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三男とデート

 最近結衣お姉ちゃんの様子がおかしい。

 特に、シュリーと一緒にいる時が。


 前までは気楽に話してる感じだったのに、最近どこかよそよそしい。……シュリーに彼女が出来たからだろうか? 葵っていったっけ。


 夏休みに入ってからというもの、シュリー兄は彼女の葵さんといつも図書館デートだ。玄関で「いってらっしゃい」 と見送ったあと、いつも溜息をついている結衣お姉ちゃん。


 いつのまにボクはシュリーに負けていたんだろう。全然気づかなかった。


 ある日、溜息を吐く前に思い切ってデートに誘ってみることにした。


「いいよ」




 割と近くにある臨海公園。焼けつけられた熱いアスファルトの上を、陽炎のように歩く結衣お姉ちゃん。 


「乗り物に乗ろうか? それとももうお昼にしちゃう?」

「お昼がいいな。早目に食べようよ、影になるところで」


 サンドイッチ、おにぎり、から揚げ。卵焼きに簡単なお惣菜。結衣お姉ちゃんのお弁当は美味しい。そういやルイ兄とシュリー兄はいつもお弁当作ってもらってるんだっけ。高校は給食じゃないから。ずっと羨ましかったと言ったら複雑な顔をした結衣お姉ちゃん。


「……最近は一人分だけだよ。シュリーに彼女できたでしょ? 葵さんに作ってもらうんだって」


 手間が減って嬉しい顔をするんじゃなくて、悲しい顔をするってことは、やっぱり……。


「ねえ、食べ終わったら、観覧車乗りたい」



 観覧車乗り場は案の定カップルでいっぱいだった。たまに親子連れも見かけるけど。


 ここの観覧車にはちょっとしたジンクスがある。ちょうどてっぺんについた時にキスすると、二人の絆は永遠になるって、いかにもな噂。手を繋いで順番待ちしながら結衣お姉ちゃんの様子を窺うけど、ボクを疑うそぶりを見せない。知らないか、警戒されてないか……。


「あらあら、ご姉弟ですか? 可愛いわねえ」


 孫と遊びに来ていたのだろう、通りすがりの年配の婦人がニコニコしながら話しかけてきた。お前の目は節穴か。黒目黒髪と銀髪青目が姉弟なわけがあるか。ボクが顔をしかめる傍ら、結衣お姉ちゃんは上機嫌だ。



「親戚とか兄妹とか、憧れてたんだ」


 観覧車に乗り込んで、向かい合って座りお喋りする。


「亡くなったお父さんは身寄りがなくて、お母さんは施設育ち。親とか兄弟なんていたらいたで苦労する、なければないで気楽だろうから羨ましいって言うけど、ずっといた人がそんな事よく言えるよね……」


 そういう結衣お姉ちゃんもやっぱりいる苦労は分からない訳で。定年間近で後継者問題起こす王様が親でも同じ事が言えるの?


「レオくんもそんな風に言うんだね。……親ってやっぱり鬱陶しいの?」


 「はい」 以外ボクに何が言えるだろうか。


「まあ、いるのも大変なんだろうな。でも、やっぱり私はもっと身内がほしいな。さっき、レオくんと姉弟みたいに言われて、ちょっと嬉しかった」


 最初から好き好き言ってるのに。どうしてそこで喜ぶんだよ。


 観覧車が頂上付近まで昇ってきた時、ボクは静かに立ち上がり、音もなく結衣お姉ちゃんに近づいて……。


「レオくん?」


 ぎゅっと結衣お姉ちゃんを抱きしめた。


「なあに? 甘えてる? 抱きついちゃって可愛いなあ!」


 やっぱり、ボクには悲しませることはできない。けど、今のままじゃ恋愛相手に見てもらえない。時間が必要なんだろうか。家に帰ったらユージェルと連絡を取ろう。




「あのさ、この際だから聞いちゃいたいんだけどね」


 帰り際、少しだけ涼しくなった道で結衣がレオに問いかける。


「レオくん、王様になりたいの?」


 それを聞いてレオは思い出した。そもそも後継者問題が拗れに拗れた結果、占いに頼って異世界まで来たことを。


「……」

「えっと、答えにくい話だったかな」

「答えにくいっていうか……ああうん、やっぱり答えにくいかも。そりゃあ殺されたくないし」

「え!?」


 結衣が思わず素っ頓狂な声をあげる。


「え、え、やっぱりルイとはまだ……」


 最初の出会いを思い出す。確かにあの頃は二人とも見下し合ってたが。


「そういうんじゃないよ。ただ何ていうか、伝統かな? 争いに敗れた者の血を絶つべしっていう風習みたいなものが」

「……どっちかが王位についたら、それ実行するの?」

「さあ。その前にこういう異世界にまで来る事態になって例外づくしだし。なんにしろどっちかが就く必要があるしね。例え実行しないでいても後に問題あったらやっぱりやるしか……」

「なんでそんなあっさり……理解できないよ」


 結衣のその一言に、レオは表情を曇らせた。


「結衣お姉ちゃんが言うの……ああでも直接は関係ないか。かつてね、異世界人の母を持つ長男王子が現地の母を持つ弟王子と対立して、兄王子の血を絶つしかなかったんだ。ユージェルでは有名な話」

「異世界人……って」

「ちょっと呼ぶ必要があったみたいで。でも美人だからって留まらせたのは失敗だったな。やたら異世界を崇拝する人達とユージェルに誇りを持つ人々が真っ二つ。のちの大地震よりこの争いでの死者のほうが多かったかもね。結局は兄王子が死んだことでようやく王統が(ただ)されて……そういやその際に異世界人も死んでたな。まあ、こういうわけで争いの根は絶ちましょうみたいな伝統になったみたい」


 結衣は思い出していた。歴史の先生が話してくれた、平家と源氏の因縁。平家の大将は源氏の生き残りに情けをかけた。そしてその生き残りに滅ぼされた。それを踏まえて源氏の大将は、味方から裏切り者が出た時、産まれたばかりの赤ん坊すら許さなかったと。


「そういう概念が、普通なんだ……」

「概念? まあそうかも。責任とれって話なだけなんだけど」


 世間話のように語るレオには悲壮感はない。本当に『そういうもの』 なだけらしい。


「でも、前は交流もなくて血筋を笠に着た偉そうな男……だったけど今は……。あっちもそうだから後継者云々って言わなくなったのかな」

「そうだよ。三人しか居ない兄弟でしょ?」

「え」

「え?」


 三人しかいない兄弟。だよね? と結衣は思う。あれ、それとも聞いてないだけで、数にも入れられないようなシュリーのような兄弟がいたり? うわ私恥ずかしい。


「いや勘違いするのも無理ないよ。ユージェルにあと一人兄がいるんだけど。習わしで、本当の長兄は数には入れないことになってるんだ。ボクも忘れかけてたな。まだ祈りの間で神官やってるのかな? ルーカス様は……」

設定使いまわしてます。

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