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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
8/56

第八話 燃え盛る玉

 パチンコを手に入れたカイン一行は、初めの部屋に戻っていた。パチンコのあった部屋は結局行き止まりだったからだ。かといって、戻ってみてももう一つの鉄格子が開いたわけではないらしい。ドアの前に立ったカインは、鉄格子に手を触れる。

「こっちが開かないと前には進めないんだけどな……」

 頭を掻き、カインは困ったような表情で三人の方に振り返った。シャープとロナンはわからないと首を振るが、リリーは何かに気がついたようで、笑みを浮かべながらカインの隣まで駆け寄った。

「まだ気がついてない仕掛けがあるんじゃない? ほら!」

 カインはリリーが指差した方角を見る。向かいにある、カイン達が入ってきた部屋の入り口の遥か上に目のような飾りがあった。単なる飾りではない。瞳がぐるぐると動き、四人を代わる代わる睨み付けているのだ。見張られているようで、少々気味の悪い雰囲気だ。カインはリリーの表情を窺う。

「怖くないの?」

「うん。どうせ作り物にしか見えないし」

 リリーは笑顔だ。見た目の不気味さ云々より、人工物の雰囲気が強いお陰でリリーは怖くないらしい。

「ねぇ、あれをさっきのパチンコで撃てないかな?」

 自分の手柄だとはしゃぎ、雀の小躍りをしながらリリーはカインの顔を覗き込む。リリーの肩をつかんで落ち着かせながら、カインは遠くの目を睨み返す。確かに撃てば何かありそうではある。ただ、パチンコで届くような距離には見えなかった。それを伝えようと口を開きかけたカインだが、すぐに閉じ直してしまった。

 目の前のリリーは、目を輝かせながらカインの動きを待っていた。ため息が自然と洩れてしまう。ここで無理だなどと言ったら、失望されること請け合い、もう村一番のおてんば美少女には相手にされなくなるだろう。

「やるだけやってみるよ」

 諦めたカインは、試すだけ試すことにした。旅嚢(りょのう)からパチンコと赤い玉を取り出すと、ゆっくりとパチンコを引き絞っていく。その動きに気がついたのか、目は真っ直ぐこちらを睨んできた。警戒している目に狙いを定め、カインは玉を放った。

「なにぃっ!」

 その瞬間に、その場に居合わせた全員がそう口走った。何故なら、パチンコの玉は真っ赤に燃え盛り、一直線にこちらを監視する目の元へ猛進したからだ。目はパチンコの玉で貫かれ、まぶたを閉じる。

「す、すごい……」

 自分で玉を撃ったカインが一番驚きを隠せなかった。呆気に取られていると、背後で鉄格子が開いた。ロナンとシャープも数段高い扉の前までやってくる。

「すごいな! やっぱり迷宮には魔法の道具が溢れてると思ったんだよ!」

 シャープは大声を弾ませ、カインの手ごとパチンコを手に取って眺めた。詳しく見つめると、パチンコの柄に炎の意匠が刻まれていた。ロナンはその様子をひとしきり眺めた後、扉に手をかける。どうやらパチンコの称賛を言葉に出来ないらしかった。振り向くと、何の脈絡もない言葉を口にする。

「さあ、開いたんだから行こうぜ」

 ロナンは両開きの扉を片手で押し開ける。村長の兄妹もそれにしたがって次の部屋に足を踏み入れた。カインはさらにその後に続き、パチンコを見つめながら呟いた。

「さすが。迷宮のものは遊び道具からして違うや」


「うわあ。今度は何ともすかすかな部屋だねぇ」

 シャープが思わずそう口にしたという事は、まさしくその部屋は殺風景であるのだ。前と左に扉がある正円形の部屋には同じく正円の石畳が敷き詰められ、隙間には白い砂が詰められている。その上にあったのは、中心の小さな燭台ただ一つだけだった。

「こんなにわかりやすい仕掛けもないね。真ん中の燭台に火を付ければいいだけじゃないか。カイン。さっきみたいにやってしまいなよ」

 シャープが一息に話し終えるまでの間に、カインは火を放つ準備が整っていた。頷くと、カインは一歩前に踏み出し燭台へと狙いを定める。

「行けっ!」

 パチンコの緊張が解かれ、炎の玉は真っ直ぐ燭台に到達した。燭台に小さな火が灯り、煌々(こうこう)と光を放ち始める。左の鉄格子が、ホコリを払い落としながら持ち上がっていく。

 ロナンは口笛を吹くと、炎のパチンコをまじまじと見つめた。

「大したもんだな。火が付くのもすごいけど、ここまで飛距離や威力のあるパチンコもそうはないぜ」

 カインは食い入るように不思議なパチンコの事を見つめていたが、やがて力強く頷いた。彼の中に、一つの確信が生まれたのだ。

「きっとここで手に入る道具は全部謎解きで使うんだ。そうに違いないよ。だから、絶対宝箱は取り逃さないようにしよう」

 カインの言葉に、三人も頷き返した。

「よし、じゃあ次の部屋に行こうぜ!」

 カイン達は、意気揚々と一歩を踏み出しながら、左の部屋の扉を開く。新しい風が吹き込み、燭台の炎は強く、確かに燃え上がった。

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