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異世界に行く方法

「吐け!!! 結衣様をどこへやった!!!!!」

「桜川さんタイムタイム! 顔色やばいよ!」


 結衣が流華とともに消えたあと、春花はしばらく辺りを探し、無駄だと分かると結衣の家にいるであろうルイとレオに落とし前をつけにいった。奏は嫌な予感にかられついていった。正解だったと思っている。


「……ゴホッ……お前は、祖国を簡単に、捨てられるか?」


 春花の握力で絞められていた首を解放され、弱々しくも毅然と返すルイ。


「国籍を、住む地を失っても義を通せって、難しいよ……。春花さんなら出来るの?」


 レオもぼろぼろな身体を起こして答える。――引き換えに故郷を失えというのか―― そう言いたいのは分かったが……。


「やります。どこだっていい、彼女がいるならわたくしはどこだって生きていけます。だからさっさと――」

「あら、春花ちゃんじゃないの」


 結衣の母親の千加子が帰ってきた――。春花は焦る。もう夜の十時を過ぎている。こんな時間まで娘が帰ってこないなんて知ったら。


「あ、あの、ご息女の結衣さんはこちらでお預かりしています。学校で宿題があって、共同研究なものだからうちでやろうって話になって……」

「? あら、誰かと間違えてる? うちに娘はいないわ」


 先手は打ってあったという事か。


「あら嫌です、わたくしったら……ルイさんとレオくんとでした。こちらの行方奏さんとの共同宿題なのですわ。しばらくお借りします」

「そうなの? 累君達がいいなら構わないのだけれど」

「……いいですわよね、ルイさん、レオくん」


 無言で頷く二人と一人。奏は春花が怖いと思った。


 車に乗り込み、重苦しい沈黙の中桜川家の豪邸へ。防音設備のある一室へ案内され、鍵を閉め、テーブルの周りに座ったところで本題へ入る。


「推測ですが、結衣様は貴方達の故郷に連れて行かれた……違いますか」


 ルイもレオも答えない。しかし、苦渋の表情は何よりも雄弁だった。


「……ルイ、貴方確か、正当後継者でしたわね。人質の価値は十二分に」

「無駄だ」

「春花お姉ちゃん……ユージェルは、ルーカスに掌握された。それに、僕達自身、どうにかしたくても現状じゃ無理みたい。こうなることを狙って……」

「えっと、ごめん、神栖累会長? と結城礼緒くん? の言う事がちょっと分からないんだけど……もしかしなくても、ルーカスの?」


 奏が横槍を入れる。つい最近まで操られていた彼女には状況がよく掴めていない。この場の主導権を握る春花が説明する。


「……ユージェル……まるで御伽噺みたい。ルーカスに魔法をかけられてなければ、とても信じなかっただろうな」

「そういえば、ルーカス? は貴方に何をしたのですか?」

「媒介として最も都合のいい存在だ――って。意識を失う直前に聞いた言葉がそう。あとはもう、記憶が混濁して……」


 力になれそうにもないよね、これじゃあ、と悲しげに漏らす奏。彼女も被害者だ。とにかく、手がかりはルイとレオにしか残されていないのだが……。


「こっちに来る時の『送り出し』 は、ほぼルーカス様の力だった」

「それだって三人とも箱の中にいないとどうなっていたか……。最初は屋根にめり込んでたもんね」


 ルイとレオがこちらに来た方法を説明する。ルーカスという男、人間三人を異世界まで送り出し、言語をやすやすと習得させ、自らも出向き短期間でこちらの文化や風俗をマスターする。忌々しいほどの天才だ。


「二人の力でどうにかなりませんの?」

「三人いれば、あるいは何とかなったかもしれんが」

「シュリーお兄ちゃんを帰らせたよね。ルーカス様は」


 こちらの抵抗手段をも先に封じている。思わずテーブルを叩く春花。


「無理矢理連れて行って、一体何をするって言うんですの?」


 ろくなことじゃあるまい。こそこそ動いて無理矢理連行するような手段をとった人間のやることなんて。それでも春花は聞かずにいられない。


「……行方奏、だったな。そいつの方が知っているんじゃないか? 俺もレオも、ルーカス様には踊らされていただけだ」


 奏に視線が集まる。彼女は備え付けの椅子に座っていたが、スカートを手先が白くなるほど握り締めていた。


「殺す気よ! 結衣ちゃんの命で全てを無かった事にできる、お前もそれに協力できるのを光栄に思えって……! あの時は夢だと思っていた。夢でも嫌な夢だって思いこんでた。現実だって思ったときには私、抵抗もできないまま、あいつの言いなりになって、結衣ちゃんは……結衣ちゃんは!」


 わっと泣き出す奏。自分のせいで大切な友人を窮地に追い込んだ。その事実が、彼女の心を苛んでいる。例え操られていただけだとしても。


「泣くほどの元気はあるんだな」

「……失礼な事言いますわね。貴方の兄が仕出かしたせいでしょう! 催眠術で何とか魔法を打ち消しましたが、反動なのか、まるで数十年分老け込んだようになってましたのよさっきまで!」

「自力で解くにはそれ位の代償がいるからな。それよりも……」


 ルイは立ち上がって奏の目の前まで行く。そしてジロジロと検分するように眺め、髪や手を触ったりした。


「わたくしの目の前でセクハラとはいい度胸してますわね」

「いや違うから。指を鳴らすな」

「じゃあ何ですの?」


 ルイは少し戸惑ったようだが、意を決して言った。


「行方奏と言ったな、寿命が縮む代わりに、友人を助けられるかもしれないと言ったらどうする?」

「私の、寿命って」

「まだお前にはルーカスの魔法の名残がある。そして、ユージェルに生まれていたら神官になれるほどの素質もある。そんなお前の命と引き換えに、俺達を向こうに飛ばす事が可能かもしれない。どうする」

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