その日の夜に
ルイとシュリーは高校に着くなり校長室へ向かった。そこで何が行われたかは想像つくけどつっこむまい、止めまい。だって別に世界征服に来てるわけでもないし。あとお金ほしいし。ごめんなさい、私も聖人君子じゃないんだ。
「同じクラスでよかったですわね。行きましょう、結衣様」
春花ちゃんの言葉に頷いて歩き出す。一年二組が私の教室。結構大きな校舎だから二人して迷っている間にシュリー…いや、石岡朱里が追いついてきた。
「同じクラスです、行きましょう」
今思うと、ルイやレオが同い年じゃなくてよかったのかなと感じる。だってルイのほうは偉そうだし、レオは子供だから何か騙したようで罪悪感。……それにしても当然のように同じクラス設定なのね。まあ、私(の言質)が目当てなんだからそうなるか。
恐る恐る入った教室は賑わっていた。もう既にいくつかの友達グループが形成されている。本当なら私も色々やるべきなんだろうけど、お嬢様の友達一人いればいいし。……嫉妬怖いし。席順が名前の順だから春花ちゃんとも朱里とも離れてしまってしばしぼっち気分を味わう。これクラスメートの間で格下認定されるだろうな。と考えている間にもチャイムが鳴って先生が入ってくる。女の先生だった。
「はいはい、席について。ゴホン。えー今日から貴方達の担任になりました、日立といいます。これからよろしくお願いしますね!ではまず、そうですねぇ、一人ずつ自己紹介をしてもらいましょうか」
ちょっとギクッとする。朱里、どうするの?こういうのって○○中出身の~とか言わないといけないんじゃ。やがて順番が来た時、私は何ともなかったけど、周りがなんだか熱に浮かされてるようになって、一言も喋らないまま彼の番は終わった。これ、魔法?
「本当に魔法が効かないのですね」
ホームルームが終わったら、教材を買いに体育館に向かう。その道中に朱里に話しかけられる。春花ちゃんはここに通うのが不思議なほどのお嬢様なので、ちょっと職員室に行って今はいないのだ。
「……そうみたいだね。でも私、誰かに話すつもりとかないから」
「心配していません。話しても誰も信じないでしょうから。……最初にレオ様と激突したせいで耐性がついてしまったのだろうか……」
「よく分からないけど、そうなんじゃないの?というか洗脳とか出来るなら、それで私に貴方が後継者~とか言わせれば終わりそうなのに」
「それでは魔力の強さで決まってしまう。最低限の知識を植えつけたら後は自力で…というのが父王からの通達です」
「そう」
異世界事情は分からない。でもお金をくれるのは有難いです。今朝見たあの金塊の量、三人分の生活費払ってもまだお釣りがきそう……。ふふふ。とりあえず教科書類は余裕で購入できるし、あ。
「朱里くん、教科書は?ノートは?体操服や辞書なんかも……」
コソコソと小声で話す。聞かれると手間取らせちゃうだろうし。
「業者の人が来ているのでしょう?そちらをあたります。……問題はレオ様ですね。これが終わったらそちらに行くので遅くなると思います。夕飯は……」
「私作るよ。何がいい?というか、食べられる?」
「問題ありません。では……」
朱里は体育館外の業者の皆さんが待機しているところに向かった。ご愁傷様です。
教科書を買い終わった後、春花ちゃんが外で待っていた。車つき。通りかかる生徒が「うわぁ…」って目で見てるけど気にしない。
「累さんと朱里さんからはご連絡頂いております」
朱里は礼緒とのところ行くんだよね。でも累は?
「何でも生徒会へ立候補するとか……」
ルイが生徒会かあ。様になると思う。だって本物の王族ですもん。
「ただいま!結衣お姉ちゃん!」
礼緒と朱里が帰ってきた。累のほうはまだ遅くなるんだろうか。魔法使えば会長でもなんでもなれそうなのに。と思って、見下している自分にちょっと嫌悪する。
「お姉ちゃん?」
「あ、ごめん。ほら、夕飯できたよ」
春花ちゃんを頼って換金してもらったけど、思った以上に値がついた。ので今日はちょっと贅沢してみる!具の多いスープとかお茶碗いっぱいに盛ったご飯とかね!
