第二九話 なぞなぞ天使(後編)
二つのなぞなぞを解いてみてください。
ロナンは一頭の馬に跨り、厩舎の中で待機していた。別に乗る必要も無かったが、こうしておいたほうが雰囲気が出るような気がしたからだ。馬の背を撫でながらしばらく待っていると、厩舎の扉が軋みを上げながら開いた。
「ロナンの兄ちゃん!」
「お、来たな。じゃあ問題だ。アイディア、思いつき、考え事。明日にあるのはどれだ? 答えがわかったら、次に行く場所を教えてやるぞ」
子ども達はしばらく話し合ったりしながら考えていたが、やがて一人が頬を膨らませ、ロナンに向かって迫った。
「わかんない!」
ロナンは口をつぐんだ。弟や妹みたいな存在に向かって、はいそうですかとは言えない。バツが悪そうに頬をすぼめると、ロナンは咳払いをしながらよそ見をし、独り言を呟いた。
「あ、した。あ、したはまた探険だな……」
子ども達は、あっと驚いた。そして、思いついた答えを叫ぶ。左手で丸を作ると、ロナンは厩舎の外を指差した。
「次は村長の家の書斎に行くんだ。最後の問題だぞ。今までの問題より少し難しいかもな」
「はぁい!」
馬のたてがみをくしけずりながら、ロナンは元気に飛び出していく子ども達を見送った。
シャープは本を読みながら待ち構えていた。最後の問題なのだから、それにふさわしく一捻りある問題がいい。そう思っていたシャープは、子ども達がやってくるまでの間に問題を一つ作り上げようとしていたのだ。問題がまとまって本を閉じたとき、代わりに目の前のドアが開いた。シャープは静かに立ち上がる。
「さあ、君達に最後の問題だ。よく聞くんだぞ。鹿、羊、ヤギ。ここにしかいてはいけない。家畜小屋だから。いる動物は?」
シャープは少し悩むだろうと思っていたが、子ども達は一瞬見つめ合っただけで頷き合ってしまった。シャープは半信半疑で答えを聞いたが、答えも正しかった。面食らったような表情で、シャープは子ども達に向かって尋ねる。
「どうしてそんなにすぐわかったんだい?」
「だって、ロナンの兄ちゃんが似たような問題を出したんだもん」
「あ……」
シャープは天を仰いだ。僕としたことが、頭の良さを活かしてみたいばかりに墓穴を掘った。シャープは悔しいような空しいような気分に陥っていた。ぼんやりしているシャープの袖を子ども達が引っ張る。
「ねえ! はやく宝の場所を教えてよ!」
「カインの家……倉庫の入口の前に埋まってるよ……」
息せき切って飛び出していく子ども達の楽しそうな姿を目で追っても、シャープはため息しか出てこなかった。
子ども達は一生懸命手に持った小さなシャベルやスコップでカインの家の倉庫の前を掘っていた。一生懸命な姿を見て、カインとリリーは柔らかい笑顔でお互い顔を見合わせていたが、シャープは今も凹んでおり、腕を固く組んで足元を見つめていた。そんな顔する天使がいるか。ロナンは思わずそうこぼしてしまったが、それでも彼は黙っている。やがて、彼らのスコップの音が変わった。カインとリリーは落ち込んでいるシャープと構ってあげているロナンを放っておき、二人でこっそり子ども達の背後に回った。
思わずカインは感嘆の声を漏らす。子ども達は、彼らだけで宝箱をちゃんと掘り出していた。一人がそっと宝箱の上蓋を持ち上げる。
「うわぁ!」
その中に入っていたのは、木を細工して作られたたくさんの首飾りだった。村長に前々から提案され、子供の母親たちが時間をかけて作ったのだ。そんな宝物に子ども達が喜ばないわけがない。満面の笑みで首飾りを取ると、カインとリリーに向かって突き出した。
「お姉ちゃん! 見てよ!」
「良かったね、アル」
「うん!」
ひざまずき、カインは一人が見せてくれた首飾りを手にとって眺めて小さく呟いた。
「迷宮の先にも、宝物ってあるのかな」
リリーはすぐさま頷いた。
「絶対あるよ! というより、あってほしいな。どうせなら」
カインはリリーの言葉に納得した。確かに、迷宮を突破したならご褒美くらいあってもいいだろう。カインは首飾りを子どもに返すと、膝を打って立ち上がった。
「よし! 明日から俺達も頑張るか!」
「おー、って……」
一瞬その拳を空に突き上げかけたリリーだが、今もいじけている兄に気が付き、無理やり引っ張ってきた。
「お兄ちゃん! いつまでもくよくよしない! 明日からまた頼りになるんだから!」
「……そうか。そうだよな。わかったよ」
シャープはようやく顔を持ち上げた。カインは三人の希望に溢れた顔を見合わせ、改めてその拳を突き上げた。
「行くぞ!」
「おーっ!」
ロナンのなぞなぞ……アイディア(あが下にあるから)
シャープのなぞなぞ……羊とヤギ(ここに、鹿いてはいけない から。無理矢理ですみません)