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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
7/56

第七話 物言わぬ剣士

 二つ目の部屋に広がっていたのは、これまた先程よりは一回り小さいが、正方形の部屋には違いなかった。今度は、ど真ん中に盛り上がった石畳。山なりになっている。そして、その前後左右を取り囲むように剣を垂直に構えた剣士の石像が四つ沈黙していた。しかし、剣士は全員入口側の壁を真っ直ぐ見つめている。物言わぬ守護兵は、静かに探険家達に挑戦を挑み続けていたのだ。カインは肩を縮こまらせる。

「何だか怖いな。あの像」

 リリーは身震いすると、自分を抱きしめた。剣士は石で出来た生気のない瞳で四人を見つめている。そのくせ、身につけている服の質感、短髪の流し具合、筋肉の質感は本物だ。まるで、生きていた人間が石にされてしまったかのように。カインは無言で手前の剣士の脇をすり抜け、真ん中にある石畳の前に立った。ロナンも後に従う。シャープは背後で小さく震えているリリーをかばいながらさらにその後について行った。

「なあ。この石畳押せるぞ」

 カインは上に乗りながら三人に話しかけた。カインが真ん中の石畳で飛び跳ねると、確かに動いている。だが、カインの体重ではどうにもならないようだ。ロナンは自分を指差す。

「カインは百ポンド(一ポンド…四五○グラム)しか無いからな。俺は百二十ポンドだぞ。交代してくれ」

 シャープは首を振る。

「いや。二十ポンドでどうにかなるものじゃないだろ。それに、重さだけで言ったら僕は百三十五ポンドあるよ」

 さすがに背の差は大きいようだ。ロナンはうなだれる。しかし、シャープは指でロナンを石畳の上に登るよう促した。

「でも、ロナンが俺を背負って、両肩にカインとリリーが掴まれば……百ポンドに、百二十ポンドに、百三十五ポンド、そして……」

 リリーは頬を膨らませてシャープを睨みつけた。

「なによ! 女の子に体重聞くの!?」

 シャープは頭を掻きながらリリーから目を逸らす。

「と、とにかくだ。四人全員の体重をかけたら押せるかもしれないぞ」

「なるほど! 早速やってみるか」

 ロナンがまず石畳の上に立つ。シャープはロナンにおぶさる。カインとリリーがロナンの肩に掴まった。四人は顔を見合わせて頷きあうと、カインとリリーが足を床から離した。木槌で石を叩いたような鈍い音が響き、石畳は床に沈み込んだ。同時に、部屋の奥の石畳がせり上がる。

「あ! 何かある!」

石畳の下には、小さな箱が安置されていた。それを見て、はやる気持ちを抑えられなくなったリリーはロナンの肩から降り、宝箱に向かってかけ出した。だが、リリーの目の前で石畳は再び沈み込んでいく。ため息をつくと、リリーは三人の方を振り返った。また沈んじゃったよ、と言うつもりだった。

「大丈夫?」

 彼女は思わずそう口走りながらカイン達のもとに駆け寄る。リリーが離れたことで再び跳ね上がった石畳に吹っ飛ばされ、カイン達は硬い床にしたたか色々なところを打ち付けていた。打った背中をリリーにさすってもらいながら、シャープは箱が現れた石畳の方を見やる。

「とにかく、あそこに箱があることはわかったし、俺たち四人がこの石畳に乗っかってないとあの石畳がせり上がらないこともわかった。どうする?」

 カインは周りの剣士たちを見回した。ブロックが動いたのだ。この剣士も単なる置物ではないはずだ。そう思い決めて立ち上がると、入り口から一番向こうに位置していた剣士のもとに近寄る。その背中に回ると、全身の力を込めて押し始めた。すると、少しずつ剣士像が動く。ロナン達は慌てて剣士像の道を開けた。石畳を五つ横切り、真ん中の盛り上がった石畳に、剣士像はピタリと乗った。真ん中の石畳は沈みこみ、遠くの石畳が再びせり上がる。カインは満足気に頷いた。

「これが答えだ」

「きっと宝箱に違いない。リリー。さっきは残念だったし、お前が取ってくればいいよ」

「わかった!」

 シャープに言われるがまま、リリーは宝箱に駆け寄り、おそるおそる手で引き出した。鍵は付いていない。上蓋のふちを掴むと、リリーは一気に持ち上げた。輝く顔でその中を見た彼女だが、途端に不思議そうな顔になる。それもそのはず、宝箱の中身はパチンコだったのだ。丁寧に赤い玉が詰まった袋まで入っている。

「ねえ。こんなのしか入ってなかったよ?」

「遊び道具を手に入れるために俺達は苦労してたのか……」

 鳥の鎖骨のような形をした木の枝に、弾力性のある紐を取り付ける。玉を支えられるように台座を付ければパチンコの完成だ。男子なら一度は作る物が宝物だと思うと、ロナンはため息しか出てこなかった。

「まあ、いいじゃないか」

 落ち込んでいる二人を見つめ、シャープは静かに微笑んだ。

「たしかに『遊び道具』かもしれない。けど、僕ら四人が見つけた初めての宝物じゃないか。十分価値はあるよ」

 カインも頷いた。

「そうさ。それに、役に立つかもしれないぜ。貰えるものは貰っておこう」

「そっかあ。そうだよね!」

 リリーは顔をほころばせ、改めてパチンコを見つめた。四人が力を合わせて手に入れた道具。宝物になるにはそれで十分だった。リリーは吹き抜けから見える太陽に向かってパチンコを掲げた。


 炎のパチンコを手に入れた!

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