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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
52/56

第五二話 回る案山子

 カインの手を借り、リリーが高い足場に立った。その途端にリリーの首元で鈴が小さく鳴り響く。リリーは間違っても落ちてしまわないよう気をつけながら、四人がいるには手狭な足場を膝立ちになって動き回る。すぐに鈴は再び鳴りだし、燭台を浮かび上がらせた。条件反射で、カインはパチンコをいそいそと取り出し火を灯す。すると、壁の至る所に穴が空き、そこからわらで出来たカカシが飛び出した。壁から身を乗り出したままくるくる回りだし、こちらを挑発しているようにも見える。

「何だか腹立つなあ。あのカカシ」

 カインは首を傾げて不機嫌そうな声を上げる。リリーはわらに描かれている、カカシの間抜けた顔を指差した。

「わらで出来てるんだから、カインのパチンコで燃やせるんじゃないかな」

 カインはリリーの言われた通りにした。一つのカカシに狙いを定め、脱力しそうになりながらパチンコの玉を放った。一瞬にして燃え上がり、カカシはくるくる回ったまま穴の中に潜り込んだ。カインはその様子を静かに見守っていたが、呆気無くカカシは再び顔を出した。火も消えており、全く効果が無かったようだ。完全にやる気を削がれ、カインはがっくりとうなだれた。

「むかむかする……」

 そんな一部始終を見届けていたシャープは、ベルトからブーメランを取り出す。

「ちょっと試してみる価値はあるかな?」

 シャープは手首を返してトンビを放った。効率のよい道筋を頭に思い描き、その通りにトンビを動かす。一体目のカカシに向かっていったトンビは、鋭くカカシの体を切り裂いてみせた。味を占めたシャープは、そのままトンビを飛ばして壁から突き出ているカカシを次々に切り裂いていった。その度に、目の前にブロックがいくつか浮き上がり、対岸に見える足場への道を作っていく。十三体目のカカシを刈り取る頃には、すっかり立派な階段が出来上がっていた。シャープは静かに息を呑む。

「十三段か……少し縁起が良くないね」

 リリーは兄の胸元を軽く突く。兄が不審な表情でリリーを見ると、彼女はそのまま胸を張ってみせた。

「縁起とか何とかって言ってる場合じゃないよ。そんな事今さら気にしたってしょうがないじゃん」

「冗談だよ。ちょっと言ってみただけさ」

 それだけ言うと、シャープは妹に笑いかけて階段を登り始めた。


「長い階段だな……」

 シャープは足場に降り立ち、壁に沿って伸びる階段を目でたどった。最上部近くまでその階段は続いている。カインは大きく伸びをした。少し疲れそうだが、出口が見えてきている嬉しさのほうが優っていた。リリーは三人の前に立って鈴を振ってみせる。

「なにかあると困るから、気を付けて行こうね」

「そうだな」

 カインは周囲に気を配りながら階段を踏み出した。土埃が舞ったが、他に何か起こる気配もない。カインが慎重に次の段に足をかけ、その後に三人が付き従う。

 カインは十段ほどそれを続けていたが、しばらくするとバカらしくなってしまった。そもそも、鈴に何の音沙汰も無いということは、この階段には何の仕掛けも無いという証拠だ。気を張るのに疲れたカインは、肩の力を抜いて歩き始めた。塔の全景を見渡しながら、カインは静かに尋ねる。

「なあ。この迷宮って、何のために造られたんだろう?」

 リリーは空を見上げ、真剣に唸る。

「どうして? うーん。ラウリン様が未来の魔法使いを試すために造ったのかなあ?」

 カインはリリーと同じように空を仰ぐ。リリーがいう理由だって含まれているのかもしれない。だが、人を試すなら色々な方法がある。仕掛けも何も無い神殿でも、宝箱から出てきたように対面して人を試すことだって出来たかもしれない。どうしてこのように入り組んだ迷宮を選んだのだろう。

「ドラゴンを封じるために造られた、っていうのだってありそうだな」

 ロナンが腕組みをしながら呟く。カインはなるほどと頷いた。たしかにそれも一理ありそうだ。かつて世界を荒らしたというドラゴンを封じるため、複雑な迷宮を造り上げた。リリーの言った理由と組み合わせれば、確かに納得がいく。

その時、シャープが静かに呟いた。

「謎は解かれるためにあるらしいよ。だからこの迷宮も、解かれるために造られたんだよ」

 一瞬沈黙し、階段を登る足音だけが静かに響く。やがて、カインがぽつりと呟いた。

「なるほど。シャープらしい答えだね」

 そのままカインは息を深く吸い込む。数段階段を駆け上がると、三人の方を振り返った。

「よぉし! それなら、さっさとこの迷宮を攻略するぞ! もうあと少しなんだ!」

 三人は顔を見合わせると、階段を小走りで駆け登っていくカインのことを追いかけ始めた。


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