの良さに気づいて別れるんじゃないかって、ずっとビクビクしてた。どういう理由かは知らないし聞かなかったけど、結衣さんが何か特別な存在なのは、シュリー達の態度を見れば分かるもの」
那珂葵だった。
「……」
「そんな目で見ないで春花さん。私、例えシュリーを敵に回しても、結衣さんを助けるから」
「……ええ。信じてますから」
ルイやレオはひとまず味方になってくれたが、一番強いとされるルーカスは敵。実家と権力に振り回されているシュリーは……まず期待できない。春花は、いざという時は葵を人質にしようと企んでいた。
「話を戻すよ。それで、魔法使いの一族を王が殺した当時の救世主……文献によればアキホという名だった。何故王が魔法使いを殺したかだけど、王は珍しい異世界人を妾にする予定だったけれど、容姿が好みじゃないから偽物としたらしい。手足となる従者の魔法使いを先に殺し、アキホの運命も長くないと思われた」
「あら? アキホであってるの? 行方不明なのはリホっていう人って聞きましたが」
春花がレオに聞く。レオは春花が結衣の家系図に詳しいことに突っ込むまいと思った。
「アキホで合ってる。リホはその娘。娘より不利な条件下だったアキホが帰れたのは、ユージェル史上最高の魔力を持っていたからとされている。死者をこの世に引き止めるほどのね」
「まさか、結衣様にもその魔法を使ってなんてことは……」
「考えてない。ただ、アキホは最も辛い道を歩んだ人だから。決意を高めるには彼女しかいないと思ったんだ」
そう言ってレオは春花達を置いて歩く。春花は、遠い昔、好きな人の遠縁が苦しんだ場所、そして今もなお子孫を苦しめる場所、そしてユージェル側もまた不当に殺された人がいたこと。そんな歴史が繋がるこの場所を、何ともいえない気持ちで見つめていた。
レオは広場の真ん中くらいまで来て、黙祷を捧げ祈った。
どうか力を。悲劇を繰り返さないように。ボクを見守ってほしい。魔力の申し子とのちに謳われた貴女の加護を、どうか……。
眠れない異世界のほうも読んでくれている方へのファンサービスみたいな回……。嘘です。全く過去の人が出てこないのもアレかな~と思ったので。代表で彼女でした。




