救出の前日
二日間、何事もなく過ぎた。もう何も感じないけど、それでも気になるのは元の世界で生き別れになった春花ちゃんや奏ちゃん、ルイに、レオ……。
いくら春花ちゃんでもこっちに来るなんてできっこないし。お別れだけでも言えたらなって思ったけどど……向こうの世界で最後に会えたのがあの二人だっただけでも良しとしよう。
ごめんね。でも、最初からこうなる運命だったんだよ。
「くっ……全員、いるか?」
薄暗い屋外でルイの声が響く。
「うう……成功した? ボクとルイで、なんとか」
「やっやりましたわ! ここが、異世界ユージェル……。結衣様がここに」
満身創痍のルイとレオ。そして一人元気な春花。そしてあと二人の少女。
「日が昇るな。朝か。……ほら、ついて来い。俺の母方の実家に行こう。多少の融通は利くはずだ」
「さすがルイ。一応、正当後継者というだけのことはありますわね」
「一応は余計だ。急ぐぞ、人目につくとまずい」
影と闇に紛れて、五人は移動した。
根城を確保。そしてどうやって結衣を救出するかという話になったが。
「悪いが、俺に出来るのはここまでだ」
ルイが離脱を宣誓した。
「どういうことですの!」
「……立場と身分が重過ぎる。俺はこれ以上動けない。連れて来ることが、精一杯なんだ」
春花はぐっと怒りを堪えて考える。そうだ、連れて来てもらっただけ、ルイはよくやってくれた。故郷を裏切ることかもしれないというのに、だ。なら、やはり後は自分達だけで何とかしなければ。
出来る。同じ世界にいるなら。
「では、あとは結衣様のいる場所だけ教えてもらえるかしら」
「……分からん。城の中にいるのは確かなんだが……。強い妨害魔法がかけられている。そのお陰で俺達がここへ来たのも知られないだろうが」
春花は少し考えてから、いくつか質問をする。
「なら、人一人殺しても大丈夫そうな場所は? 実行するとしたらいつ?」
「神殿しかないだろうな。そして実行するなら、世界に最も魔力が満ちる時。明日の夜、満月の下で」
「ありがとう、ルイ」
「……やる気なんだな」
「ええ。わたくには魔法は効かないし。それに、隠し玉も二つあります」
そう言って、深くフードを被った二人の少女を見やる春花。
「……」
盛り上がる春花達を前に、レオは複雑だった。国を裏切る? 愛を貫く? どれもが、非現実的に思われた。ただ、心配なのは……。
「レオ、もし迷っているのでしたら、いいのですよ。貴方は若いのだから」
春花が気遣ってレオに声をかける。
「春花お姉ちゃん。ボクは……」
コンコン。
盛大にビクつく室内。まさか気づかれて追っ手が?
「ルイ様、失礼致します。例の案件です」
「ご苦労」
ルイが何かを調べさせていたらしい。一気に気の抜ける春花達。ルイは書類に目を通したあと、気まずそうにレオを見た。
「……レオ」
「なに? ……構わない。ここで話して」
「お前の母親だが。……数日前に、処刑された。執行人はルーカスだ」
全員に衝撃が走った。あの男は、異世界の他人だけでなく、身内すらも平然と傷つけるのか。しかし、これではレオは救出には……。
「春花お姉ちゃん、ボクを連れて行って」
「敵討ちですか?」
そうとしか考えられない。レオは知らせを聞いて瞬時に参加を求めた。
「それもあるけれど……これで、もう未練、ないから。この世界で守りたかった存在も。……お願いだよ、ボクなら王族の知る抜け道を使える」
「そう。分かりました、参りましょうか」
連れて行く人間は決まった。あとは、時を待つのみ。




