第一話 いつもの朝
ワンワンと吠える目覚まし時計が、私に月曜日の朝を自覚させる。
寝そべっている猫を犬が叩き起こす、って言う情景がデザインされた目覚まし時計。私が就職した頃に、誰かがお祝いでプレゼントしてくれた物だ。
オッフェンバックの「天国と地獄」を犬の鳴き声でけたたましく!
「♪ワンワンワンワン ♪ワンワンワンワン ♪ワンワンワンワン ♪ワンワンワン」
なんて毎朝やってくれるものだから、嘘偽りなく、「ワンワンと吠える目覚まし時計」なのだ。
吠え立てる目覚ましを止めて、私はモゾモゾとベッドから抜け出した。
それにしても、体が怠い。っと言うか、正確には気持ちが怠いのかも知れないけれど、月曜日の朝の私は、決まってこんな風だ。
日曜日の夜にサザエさんを観た後に、明日からの仕事や学校のことを考えて、憂鬱になったり、倦怠感を感じることを「サザエさん症候群」って言うんだったっけ?
だとしたら?私のは?
「めざましテレビ症候群」かしら?
それとも?
「朝ズバッ!症候群」なのかしら?
何にせよ、日曜日の夜(6時半)頃から、憂鬱とか倦怠感を引きずらされるよりは、私のそれは少しはましなのかも知れなかった。
エアコンとTVをつける。
冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを取り出して、グラスに注ぐ。友達が旅行のお土産にくれた、なんたら焼きの陶器のビアグラス、その手触りを楽しみながら、冷たいコーヒーを一気に飲み干す。
冷たいコーヒーを喉に流し込むのは、私の目を覚ますためのちょっとした朝のイベント。
白飯でもがっつり食べて、元気を出して……と。
怠かろうが、憂鬱だろうが、とにかく仕事に行かねば!なのだ。
仕事して、お給料もらわなきゃ、生活も、趣味もへったくれもないし、お気に入りのアクセだって買えないし……。
私は、観るともなしにTVをちらちら見ながら、ご飯と昨日の夜の残りの味噌汁を食べた。
TVは、
「芸能人の誰と誰が交際してる」
とか、
「電車の中で携帯で話してるのを注意されて、逆ギレした若者が注意したサラリーマンにけがを負わせた」
とかの、エンタメとニュースをごちゃ混ぜにした番組を垂れ流している。
私にとってそれらの情報は、さほどの興味も惹かれないようなものだったのだけれど、出勤する時間を計るメジャーにはなった。
お米をといで、炊飯器のタイマーを、私が仕事から帰る時間(6時40分)にセットする。
服を着替えて、顔の周りをちゃっちゃと整える。身支度と言うにも、化粧と言うにも、あまりにも粗末と言うか、おざなりな動作だ。
TVのオフタイマーを30分後にセットする。電気代がもったいない!って言われるかもしれないけれど、静かな部屋を出るのはなんだか寂しいから、毎朝私は、TVの音を背中で聞きながら出掛けるようにしている。
「今日の天秤座の運勢は……」
女子アナの声に一瞬立ち止まって、耳を澄ましてから、部屋のドアを閉めた。
お読みいただき、ありがとうございます。
話しがグダグダにならないうちに最終話にこぎ着けられれば!なんて思いながら書かせていただいております。
無事に最終話までたどり着けるよう頑張りますので、おつきあいいただけますよう、よろしくお願いいたします。