自業自得
気がついたら、牢屋にいた。ちょっとかび臭いし、暗いし汚い。何これ、夢?
「起きたか」
鉄格子の向こうに人影。着飾った流華さんだった。なんか、キリスト教の神父さんみたいな格好だった。
「ここは……?」
「ユージェル。僕の故郷で、お前の祖母までが呼ばれ続けていた、お前からしてみれば呪われた地だな」
「地球じゃ、ないの?」
「外に出たら、山が空を貫いてるのが分かるのにな。まあ何にせよ、死んだら自由に見られる」
死んだら――。じゃあ。
「利用、してたの?」
「そうだ。お前の遠縁が僕を利用したように、僕もまたお前を利用する。それだけだ」
夢じゃなかった。そして彼は、私を殺そうとしている――。
「何で、どうして死ななくちゃいけないの」
「もう話しただろう。あの悪霊がうるさいからだ。お陰でろくに睡眠もとれない。僕には王家を支える役目があるのに。それだけが僕の……」
流華は口篭った。しばし沈黙が辺りを包む。
「結衣、余り自分を可哀相だと思うなよ。死ぬ前にたくさんいい夢見ただろう? それにこの僕が身体を使ってお前を喜ばせてやったんだ。お釣りを貰いたいくらいだね」
ぽろぽろと涙が落ちてくるのは分かっていたが、拭うことも忘れて流華の姿を見続ける結衣。
「言っておくが、リホのように祟ろうとしても無駄だ。三日後の儀式でお前は死ぬが、それは複雑な魔術を駆使するもので、あのアキホより魔力が高くてもどうにも出来ない代物だからな」
「流華さん……」
涙声で名前を呼ぶ。嘘だと言ってほしかった。こんな目に合っても、そう言われたら全てを許せると思った。
「気安く呼ぶな。大体、本気で好かれてると思っていたのか? 鏡見ろ小娘が」
その言葉を最後に、彼は身を翻して去っていった。足音が段々遠くなっていくのを、いつまでもじっと聞いていた。
「……」
お母さん、どうしているかなあ。ルイやレオくんは知っているのかな。……知っているよね兄弟だもの。春花ちゃん、奏ちゃん……心配かけちゃった。春花ちゃんは守ろうとしてくれたし、奏ちゃんは知らないところで流華さんに操られていたなんて。何で、気づけなかったんだろう。お金が手に入るからって、私……。
死にたくないよ、誰か助けて。
「結衣」
再び、鉄格子の向こうから声がした。暗がりなので一瞬流華と見間違う。しかし、そこにいたのは……。
「シュリー!?」
「静かに。助けに来ました」
三兄弟で一番の常識人だったシュリー。先に帰っていたとは聞いていたが、まさかここで再開するなんて。ともかく、鉄格子までにじり寄る。
「ありがとう、シュリー。私もう駄目かと……」
「しっかり、結衣。ところで、聞きたいことがあるのですが」
「何?」
「葵は、息災ですか?」
ああ、ここに来る前、落ち込んでいる葵さんにとどめ刺しときましたよ。
とは口が裂けても言えないと思う結衣だった。
「そうですか……分かりました」
結衣の無言をどう解釈したのか、一人で納得するシュリー。
「え? えっと……」
「話は済んだのか、シュリー」
と、横から流華が現れた。これはどういう事なの?
「はい。儀式の件ですが、つつがない成功を祈ってます」
「……!? シュリー、待って! 私は」
「黙れ」
半年近く同居していたシュリー。その間見たこともないような、激しい憎しみを湛えた瞳でこちらを見ている。
「護衛対象でもありましたからね。貴方のことは大体分かります。葵を傷つけましたね?」
「わ、わたしは」
「苦しんで死ねばいい。さよなら結衣」
結衣の心が、ぽっきり折れた。
「……案外怒らせたら一番怖いやつかもな。僕からしてみればそんなに可愛いようには見えなかったがな。おい、あの子は性格でも……ああ、聞こえちゃいないか」
瞬きせずに涙をぼろぼろ流す結衣の姿を見て、少し呆れたような顔をしたあと、ルーカスはまた去っていった。
バチがあたったんだ。生まれてきちゃいけなかったんだ。母を困らせた。父だって私がいなければ長生きできた。
三日後っていったっけ、儀式。
今すぐでもいいのに。もう覚悟なら出来てるから……。




