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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
31/56

第三一話 ヒスイの玉とブーメラン

 カインはパチンコを構えて亀の背後へと回ろうとしたが、シャープに引き止められてしまった。

「そっちに行ったら真北の星は狙いにくいよ」

 カインは首を傾げる。ただでさえ亀の石像は部屋の半分の空間を占めているのだ。亀の顔側からでは、どうやっても真北の星を撃ちぬけるとは思えなかった。

「だって、真北の星だろ? 亀が邪魔じゃないか」

 カインが北側をまっすぐ指さすと、シャープはコンパスを取り出しながら小さく首を振った。

「カインが指差す北は、あくまで平面的なものさ。天球上での真北っていうのは、北極星のことさ」

 リリーはああと声を上げて反応した。兄と星空を見上げていたとき、自分はその綺麗さに見とれているだけだったが、兄は本と照らし合わせ、熱心に何か書いていたのだ。

「お兄ちゃん、天体のお勉強してたよね。そんな事して何の役に立つのかなって思ったけど、今日役に立ったね」

 シャープは頷いた。

「きっと、天体の勉強をすることも魔法使いとしての心得なんだろう。方角がわからなかったら旅はできないからさ」

「で、その北極星はどこにあるんだよ?」

 天体がさっぱりのカインとロナンはつまらなそうに尋ねた。シャープは一匹の蛇の尾が作っている円の中心を指差した。そこには、他と大差のない大きさの刻印があったのだが、あまりに小さいせいで入り口側に立っているカイン達には見えなかった。

「おいおい。見えない的なんか撃てないよ」

「そのために蛇の輪っかがあるんだ。ほら、真ん中狙って」

「何だか変な感じだけど……」

 カインは口をへの字に曲げながら、パチンコを引き絞り、蛇の尾の空間を狙う。弾は炎をまといながら蛇の輪を突き抜け、奥の壁にぶち当たった。同時に、当たった星の刻印が白く輝き始め、それに引きずられるように、全ての星の刻印が色とりどりに光を放ち始めた。その光景に四人が目を奪われていると、亀の左目が緑色の光を一際強く放った。そのまま亀の左まぶたの岩は砕け、甲高い音を立てながらヒスイの玉は地面を転がっていく。ロナンは静かに拾い上げた。

「綺麗な色してるな」

 ロナンは静かに呟いた。ヒスイの玉は、周囲の星の光を受け、それらを全て自らの緑に変えていた。カインはパチンコをカバンに収め、ガッツポーズをする。

「よしっ! とりあえずは一個目だな!」

「ああ。後三つだ」

 ロナンはヒスイの玉を見つめながら、天井から溢れる光にゆっくりとかざす。ヒスイの光は、壁中を若葉色に照らし出した。


 ヒスイの玉を手に入れた! 後三つ集めて台座のところへ持って行こう!


 四人は先程放置した宝箱の部屋に戻ってきた。見るなりシャープはため息を付いてあごをさする。

「さてさて。どうしたもんかなあ……」

 リリーは手に持った白い箱を見つめる。これにも鍵穴はあるが鍵はない。見ていると、とある考えが頭の中で一筋の光を放った。白い箱を見つめながら、リリーは三人に先駆けて宝箱のところへ走り寄り、鍵を覗き込む。三人はばらばらと後を追い、リリーの手元を覗き込もうとする。

「何か思いついたのかい?」

 シャープが左の方から妹の手元を覗き込む。リリーは、錠前に引っかかった鍵の先を何とか持ち上げ、白い箱の鍵穴に突っ込もうとしていた。

「もしかして、この箱の鍵がそれなの?」

 リリーは躍起になりながら呟く。

「そうとしか思えないじゃん。他に見当たらないし」

 どうにか鍵を白い箱に押し込むと、箱を捻った。小気味のよい音と共に箱は真っ二つに割れ、中から金色の鍵が落ちてきた。カインはすかさず拾い上げる。

「この鍵が宝箱の鍵なんだな。よし……」

 鍵を差し込むと、鍵と共に南京錠は砂となってこぼれ落ちた。カインは宝箱を開く。シャープが真っ先に宝箱の中に腕を突っ込み、中の物を取り出した。翼を広げた鳥のような形状をしており、実際に鳥の姿を模した彫刻がなされていた。シャープは首を傾げる。

「なんだこれ。ブーメラン?」

 カインは右手で空に円を描いた。三回転ほどさせ、右手を遠くに投げ出す。

「投げてみればいいんじゃない? どんな力があるかわかるよ」

 シャープは何度か頷き、ブーメランを放った。ぼんやり眺めていたが、ブーメランはきれいな円弧を描いて戻ってくるだけで、特別な力があるようには見えなかった。シャープは半眼でブーメランをキャッチする。

「何だよ……今度こそは僕が貰おうと思ったのに」

 シャープは不満たらたらといった表情でブーメランを見つめる。カインは肩を竦めながら、もう一度右手を投げ出した。

「なあ、もっと鋭く投げられないか? もっとかっこよく飛ばしてみようぜ」

「ああ。わかった」

 シャープは力を込めて投げ出し、瞬間に失敗したと思った。力を入れすぎたのだ。しかし、シャープの投げたブーメランは彼が思い描いていた軌道のとおりに飛び、真っ直ぐ帰ってきた。素早く受け止め、シャープは目を真ん丸に見開いてブーメランに目を下ろした。

「そんな。僕は確かに投げ損なったはずなのに」

 リリーが手を打った。シャープは肩を跳ねさせて振り向く。

「どうしたんだい?」

「ねえ、こんなふうに飛ばして見せて」

 リリーは八の字を描いてみせた。普通のブーメランでは考えられない飛び方だ。シャープは首を傾げながら、言われたとおりの軌道を頭に描きながら投げ出した。なんと、ブーメランはまるでトンビが飛び回るかのように美しい八の字を描いて帰ってきた。

「はっきりした。これがこのブーメランの力なんだ!」

 シャープはブーメランを突き上げた。


 カイトブーメランを手に入れた! トンビのように自由自在、頭の中から操れるぞ!


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