「うわあ美味しそう!お姉ちゃん料理が上手いんだね!」
礼緒くんの手放しの賞賛にちょっと照れる。でも嫌でも作るしかない状況だったしね。そして累を待とうか食べてしまうかという時になって、外から黄色い悲鳴が聞こえてきた。
「え、何?」
慌てて玄関に行くと女性数十人に囲まれた累が帰宅した。おい!まさかこの数十人分も用意しろとは言わないだろうな!
「ご苦労、お前達、帰っていいぞ」
と、偉そうに女性達(全員うちの高校の制服じゃん)に言って、それを聞いた女性達は大人しく帰っていった。何なの?自慢?
「……次からは自分がお供します、ルイ様。元の世界でも方向感覚がないに等しかったというのに」
迷子だったんか!
狭い平屋の家だったのに、いつの間にか部屋が増えてたり広くなってたりしたのにはもうツッコムまい。悪いことじゃないならもうどうでもいい。トイレやお風呂でばったりはなくなったからむしろ歓迎。伸びた廊下を眺めながら、お母さんの分を作り置きしてラップにくるんでテーブルに置いて、部屋に篭って鍵をかける。
「従兄弟かあ……」
名目上そうなってはいるけれど、従兄弟どころか同じ人間なんだろうか。全員しばらく滞在するつもりらしいけど、どうしよう。……滞在する分お金もくれるのかな。こっちの通貨概念分かってなさそうだし、ぼったくれるかも……。選べとか好きになれとかどうでもいい。それよりあいつらが滞在することで暮らしが上向くなんて。
「素敵すぎ」
「そうなの?ここでは従兄弟って恋愛しにくいみたいだからボクはやだなあ」
「え?」
よく見るとベッドに礼緒くんがいた。こんな夜更けになんだろ?人恋しいのかな。
「えへへ…お姉ちゃん、夜這いに来たよ!」
「……」
「あれ?反応悪い?」
小学五年生のいうことを真に受ける高校一年なんていないと思うよ。
「枕が合わないの?ここが気に入ったの?なら私が君の部屋で寝るから君はここで寝なさい」
「え、ちょっと、なにそれ!」
分が悪い。第三者に見られたら私のほうが痴女に見られかねない。礼緒くん個人はまあ可愛いとは思うけど、恋愛対象には若すぎるよ。
「からかうのはやめなさい。真剣に言うのも駄目。早すぎる。とにかく部屋から……」
言いながら鍵をあけようとすると、何故かかけられたまま。あれ?
「結衣お姉ちゃん個人には効かないけど、無機物には余裕で効くんだよー」
魔法?あれもしかして私、警戒心足りなすぎ?さすがに焦るけど、扉の向こうから人の足音と呼び声がしてホッとする。
「夜分に失礼します。レオ様はこちらにおいでか?」
朱里だった。
「うんそう!いるよ、でも魔法かなんかで鍵があかないの!朱里なら開けられるよね?」
私は彼なら何とかしてくれるだろうと思っていたが、それは間違いだった。
「出来ません……自分の魔力はレオ様に及びませんから」
「え」
魔法にランクや強さがあるのか。……あるよね!私が考えなかっただけで!
「結衣、ルイ様を呼んできますのでお待ちください。レオ様、これは不正行為に相当します!……監視役として待機を命じます」
「ルイの乳兄弟のお前が監視役って時点で、ボクには従う理由なんかないね」
それを聞いて朱里は何も言わずに駆け出した。累のところへ行ったんだろう。
「さて。結衣お姉ちゃん。いいでしょう、ボクを選んでよ。シュリーは論外だし、レオは結衣お姉ちゃんを見下してる。ボクしかいなんだよ」
頭の中で計算する。三人いる中でレオくんを選ぶメリットは?一番親しくしてくれるけど、お金は出ない気がする。今朝の金塊だって払ったのルイだし。そうすると私、ルイを選べばいいのかな。いや待て、選んだ時点でこいつら帰るんじゃないか?そうすると宿代も出なくなるわけで……。結論、当分いてほしい。ここでは決められない。
「……レオくん、こっち来てくれる」
「な、何?ボクを選んでくれる気になったの?」
少し照れながら私のほうに歩いてくるレオに罪悪感もあるが、こっちもまだ犯罪者になりたくはないから。レオが近づいてきて目の前で立ち止まると、私は頭一つ分くらい低い彼にそっと抱きついた。そして動揺した隙を突いて手刀をくらわす。
「……っ……」
「ごめん」
事が終わった辺りで扉の前が騒がしくなる。ルイとシュリーがようやく来て呼びかけているのが聞こえた。
「話は聞いたぞ、無事か!?」
ルイは慌てて魔法を使って扉を開けた。そして気絶している弟のレオを見たあと、続いて私を見て見下したような視線をよこす。え?どういうこと?私被害者じゃない!
