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第十七話 冷たい汗

 Gentaです。

 いつもお読みいただいている皆様、本当にありがとうございます。

 十六話まではテンポ良く書けたのですが、十七話アップまでかなりの日数がかかってしまいました。

 毎日アクセスカウンターを見ながら、少しずつ増えてくれているカウンターの数字に励まされ、叱咤されつつ、何とか書かせていただくことができました。

 それでは、相変わらずの駄文ではありますがお読みください。

 私の思考がおぞましい書類に捕らわれている間も、真美ちゃんは仕事を続けている。

 帯刀さんは電話交換室に戻って来た時と同じ姿勢で座り込んだままで居る。呆然としているその様子から、私に手渡した書類についてある程度のことを知っているのだろうと感じられた。

 書類を読んで恐怖に凍り付いている私、私たち3人の中で真っ先に書類の概要を知らされたであろう帯刀さん、そんな私たちのことなんかまるで眼中にないように平然と仕事をこなしている真美ちゃん……。

 真美ちゃんは何を感じて、どんな風に思っているのだろう。沈黙する私と帯刀さんとは正反対に、平成に見えるけれども、真美ちゃんも不安を押し隠しているだけなんだろうか。

 坦々と仕事をしている真美ちゃんの声が、私を少しずつ現実へと引き戻した。氷が周囲の温度に徐々に汗をかき、やがて溶けてしまうのと同じように、真美ちゃんの声を聞きながら私の思考も僅かにではあるけれども、何かを考え行動しようとし始めていた。

「ねえ、真美ちゃん!仕事代わるから、……、ちょっちょっとこれ読んでみて!早く!」

 張りのある声で、真美ちゃんにそう言ったつもりだったのだけれど、震えてかすれた頼りなげな声しか出なかった。

 真美ちゃんは「うん」とだけ言うと、私から書類を受け取って、すぐに読み始めた。

 私は、真美ちゃんと交代して電話応対を始めたのだけれど、書類を読んでいる彼女が気になってしまって気が気ではなかった。

(真美ちゃんならこの現実離れした恐ろしげで馬鹿げた計画を、きっと笑い飛ばしてくれるはず!こんな馬鹿げた計画に怒りを感じて、きっと反抗してくれるはず!)

 そんな漠然とした期待があったから、仕事をしながらもついつい真美ちゃんの方を伺ってしまう。。

 私がチラチラと視線を送っている間、真美ちゃんはずっと書類に目を落としたままだった。しかもあきらかに私より早い速度で読み進めている。

 それだけでも私にとっては驚きだったのだけれど、書類を読みながら眉1つ動かすでもない、そんな真美ちゃんの様子からは動揺の欠片すら見付けられなかった。

(国民の人権を無視した、あんな狂った計画の概要を見ても表情1つ変えないなんて!)

 私は、冷静すぎる真美ちゃんの態度に言いようのない不安を感じた。

(あまりにも信じられない計画を目の当たりにして、言葉を失ってしまっているのかしら?この計画に抵抗すべく、何かを考えているのかしら?それとも……、それとも……)

 黙々と書類を読み続ける真美ちゃん、規則正しく繰り返されるページをめくる音。

 鳴り響く電話のベル、それに応じる私の声。

相変わらず黙り込んだままの帯刀さん、今にも泣き出しそうな曇天。

「まっ真美ちゃん?……」

 私は募る不安に耐えられずに、真美ちゃんの顔をのぞき込むようにして、そう問いかけた。

 真美ちゃんは私の問いかけに応じるように、ファイルを閉じて顔を上げた。

「あっお茶入れますね」

 よほど動揺しているのだろうか、真美ちゃんはそう言うと立ち上がった。

 彼女はいつもの朝と同じように、戸棚から私たちの湯呑みを取り出して、ゆっくりとお茶を入れている。

 いつも通りに振る舞うことで、真美ちゃんは冷静な思考を保たせようとしているのだろう。私にはそう思えた。

「ったく馬鹿げたことですよねえ!」

 真美ちゃんは帯刀さんと私の机にお茶を置きながら、そう言った。

(やっぱり真美ちゃんも、こんな計画馬鹿げてるって思ってるんだ!)

 共感できる仲間ができたことに、私は安心した。ちょっとおおげさだけれど、広い砂漠でオアシスを見つけることができた時の旅人チックな気持ちかもしれない。それくらいの安堵があった。

「っでしょ?何の権利があって、こんなふざけたことができるの!国民を実験の道具にするなんて、ほんっとにふざけてるってか、狂ってるわ!」

 真美ちゃんを味方につけたことで、私はこの計画への怒りをぶちまけようと思った。

「携帯電話を使って国民の意志を制御するなんて!めちゃくちゃよ!」

 真美ちゃんは黙って私の話を聞いている。

「そりゃね今は非常識な人も増えてるけどさ、だからって国が人を選別したり、考え方をコントロールしたりするなんて、許されることじゃないわよ!」

 時折掛かってくる電話に遮られたけれど、私はつぎつぎに沸き上がる言葉を、でたらめに紡ぎ続けた。

「だっだいたい!モラルが乱れてるからって言ってもね、そんなふざけた時代にしちゃったのは今の大人にも責任があるわけだから……、国民を無理矢理にコントロールするなんて過激なやりかたしなくたって良いじゃない!悪いのはこんな今の時代を作っちゃった大人たちなんだから、自分たちの悪かったことを棚上げにしてさ、有能とか無能とかで国民を選別したり……、どんなことするんだか分からないけど、携帯電話使って人の考え方の方向性を一定の幅にコントロールするなんて!……」

 電話交換室の中はクーラーが効いているけれど、怒りの気持ちは私の体温をクーラーに逆らわせている。必死でしゃべり続けているせいで、頬は熱くなり、首筋から背中へ、ツツッと汗が流れた。

「美紀ちゃん?マジでそんな風に思ってるの?」

「えっ!?」

「私が馬鹿げてるって言ったのは……、国のやり方が甘いってことを言ってるの。やるんならやるで、徹底的にやっちゃわなきゃ、うざい愚民は消せないってことなの。……っま、別にどんなことしてくれても、私勝ち組に残るけどね」

 背中を流れる汗の温度が、急激に冷やされて行くような気がした。

 真美ちゃんは、私の味方ではなかった。彼女はあの恐ろしげな書類を読みながら、私とは全く違う冷淡な気持ちを育てていたのだ。

 年度の変わり目で仕事上もドタバタしているGentaですが、「仕事忙しいねんから、執筆でけへんでもしゃあないやん!」なんて言い訳や逃げをせずに、少しずつでもアップしますので、これからもよろしくお願いします。

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