第十三話 ネット上の不気味な噂
時計のデジタル表示は11時を過ぎてしまっていたのだけれど、私の手はマウスを動かし続けていた。
(あと少しだけ!もうちょっとだけ……)
なんて思いながら、PCを弄んでしまって、ついつい夜更かしをしてしまうのは、いつものことだ。
私は、国内最大の掲示板(ch A to Z)の専用ブラウザを起動させた。
このサイトは、「A to Z」って言う名前の通り、真面目な書き込みからふざけた書き込みまで、いろんな書き込みがとけ込んでいる。
画面に居並ぶあまたの書き込みの中から、自分の好む情報を選び出すには、IEよりも、専用ブラウザを使う方が便利なのだ。
専用ブラウザは、自分がどのスレッドのどこまでを閲覧したのかが、ちゃんと記録されているから、ストレスなく続きの書き込みを閲覧できるようになっている。
「☆☆書き込め!都市伝説☆☆」
1週間前くらいに読んだっきりのスレッドを開いてみる。
何の役にも立たないような書き込みが連ねられてるスレッドだけれど、なにげに流し読みするには、ちょうど良いスレッドだ。
前に見た時から、グンとスレッドへの書き込みの件数が延びているようだ。
(ありきたりな都市伝説で、こんなに延びるかしら?ひょっとするとスレッドが荒れてるのかも?)
私は好奇心に身を任せて、読み進めた。
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167:都市伝説を語る名無し
死体ホルマリン漬けを棒でひっくり返す仕事は時給高いらしいぞ!
168:都市伝説を語る名無し
>>167 んなバイトねえよっ!
169:都市伝説を語る名無し
>>168 無いって言える根拠は?
170:都市伝説を語る名無し
最近、あちこちで配られてる携帯にくっつけるシール知ってるか?
あれには何か陰謀めいたものがあるらしいぞ!
俺、受け取っちまった!ガクブル!
171:都市伝説を語る名無し
>>169 献体をそんな風に粗末に扱うはずねえだろが!
172:都市伝説を語る名無し
>>170 は、スルーかよ!
173:都市伝説を語る名無し
>>170 と >>172 は、自作自演だろ?
174:都市伝説を語る名無し
俺 >>172 だけど。
>>170 とは、別人だよ。
俺もその噂、聞いたことあんだよ。
なんでも、その携帯に貼り付けるシールを介して、脳波に干渉して、どうとかこうとか……
175:都市伝説を語る名無し
SFちゃいまんねんでえ!そないなこと、あるわけおまへんがな。
176:都市伝説を語る名無し
否定ばっかしてたら、ほとんどの都市伝説が成り立たなくなるじゃん。
ここは1つ、 >>170 が目新しい話題を提供してくれたってことで……
あり得る話しってことで、この件を検証してみようぜ!
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500件くらいまで読み進めていくと、さすがに目がチカチカしてきた。おそらくはスレッドの最後まで、この携帯に貼り付ける謎のシールの話題で占められているのだろう。
「○○ビデオ店で、そのシールを受け取って、携帯に貼ってしまったけど、大丈夫だろうか?」
とか、
「携帯ユーザーの数は、人口の8割にはなるだろうから、そんなに大量の人間の脳波に干渉するような何らかの陰謀が計画されてるんなら、大変なことだ」
とか、根も葉もない書き込みが羅列されていた。
ネット上には常に、こう言う風な不気味な蠢きが見え隠れしているのかも知れない。
(確かに、携帯を持った猿どもが一斉に妙な動きをし出すことを考えるとおぞましい気もするけれど、机上の空論と言うか、ネット上の絵空事に違いないわ!)
一瞬浮かんだ嫌な想像を打ち消すように、私はベッドに身を沈めた。