(後)
十七、
そうだ単純なことじゃないか
ぬけ出せばいいんだ。
この世界から
この嫌な世界から
逃げだせばいいんだよ
僕は笑った。
すごいものを見つけた。
見つけてみれば、
かんたんなことだった。
今まで気づかなかったのが、
不思議なぐらいだ。
だけど今僕は、
すごくいい気分だ
すごいことを見つけた
のだから。
僕は笑った。
変だ。
そんなに面白いことじゃ
ないのに。
すごいことだけれど。
僕の体じゃないみたいに
笑った。
かわいたのどが、
かっかっと笑った。
十八、
ここから出ようという僕の言葉に、
誰も何も言わなかった。
誰も相手にしなかった。
僕はエマだけに言った。
エマは何も言わなかった。
誰も何も言わなかった。
ただ冷たい手が、僕の手を握った。
十九、
ここから脱けだそうと、
つないだ手。
はじめは冷たい感触に、驚いた。
そのうちに、二人の温度で、
あたたかくなる。
ここから脱けだして、
何があるのか。
分からないけど、
分からない未来と、二人でいることに、
僕の胸は高鳴った。
エマは不安だろうか。
だけど僕の手を離そうとしない。
だから僕の手を離そうとしないのか。
僕はただ、エマがいてくれる
だけで、よかった
僕たちはどこに行くのか分からない。
ずっと怖かった夜さえ、
今は怖くない。
照らす明かりより、
てのひらから伝わる温度の方が、
心強かった。
エマ
エマはどうだろう。
分からないけど、
同じ気持ちだといい。
ぬけ出す僕たちを追いかけて、
いつの間にか、七人ぐらいになって、
僕たちは列になった。
誰も何もいわない。
一度も話したことない奴もいる。
嫌な奴もいた。
だけど今、僕たちは、
心で通じあった気がした。
僕たちは、進んで孤独になって
いたんだ。
僕たちは、
通じあうことができる。
みんなで行こう。
僕たちは友達だから。
でも、もし僕とみんなだけだったら、
僕は行かなかっただろう。
エマがいるから、勇気がわいてくる。
誰も僕たちをいらないという。
僕はいらなくてもいい。
だけど僕は、エマが必要だ。
僕だけの言葉だけど。
いつか僕も、誰かに必要とされたい。
僕たちは、僕たちを必要としている。
「いらない」という大人を、
僕たちはいらない。
二十、
朝の光がかなたに乱舞する。
白い雲が霧のように過ぎ去っていく。
青い風が吹いた。
外には音があった。
苦い空気、耳に痛い音。
目が、群れが、行き過ぎていく。
奇異な群れの僕たちは、どこへ行くのか。
一度は行ってみたいなんて、口にした場所も、
急には出てこなかった。
橋を渡るんだ。
ただそれだけが、僕の中に芽生えた。
橋を渡れば、その先に何があるか、
分からない。何もないと思う。
ただ橋を渡ることが、
この旅の目的であり、
そうすることで、
何かが変わると思っていた。
風が。空を映した青が。霧が。
行き過ぎていく。
ただその情景。
僕たちは橋を渡る。
追い立てられるようにして渡る。
誰かが僕たちを追いかける。
逃げて、どうなるとも思っていなかった。
僕たちは囲まれた。うるさい音と色に、群れに囲まれた。
空を仰ぐ。
風が流れた。
二十一、
「手をつないでいて。そうすると、何も怖くないから」
そういう君は、ここには
もういない。
僕は、オレンジに、金色に、輝く花の波を
見ていた。
何を書いたんだろう……
自分でもよく分からない。
「僕」の手記という感覚で書いた。
まずノートに書き殴って、それをそのまま。
チャレンジ精神でもって書いてみました。