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次男がいちゃいちゃしてるだけ

 シュリーは最近図書室に通い詰めだ。勿論、結衣が図書委員だから……ではない。最近できた彼女の葵と校内デートをするのに都合がいい場所だからだ。

 恋愛関係を表ざたにするのは、この世界ではよくないと思って公言はしないでいる。なぜなら長男が恋愛関係でかなり煩わされてるのを見たら、他の人に話して祝ってもらおう! なんてお花畑なことは考えられない。

 利用者が多いところなので、座る場所にはいつも人が隙間なく埋まっている。これなら隣に座るのも自然だ。

 結衣が自分に好意を抱いていたとは知らないシュリーは、「そろそろ周りに勘付かれるんじゃない? いつも同じ人の隣に座るのはおかしいよ」 と結衣のフォローもあるからここはデートに最適だと思っている。そして、葵の委員会が終わるのを待つ場所としても。




「終わるまで待ってもらうなんて……なんだか、申し訳ないな」


 7月上旬、夏至も過ぎた夜の下校。やはり女性の一人歩きは見過ごせないとシュリーは思う。


「気にしないでいい。自分が心配なだけだから」

「そうなの? ……迷惑かけといてなんだけど、ちょっと嬉しい」


 そう言って微笑む葵にむず痒くなる。これまで交際経験などなかったから、上手い返しなど思いつかない。こういう時、自分こそ一緒に帰れて嬉しいと、さりげなく伝える方法はないものか。軽々しく口にすると慣れてるみたいだろうし、かといって無反応だと冷たい人間に思われかねないし……。


「あ」


 夜空を見上げると、月が煌々と照っている。梅雨も過ぎて、まばゆいばかりの月夜。


「月が、綺麗だな」


 考えるより先に口にしていた。確か今日読んだ雑学本に書いてあった逸話。ある人の英訳語だとされているが……。


「あっ本当だ」


 気づいてないのだろうか。……まあ、自分も最初見た時、それがどうしてその訳になると思ったからな。


「でも、今日のはきっと、特別に綺麗」

「……そう、か」

「うん」


 そう言ってそっと手を握ってくる葵に、シュリーはそれ以上言葉を紡げなかった。


 これがお察しくださいと言う文化なのだろうか?


 悪くないな、とシュリーはその小さい手を握り返した。

※この話の主人公は結衣。

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