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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
32/56

第三二話 朱雀とメノウ

 ヒスイの玉を手に入れた四人は、意気揚々と南の部屋へ足を踏み入れた。目の前に広がっているのは七つの燭台。全て青い炎がついており、奥にある鉄格子の扉は陽炎に揺らめいていた。カインは向かいの扉の上を見つめた。

「あそこに模様があるな」

 カインが指差した先には、円を一捻りしたような模様が刻まれていた。ブーメランを弄んでいたシャープが、一歩前に進み出た。

「これはきっと、僕の出番じゃないのかな?」

「ああ、頼むよ」

 シャープは中心の燭台に正対すると、ブーメランを勢いよく投げ出した。主の意思を聞き、ブーメランは滑らかに八の字を描いて燭台の炎をくぐっていく。炎はブーメランによって赤く染め直され、温かい光に変わっていく。最後の燭台にブーメランが触れた瞬間、七つの赤い炎は燭台に吸い込まれた。

「あ、扉が開いたよ!」

「よぉし、シャープいい仕事してる!」

 カインとリリーに肩を叩かれ、シャープは照れ笑いを浮かべた。

「いやあ。誰でも出来ることじゃないか」

「よし、次の部屋に行こうぜ」

「はぁい」

 ロナンを先頭に、四人は南の部屋へと足を踏み入れる。扉が壁にぶつかって大きな音を立てるのと、四人が目の前の荘厳さに感嘆の声を上げたのはほぼ同時だった。

「さっきの亀も迫力あったけど、この不死鳥はちょっと怖いね……」

 リリーは目の前で翼を広げている火の鳥の石像を見て溜め息を洩らした。賢者の魔法が成せる業なのか、火の鳥は円柱型の部屋の中心に浮いており、不死の火の玉の石像もまた、火の鳥の周りを取り囲むように浮かんでいた。火の鳥は口蓋を引き裂かんばかりにして押し広げ、こちらへ飛びかかろうとしているかのようだった。

「不死鳥ってもっと穏やかなイメージがあったけど、違うのかな」

 カインは火の鳥に威圧され、俯きがちで呟く。シャープはため息を付き、手を高らかに叩き鳴らした。

「ビビっちゃうのもそこまでさ。さっさとここの謎を解いてしまおう」

 ロナンは頷き、火の鳥をかわして部屋の奥を窺う。そこにあったのは、前の部屋と同じ、青い炎が灯る燭台だった。

「あの炎の色をブーメランで変えればいいんじゃないか?」

「それなら簡単じゃないか」

 シャープは宙に浮かぶ石像を避け、燭台のそばまで近づこうとした。火の玉を象る石像を避けていこうとすると、どうしても這って進むしかない。何とか火の鳥の足元を通ろうとした瞬間、シャープは何かに頭をぶつけてしまった。

「イタっ!」

「どうした?」

 カインはシャープの様子を石の隙間からのぞく。彼は頭を押さえてうずくまっていた。だが、彼の頭の先に何かあるようには見えない。カインは訝しげにする。

「おい、何に頭をぶつけたんだよ?」

 シャープは右手で頭を押さえながら左手を伸ばす。壁のように硬い感触があった。シャープは顔をしかめ、すごすごと三人が立ち尽くしているところに引き下がった。

「見えない壁で通れないんだ。きっと、意地でもこの石だらけで邪魔っけな空間にブーメランを通させたいんだよ」

 カインは愛想の良い笑顔でシャープの肩を叩いた。

「ならシャープ、応援してるからな」

 肩を脱力させ、シャープは頷いた。

「善処するよ」

 シャープは石の隙間を睨みつけ、最適の道筋を探る。ここで右へ、あそこでは左へと。シャープはブーメランを放った。シャープは頭の中で思い描いた道筋を通したが、途中でぶつかりあらぬ方向へと跳ね上がってしまった。まずいと思ったのもつかの間、ブーメランはあちこちぶつかりながらシャープのもとに帰ってきた。ブーメランを見下ろし、シャープは呆然と呟く。

「意地でも戻ってくるんだな」

「まあ、それがブーメランだからな」

 カインも目を点にしながら呟く。トンビの凄まじい執念には呆れてしまいそうになった。戻ってきてくれなかったらなかったで大変な事にはなるのだが。シャープは手の内でブーメランを一度回転させると、一歩後ろに下がり、もう一度ブーメランを投げ出した。しかし、小回りが効きにくいトンビに狭苦しい道を通るのは難しい。後もう一歩というところで左翼が石に触れてしまい、またへろへろと帰ってきた。

「くぅう……」

「頑張って、お兄ちゃん!」

 リリーがカインとロナンからスカーフを奪い取って振っている。ようやくシャープは以前見せたロナンのやるせない表情の意味を理解した。応援してくれるのはありがたいが、黙ってくれていたほうがもっとありがたい。

「リリー、少し静かにしてくれ。集中したいんだよ」

「ふぇえい。わかったよ」

 リリーはスカーフを二人に返し、兄に視線を寄せた。シャープは手首を柔らかく使って放り出す。トンビは何とか石だらけの道をくぐりぬけ、燭台の火を赤く変えた。その瞬間、炎を象っていた石像が一斉に動き出し、火の鳥の肩口から地面に向かって二列を作る。甲高い音がしたかと思うと火の鳥の肩口から赤茶けた宝石が外れ、石像によって作られた滑り台を転がり落ちてきた。カインはそれを両手で受け止める。

「何だろう? この宝石」

 カインは宝石を凝視した。赤と白の縞模様が出来上がっているその宝石は、カインにとって見たことが無いものだった。

「それはメノウさ。この縞模様が美しいって、人気なんだよ」

 シャープに説明されながらカインはメノウの玉を凝視したが、含蓄のないカインにはただのしましまな石にしか見えなかった。


 メノウの玉を手に入れた。これって美しいの?


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