「お前などが弟をたぶらすとはな。しかも実力行使で黙らせたのか」
「だって、魔法とか使ってくるし……あなた、レオのこと嫌ってるんじゃなかったの?」
「それが?だから自分も酷く扱っていいと思ったのか?異郷の庶民ごときが思い上がるな」
「……!な、なによ、王様になるのに私が必要だっていうのに、そんな態度!」
一日で色んなことが起きていて私も少し頭に血が上っていたと思う。だから後から考えればあんな小物の悪役が言うような台詞が出てきたんだ。
「勘違いするな、お前自身ではなくてお前の認可だ。小うるさいガキめ。脳を破壊して口だけが動く魔術でもかけたほうがマシか?」
頭から血の気が引く。心もすーっと冷えていく。勝手に来て、勝手に占拠されて、私に人権なんかなかった。プライバシーを侵害されてるのはこっちなのに!
「……出てく」
「結衣!?」
シュリーが慌てたようだけど、どうでもいい。お母さんは心配だけど、このままでは自分の気持ちが治まらない。一晩でいい、こいつらを視界にいれたくない!家の電話をポチポチやって唯一の友達に電話をかける。
「もしもし春花ちゃん?私、守谷結衣。……うん。……お願い、今夜だけそこに泊めてもらえない?…いや迎えなんて……ごめんやっぱりお願い……ありがとう……」
タダより高いものはないというのに友人に貸しを作りまくる。望んだことではないが、この家では自分の貞操が守れない。何かあっても全部私のせいにされる。耐えられない。
「ルイ様、あれはいかがなものかと」
「俺が悪いと言いたいのか。先に立場を利用して上から見下したのはあの女だろう!」
「我らは居候の身です。王宮と同じようにはいかないのです……ルイ様には不慣れでしょうが……」
シュリーは思い出す。レオが生まれるまでは唯一の王位継承者として下にも置かぬ扱いで育ってきた。それがレオが生まれてからは腫れ物を触るような扱いになった。挫折も失敗も味わった事がなく、天才気質もあり後悔や反省という言葉と無縁のルイにはそれがどれだけ腹立たしかったか。理解はできるが……。ここはこらえて貰わないと結衣はルイを選びはしないだろう。レオの言うとおり、確かに自分は臣下達からルイを推すようにと命令を受けている。だがこの状況は、はっきり言って絶望的だ……。
ベルが響き渡る。上着を羽織って結衣は外へと歩き出す。
「お前、本当に行くのか。母親をそこそこ大事にする奴だと思ってたんだがな」
さすがのルイも去ろうとする結衣に声をかける。結衣は振り返りもせずに答えた。
「何かしたら死んでやるから。その前にアンタだけはやめろって遺言残してね!」
玄関のドアが勢いよく閉まり、家の中にはルイとシュリー、気絶しているレオが残された。
「どうぞ、ハーブティーですわ」
豪邸の桜川家、その一人娘の春花の部屋にお邪魔した結衣は、春花のもてなしを受けていた。春花は夜に突然泊めろと言ってきた結衣を何の戸惑いもなく迎え入れた。恋のせいでもあるし、声がかすかに震えていたのが感じられたからでもある。入学式前日に突然音信不通だった親戚から子息を迎え入れろという話だったから、きっと大変なのだろうと察する。ここに来てからうつむいてばかりの結衣に自分の得意なお茶を淹れよう、少しでも元気を出してほしい、と思う。
「ごめんね……」
「そんな、謝らないでください。構いません、友達なのですから。あ、でも、突然でしたのであいにくベッドが用意出来てなくて」
「一緒に寝ようか」
「いいのですか!?」
守谷結衣。三兄弟が来て正式には二日目。喧嘩別れして友人宅に駆け込む。最低だったのは断らないのを見越してやったこと。情けなくてその夜は一緒に寝る春花に気づかれないように泣いた。
我の強い子しかいませんね。




