企み
結衣は黙りこくっていた。というのも、流華がふざけるな、と言ったあと何も言わないからだ。
「お話はそれでお終いですか?」
「うん。最後には憧れの人の要求を拒否してカタルシスを得る。まさに厨二病だね」
「うーん……」
何だろうか、この違和感は。そういう時期の俺TUEEEな創作にしては正直、不自然な気がする。いやそれより、これが全部創作だとしたら彼は作家より役者になれる。堂に入っていたというか、まるで本当に有った事のように語るのだから。
あと、そうだ。少女だ。流華さんは結局、少女が好きなのか嫌いなのか。悲惨な死に方をしたと同情はしても、要求を厳しく跳ね除ける。私の中でその行動が繋がらない。……そういえば、私に異世界に行って帰ってこなかった遠縁の親戚がいたような……。まあ、関係ないよね。
だってそうだとしたら、流華さんが得体の知れない存在になってしまう。
「……いつの間にか、もう真っ暗だね」
窓から見る外は、今にも日が沈みそうなところだった。
「本当だ。そろそろ帰りましょうか」
身支度を整えて、供に帰路に着く。ぎゅっとお互いの手を握り締めて舗装された道を歩く。ふと見上げれば、満天の星空だった。
「見てください、星が瞬いてます」
「星よりも、君を見て居たいな」
思わず流華さんのほうを見ると、キス、された。経験がないから分からないけど、多分、大人のキス。お互い照れくさいのか、しばらくそっぽを向き合う。
「あの、図書館デートもいいですけど、今度は別の場所に行きませんか?」
間が持たないので思い切って聞いてみる。流華さんといるならどこでも楽しい……と思いたいけど、やっぱり本の山は無理。
「今度か。あるのかな、それ」
「え……?」
「これだけ手の内見せても罠を仕掛けても、君は何も気づかない。笑えてくるよ」
「流華さん?」
どうして、そんなに冷たい目で私を見るの?
「結衣様! その男から離れて――――!!」
道の向こうから誰かが叫んでいる。あれは、春花ちゃん?
「! 媒介を弄ったのか? ……つくづく食えない女だ」
春花ちゃんが奏ちゃんを引っ張りながら走ってくる。それは異様な光景だった。奏ちゃんのその様子は、まるで老人のようだった。近所に足腰の悪いお婆ちゃんがいて、時々身内の人がお散歩させてるけど、お婆ちゃんは人の腕にしがみついて転ばないように、よたよた歩くのが精一杯。そんな動きと同じだった。
「奏ちゃん!? どこか悪いの? 春花ちゃん、一体何が……」
「レオやルイは口を割りませんから、戸籍もない流華を親戚と言い張る奏を当たってみたのですわ! 高名な催眠療法の方をおど……お願いして。そうしたら流華という男は」
「一足遅かったな」
急に流華さんは私の肩を掴んだ。その強い力に思わず悲鳴を上げそうになる。意味が分からなくて流華さんのほうを見上げると、その顔は、とても恋人に向けるものとは思えない顔だった。
「流華さん?」
「ねえ結衣。僕の故郷では、死ぬ前の人間には贈り物をするって風習があるんだ。ルイに持たせた宝石や金塊は役に立っただろう? 金に困っていた君には特にね」
「……え?」
「最高の奉仕をしてやったつもりだ。だから対価を払ってもらうよ」
突如突風が巻き起こる。竜巻でも発生したのかと思った。しかしよく見ると、この異常な旋風は私と、私の肩を掴み続けている流華さんを取り囲むように吹いている。春花ちゃん達の進路を塞ぐように。
「えっ何!?」
「逃げて! 逃げて結衣様!!」
逃げたい。でも肩の手が外れない。恐る恐る流華さんを見ると、何かを呟いている。
「……をもって、偉大なる精霊の力をここに呼び寄せん……」
その言葉と同時に、足元に魔法陣のようなものが現れた。それが勢いよく光を放つ。
「何これ……助けて春花ちゃ……!」
言い終わらないうちに、流華と結衣は消えた。そこにはもう、春花と奏しかいなかった。車も通行人も相変わらず通っているが、誰一人異変を感じた者はいない。
「そんな……結衣様! 結衣様!!」
「うっ……結衣ちゃん……ごめんなさい……私が呼び寄せたようなものだからこんな……」
春花の友を呼ぶ空しい声と、奏の息も絶え絶えな嘆きが辺りにしばらくこだました。




