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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
44/56

第四四話 時はうっかり超える


 次の部屋は、とても懐かしい――と言っても、攻略してから一週間も経っていないのだが――気がする部屋だった。目の前にあったのは、四体の剣士像。炎のパチンコを手に入れた二つ目の謎だった。

「なんだ。どんどん簡単になってくる気がするけど、気のせいか?」

 言いながら、カインは手前側の剣士像に手をかける。だが、カインがいくら体重をかけても動く気配を見せない。見かねたロナンが戦士の手袋付きで手を貸したが、それでも剣士像は動かない。二人は肩で息をしながらへたりこんだ。

「こんなの嘘だ。どうして動かないんだよ……」

 その脇をすり抜け、シャープが肘をしきりに曲げ伸ばししながら奥の剣士像へ向かっていく。

「前はなあなあで解いちゃった謎だしね。横着しないで、前に解いたようにしておくのが一番間違いないよ」

 そう言いながら、シャープは奥の剣士像を飛び出した床に向けて押し始めた。呆気ないほどするする動き、剣士像は床の仕掛けを沈めた。シャープの背後で壁の一部が砂になって崩れ、新しい道を作った。

「ああ。そういうことだったのか」

 カインは感心したような声を上げた。黙ってしゃがみこんでいたリリーが口を尖らせる。

「何だか、最後の方の割につまらないよね」

 そんなリリーの前まで兄が歩いてきて、ゆっくり右手を差し出した。

「まあ、いいじゃないか。難しかったら難しかったで大変なわけだし」

 リリーはため息まじりにその手を取って立ち上がった。

「まあ、それもそっか。……ねぇ、待ってよ!」

 リリーは先に行こうとするカインやロナンに気付いて追いかける。その背中を見つめていながら、シャープはその場に硬直したまま動かなかった。

……そうは言ったものの……

 シャープはやはり頭に引っ掛かる物を否定できなかった。初めの部屋で見た、『時を飛び越える術を知れ』という言葉。次の部屋の内容を象徴する文面ということは先の二つの部屋で証明されているが、未だに『時を飛び越える』という雰囲気が感じられない。だが、言葉があまりに現実からかけ離れているようで、考えても考えても頭の中の霧が濃くなっていくばかりだ。

……でも、絶対あの言葉がこの部屋で意味を持つに違いないんだ。

「おい、シャープ! そんなところで突っ立ってるなよ!」

 カインの声に引きずられ、シャープは次の部屋に足を向けた。


「シャープ! お前の出番だぞ!」

 シャープが部屋に足を踏み入れた途端、カインが部屋の奥にある燭台を指差した。シャープは重たい動作で旅嚢(りょのう)を降ろし、ブーメランを取り出し、背伸びした。やはりあの碑文が頭に引っかかり、体の流れを緩慢にしていた。さっさと投げろとリリーに急かされたが、シャープは跳ね除ける。

「やめてくれよ。のんびりしたっていいじゃないか。こういうのは焦ると狙いが狂うんだよ」

 リリーは子猫のように唸る。

「むぅう。それでも早く!」

「はいはい」

 シャープはトンビを解き放った。トンビは七つの燭台をくぐり、青い炎を赤く変えていく。暇なときに放って遊んでいたので、もう既にブーメランの扱いはお手の物になっていた。最後の燭台をくぐったとき、シャープは片手間に宙返りをさせる。その合間に扉は開いた。

「じゃあ、先に行こうか」

 シャープはブーメランを受け止めながら振り返る。ブーメランの動きをぼんやり目で追っていた三人も頷いた。


 四人は戸惑った。目の前に再び現れた部屋は、『真実を知りたくば』の部屋だったのだ。壁は蘇り、ほんの数十分前の出来事を無視してしまっていた。目を見開いたカインは、壊れていたはずの壁に駆け寄り手で触れ、本物である事を確かめる。

「嘘だ。戻ってきちゃったのか?」

 シャープはロナンを横目で窺う。頷くと、先程と同じようにロナンは壁を叩き壊し、レバーを引いて扉を開いた。四人は走って次の部屋に飛び込む。落胆の溜め息が漏れた。

「駄目だ。やっぱり一周して戻ってきたんだ」

 カインは頭を抱えてしゃがみ込む。そこにあったのは、紛れもなく円柱の部屋。文字も刻まれている。動物の石版が積まれた棚まである。全てが元通りだった。シャープは大あくびをしてしまった。例の碑文について考え込みすぎ、だんだん眠たくなってきたのだ。だが、ひと眠りしようかと思った途端に頭の中の霧が晴れてきた。

……寝る。寝る……そうか。寝るのか。

 シャープはいきなり部屋の真ん中に寝転んだ。間の抜けたその態度に、カインが訝しげにしながら近寄る。

「何やってんだ? こんな時に寝っ転がるなんて、らしくないぞ」

 シャープは相変わらず欠伸混じりに受け答える。

「これでいいんだよ。時は毎日飛び越えてるんだ。それを今からするだけさ」

 シャープの言葉に、集まった三人は首を傾げた。確かに、夢も見ないほど熟睡すると、朝がとても早く来るように感じられる。だが、寝ることが『時を飛び越える術』などという馬鹿げた話は信じられなかった。三人はおずおず顔を見合わせる。シャープは既に寝息を立て始めていた。溜め息をつくと、三人もその場に寝転んだ。

「床が硬いよ」リリーの文句だ。

「しかたないよ。羊でも数えて寝よう」

 カインが一匹目を数えると、ロナンとリリーはそれにならいはじめた。

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