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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
45/56

第四五話 夢現

 シャープは暗闇の中に立っていた。光はなく、今いる場所の様子など皆目見当も付かなかった。ただ、そんな暗闇の中でも、自分の体ははっきり見える。冷めていたシャープは、これが夢の中の世界であることをはっきり悟った。試しに頬をつねるが、痛くも痒くもない。その時、突然自分の名前を呼ばれて振り返る。妹が戸惑ったような表情で突っ立っていた。

「お兄ちゃん、ここどこ? やっぱり夢の中なの?」

 シャープは訝しむあまり顔をしかめる。ここは夢の中だ。リリーだって自分の中の幻想なのだ。だが、その幻想がこのように真に迫ったことを言うのだろうか。さらにおかしな事に、リリーは目を瞬かせてこちらの顔を覗き込んでくる。

「ねえ、そんな顔しないでよ。ここどこ?」

 聞いているうちに幻想だとは思えなくなってきたシャープだが、幻想でないにしたらこれほどおかしい話はない。どうして自分の夢の中に、他人の意識が割り込んでくるというのだろう。訳がわからず、口の中につばが溜まってくるのを感じつつ混乱していると、カインとロナンが現れた。

「シャープにリリー! どうして俺達の夢に出てくるんだよ!」

カインも鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしている。だが、隣にいるロナンはあくまで平常だ。

「出てくるんだから出てくるんだろ」

 シャープの迷いも晴れた。いくらなんでも自分の頭の中だけで三人の茶番劇を繰り広げることなど出来ない。どうやら不思議な空間に自分達の心だけが迷い込んだらしい。それを三人に話すと、何とかかんとか呑み込んだようだ。

「で、ここを抜け出すにはどうしたらいいんだろ?」

 カインが首を傾げながら周りを見渡す。自分達の姿の他には、何も見えない。果てがあるのかさえ分からない。何かするあても無い四人は適当な方向を見つめていたが、突然カインがある一点を凝視し始めた。そこから、昔の帝国人のような形の灰色の服を着た、立派な羽根を背中から生やした若い男が現れる。彼は四人に会釈をすると、両手を大きく広げた。

「よく来たね。挑戦者達。まさか、こんな子供だとは思わなかったけど……」

 子供扱いにもう慣れっこだった四人は、何ら反応を示さない。シャープが片方の眉を持ち上げながら尋ねた。

「あなたは一体誰ですか?」

 天使のような姿格好の若者が再び笑みを浮かべる。

「心の世界の支配者。天使でもあれば、悪魔でもある。天国へと導くことも出来れば、地獄に落とすことも出来る。そんな僕が、君達に一つ挑戦しよう」

 支配者の言葉は自信に満ちていた。支配者にふさわしい風格をたたえ、彼は四人のもとにさらに歩み寄る。それと同時に、彼の背後に二つの光が現れた。どちらも同じように瞬き、同じように煌めいている。

「あの光のうち、一つは君達にとっての天国、次の部屋への道さ。もう一つは地獄だ」

「地獄に行くとどうなるんです?」

 シャープの質問に、支配者は唇を思い切り引き伸ばした笑みを浮かべる。

「死ぬよ」

 その簡単な口ぶりが、逆に真実味を持たせる。四人はにわかに冷や汗が額の上を伝うのを感じ始めていた。


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