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失恋

 彼氏が出来ると世界が変わる。顔は自然ににやついた……笑顔で固定されるし、何しても楽しい。声は弾んで足取りも軽やか。彼氏がいるというだけで!

 その夜は鼻歌を歌いながら皿洗いをする。そんな結衣の様子を見ている同居している兄弟。


「結衣お姉ちゃん、何かご機嫌だね」


 話しかけられてハッとした。

 ……あ、レオくんどうしよう。それに、ルイのことも忘れてた。学校ではルイと婚約者扱いなんだっけ。あれ? 今の私って二股女? 無かった事になったとはいえ、北浜先輩を振った直後で彼氏作って……。あれ? もしかして私、節操無し?



「傍から見るとそうですわね。口外しないほうがよろしいかと。……それにしても、わたくしの結衣様がまさかポッと出に……! 三兄弟のがマシだった……」


 友人からも尻軽言われたしにたい。なんにせよ、けじめはつけないと。


 早く帰ってきた日、小学生のレオくんは家にいた。おやつを食べてまったりした雰囲気の時に明言する。


「レオくん、まだ私のこと好き?」

「好き! どうして?」

「私、最近彼氏が出来たの」


 女子のひそひそ陰口で直球しか投げられない人間と言われた女ですとも。


「うん……そうだよね。……小学生なんだもん。気持ちは誰にも負けてないつもりだったけど、異性として見られないのは、努力が足りなかったんだよね。仕方ないよね。最初の出会いから、ボク嫌なやつで……」


 最後には口ごもってはらはらと涙を流したレオくん。いっそ責めてくれたほうがマシだった……。でも平和的に解決して何より。あとは……。


「ただいまー。おい、今からくるみたんのDVD見るから誰も部屋入るなよ、音も立てるなよ」


 ルイはいいや。話す必要を感じない。仮に話さなかったことを後で責められても、こんな状態で浮気どうこうとかないだろう。

 どの道、彼らは恋愛対象ではない。葵さんの苦しみを見ていつかは帰る彼らと恋愛なんて考えられない。……嘘から出た誠になっちゃったなあ。

 でも、私には関係ない。あれは結局は二人の問題。さて、明日流華さんと会うために今から髪を整えようっと。





「何の用?」

『ご挨拶ね。振られて落ち込んでるんじゃないかって、これでも心配してましたのよ?」


 レオの自室。レオは携帯電話で春花と話していた。


「そこまで落ちぶれてないから。むしろアンタが誰より落ち込みたいんじゃない」

『減らず口を叩けるなら安心ですわね。ところで……結衣様の彼氏、気にならない?』


 友人によく似て直球かつ歯に衣着せぬ物言いに、やや怯みつつレオは答える。


「よくない相手って意味で?」

『貴方、なかなか察しがいいのね。何か掴みまして?』

「ルール違反だけど、相手の気配を追った。……不思議なほど、気配がない人間みたいで」

『……そう。それと次男が消えたのも関係ありそうですわね』


 そう言って春花は黙り込む。レオは口には出さないが春花に感心していた。本当によく気のつく、頭の回る女だ。それでいて並みの男より強い。……彼女が男だったら、自分は今ここにいないだろうな。


『……やはり、接触しないとどうにもなりません。でもおかしなことに、どうしてもそれが出来ないのです。ここ数日、誰かの異変だったり、会社の混乱だったりが起きて。レオ、もし……が貴方の関係者だとしたら』


 最後は不自然に電話が切れた。人名のようなものが聞こえた気がするが、不明瞭で聞き取れなかった。しかし、これらが偶然ではなく魔法だとしたら……。こんな事ができるのは一人しか心当たりがない。


「ルーカス様? 媒介を他所から調達したのだとすれば……」


 時間がないのかもしれない。

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