第二八話 なぞなぞ天使(前編)
二つ目のなぞなぞは、皆さんも考えてみてください。
村長は、自分の書斎に四人を招いた。天井に届くほど高い本棚が壁を覆い、びっしりと本が詰められていた。窓辺の机から一枚の紙を取ると、村長はシャープに渡す。
「今年の収穫祭では、子どもに楽しんでもらうことにした。宝探しでね」
シャープは渡された紙に目を通す。ところどころにバツ印が記されている以外は、単なるソノ村の地図に見えた。シャープは顔を上げて尋ねる。
「で、宝探しの何を手伝って欲しいの?」
村長は頷くと、窓辺を行ったり来たりし始めた。人差し指を立て、目の前で小さく前後に振っている。
「元々はお前たちにも楽しんでもらう予定だった。しかし、今のお前たちにはつまらない謎解きに違いない。だから」語尾に余韻を残しつつ、村長は四人の正面に立つ。「手伝って欲しいんだ。『ソノ村宝探し大会』をな」
カイン達は興味津々という顔を確かめ合い、カインは口を開いた。
「はい! 明日は謎解きをするんじゃなくて、させるぞ。絶対面白いじゃん!」
カインははしゃぎながら他の三人の前に飛び出す。ロナンは腹に一物抱えた表情をし、サムズアップで応える。シャープとリリーは頷きあった後、カインに向かって全く同じガッツポーズをしてみせた。カインはそのポーズを返し、村長の正面に向き直った。
「任せてよ!」
次の日、四人は皆同じ格好をしていた。白いワンピースのような服をまとい、綿とあひるの羽で作った小さな羽根を肩甲骨の辺りに付けている。足にはサンダル。神からの言付けを運ぶと伝えられる天使の格好だ。ただ、この格好に落ち着かないのが男の三人組だ。
「なんだかスースーするな……リリー、いっつもこんな格好で寒くないの?」
カインが足踏みをしながら尋ねると、リリーは頬を軽く膨らませてカインの肩を抑える。
「いつもだから慣れるの。カイン、そんな風にバタバタするの、天使さまらしくないよ!」
カインは肩をすくめて足踏みをやめた。頬を両手で叩いて気合を入れ、三人の姿をそれぞれ見回した。
「わかったよ。よし、昨日言われたとおりだ! 今日は絶対成功させるぞ!」
「おーっ!」
四人はハイタッチをそれぞれ交わし、それぞれの持ち場へと散っていった。
カインは西の山に程近い家の裏に隠れていた。自分よりも小さい子供たちがやってくるのを今か今かと待ち構えていたとき、ようやく彼らはその姿を現した。
「カイン兄ちゃん!」
カインは指を振る。
「今日は天使さ。じゃあ、みんなに問題だ! 空、同士、不安。この三つの他にあるのは何? 答えのところに行ってね」
小さな子ども達は、そのあどけない顔を見合わせて首を傾げる。やっぱり少し難しいか。そう思ったカインは、鼻歌を歌い始めた。子ども達はさらに首を傾げたが、やがて、一番背の高い子が素っ頓狂な声を上げた。
「ああっ! わかった!」
カインは笑顔で頷く。
「答えは何だい?」
リリーは親友であるレミの家で談笑していた。
「残念だなあ。私がもう四つ小さかったら、リリーの事を探して自分の家までやってくるのに」
「はは。残念でしたあ。じゃあ、そろそろ隠れるね」
リリーがレミに手を振って、どこかに身を隠そうとした瞬間、家のドアが開く音がした。リリーは髪の毛が逆立ちそうになるほど驚き、振り向いた。子ども達の顔がパッと輝く。
「リリーお姉ちゃん!」
「……見つかっちゃったか。仕方ないね。じゃあ問題だね。頭は絵の前、お尻は穂の後ろ。なあんだ? 答えのところに行ってね」
子ども達はやはり簡単には分からないようだ。リリーは、ふと近くに見える厩舎に目を遣った。子ども達はそれにつられ、リリーと同じ方向を見た。そして一人が気がついた。
「わかったよ! お姉ちゃん!」
リリーは首を傾げた。
「さあ、答えはなあに?」
大声で叫んだ子ども達は、厩舎を目指して一目散に走っていった。
答え リリーのなぞなぞ…うま(『え』の前、『ほ』の後ろ)