第四三話 繰り返される思い出
四人は瞬きを数度繰り返し、目を何度も擦った。首を何度も捻ったが、やはり目の前の景色には見覚えがあった。左を見れば、『真実を知りたくば』云々と記されている。違う所があるといえば、リリーが飛び込んでしまったところにあたる部分が扉に変わっているところくらいだ。
「絶対に前来た部屋とおんなじ仕掛けだと思うんだけど、みんなは?」
リリーは部屋の中心に向かって歩きながら、入り口で部屋の隅々まで見回しているカイン達の方を向いて尋ねる。シャープは頷いた。
「まあ、他に仕掛けがあるとも思えないしね」
カインはロナンの肩を叩いた。ロナンは既に戦士の手袋をはめている最中だった。
「よしロナン、任せた!」
「任された」ロナンはカインの肩を叩き返す。
真実の知り方が刻まれた壁の前に立つと、ロナンは腰を落とし、鋭い正拳を壁に見舞った。壁は一気にひび割れ、粉々になって崩れ落ちた。土ぼこりを払いながらその奥を見ると、レバーが設置されていた。三人を一瞥して頷くと、ロナンはレバーを引いた。石と石がぶつかり合う重い音と共に扉が開いた。
「まさか、これでおしまいじゃないよね?」
リリーがいかにも拍子抜けした顔で呟き、扉の向こうを見ようとする。シャープはリリーの隣に立って同じような仕草をする。
「そんなことはないと思うよ。みんな、とりあえず先に行ってみよう」
一足早くシャープは歩き出す。その後ろに三人はついていった。
「今度はなんだ?」
カインは首を傾げた。円柱状の部屋の中、壁を三つの文字列が取り囲んでいる。やはり見覚えのある部屋だ。
「ここってあれだよね。階段が出来上がった部屋のそばにあった部屋だ」
カインが見上げながら言うのを聞きながら、リリーは真正面に設置されている棚へと真っ直ぐ歩いていく。
「だとしたら、答えはもう一つだよね」
リリーは素早くタカの石板を左の窪みに、ライオンを真ん中に、ヘビを右にはめ込んだ。まもなく石板が光りだすと、棚が地中に沈んでいき、次の入り口が現れた。つまらなそうな雰囲気を全身にまとい、リリーは溜め息をついた。
「一度解いたことがある仕掛けなんて、簡単過ぎるよ!」
「この部屋は今まで解いてきた仕掛けの復習なのかもな」
ロナンが肩をすくめながら呟くと、カインは腕組みにため息をして、吹き抜けから見える青空を見つめた。
「そんなものなのかなあ?」
カインと同じく、シャープもどこか腑に落ちない気分だったが、とりあえずは進むしかないと決め、シャープはずんずん先へと進んでいくカインとリリーの背中に付き従うことにした。
次の部屋もやはり見覚えがあった。忘れもしない、カインがずぶ濡れになる羽目に遭った壁画の部屋だ。碑文の文字も全く同じ調子で刻み込まれていた。カインは溜め息をついた。
「あーあ。この部屋にはいい思い出がないなあ……」
シャープはカインとは全く反対の方角を眺めて苦笑いした。寒さに震え上がって暖を取りに行くカインの姿が頭の中に甦る。改めて思い出すと、滑稽で仕方がなかった。
「まあ、昔は昔だよ。さっさと火を付けて、さっさとこの部屋の謎を解いちゃおうじゃないか」
カインは口を尖らせながら近くの床板を踏んだ。連動して碑文の下から引き出しが飛び出してくる。ロナンがその中から松明を取り出すと、カインはパチンコを取り出して火山の絵を狙った。
軽い音と共に、火山の山頂に火が灯る。ロナンはすぐさま松明でその火を貰い、鳥の翼に移した。それを見届けたカインが、今度はドラゴンの口に火を付けた。ロナンはゆっくりと歩いていき、鳥の火を付けた松明で、人が握る杖に火を与えた。軽く爆ぜる音がしたかと思うと、四つの炎が大きく燃え上がって薄暗い部屋を明るく照らしだす。四人の目の前で、碑文が描かれた壁の石がみるみるうちに組み変わっていき、一つの通路を作り上げた。
「やっぱり盛り上がらないなあ……」
出来上がっていく通路を眺めながら、カインは呟いた。やはり一度解いたことのある謎だと、道が開ける喜びも失せてしまうものだ。退屈な気分が心や体に重たくしがみつき始めたが、ため息混じりにカインは振り払う。
「さあ、ぼーっと立ってないで行こうぜ。長居するのも暇だし」
リリーも普段の元気さはどこへやら、頭の後ろに手を組み足をぶらぶらさせている。
「そうだね。ううん……何だか拍子抜けだなあ」
三人がすたすたと次の部屋へ行ってしまう。それを何とか追いかけながらシャープは首を傾げ、あごをさする。
「時を越える術。……絶対この言葉がこの部屋を解く鍵なんだけどなあ」