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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
26/56

第二六話 再び帰る

 目の前に広がっていたのは、一目でこの部屋の謎を解決したのだとわかる光景だった。思わずカインは嘆息してしまう。

「すげえ」

 中心に置かれた台座を囲み、二十四体のフクロウが翼を広げていたのだ。顔を輝かせると、フクロウの横をすり抜けカインは台座を近くで見つめる。


 これより奥に進みたくば、四方より四つの珠を持ち寄りてここに捧げよ


 台座には、カインの握りこぶしが収まりそうな程度の窪みが空いていた。カインの肩越しに、それを三人が覗き込む。

「明日はこの部屋からだね」リリーが柔和な笑顔でカインを見つめる。

「まあ、とりあえず帰ろう。みんなも心配しているはずさ」

 シャープへの返事代わりに、カインはマイルストーンを取り出した。カインの肩に三人が手を置く。昨日のように緑色の光が彼らを包み込んだかと思うと、カイン達はフクロウの目の前から消え去った。


 四人は無事カイン家の魔法陣に降り立った。普段なら、太陽が沈んだ空は濃紺の布に真砂(まさご)を散らしたような景色となって目に映るはずだった。だが、今日は地上が不思議な程に明るく、細かい光が目に入ってこない。カインは首を傾げ、目を擦りながら周囲を見回す。道の至る所に煌々(こうこう)と火が焚かれ、村じゅうが明るく照らされていた。

「何でこんなになってるんだ?」

「あ、カイン!」

 背後からリーフの声が鋭く飛んできた。振り向くと、リーフはもう手が届く距離に立っていた。目が細くなっているのを見て、カインはわずかに身構える。姉がそのような表情をした時は、決まってお節介を言うからだ。

「遅い! 別に心配するほどじゃないけど、もう少し早く帰ってこれなかったの?」

 素直に謝っておくに限る。カイン達は目配せし、一斉に口を開いた。

「ごめんなさい」

 リーフは腕組みをしたままで深々と頷いた。そもそも、遅れてがっかりするのは四人だが。リーフが村の中心に位置する広場に目を向けると、すでに白い煙が夜空に向かって昇っていくところだった。リーフは苦笑いしながら爪先に体重を乗せ、体を上下に揺らす。

「あちゃあ。もう始まってるよ。私が帰ってくるまで待っててくれてもいいのになぁ」

「何が始まってるのさ?」

 カインが本気で首を傾げているのを見て、リーフは大袈裟に溜め息をついた。こんなんだから、帰りが遅くなったのか。リーフは肩を落とす。

「前夜祭に決まってるでしょ! もう食事も始まってるし、」リーフは近くにいたカインとリリーの手を引く。「急ぐよ」

 リーフに合わせて走りながら、カインとリリーは納得の表情で頷きあった。


 収穫作業が終わると、ソノ村では収穫祭をする。神前に収穫した作物を供え、来年の豊作を願う行事でもあるが、皆が楽しめる催しものも執り行なわれるため、村の人々は誰もがこの祭りを楽しみにしていたのだ。


 広場に行くと、すぐさま肉や野菜が焼ける香ばしい匂いが五人を包み込んだ。カインは押し黙ったまま胃のあたりを手で押さえる。腹の虫も鳴らないほど空腹だったことに、たった今気がついた。

「シャープ、リリー」

 口髭を少々蓄えた、シャープによく似て背が高い白髪混じりの男性がこちらに向かって歩いてきた。ソノ村の村長、シャープとリリーの父だった。リリーは他の四人を差し置いて飛び出し、父に飛びつく。

「お父さん、ただいま!」

「ああ、お帰りお帰り。さぁ、もう食事は始まっているから、近くの井戸で手を洗って、さっさと食べるといい。後、カインのおじいさんが君達の話を待ち望んでいるから、話してあげなさい」

「うん!」

 リーフや村長と別れると、四人は広場に面した家の井戸を借りて水を汲み上げた。秋も深くなった今日この頃、夜の冷気にさらされ水は冷たくなっている。リリーは釣瓶の水に手を入れ、思わず引っ込めてしまった。

「冷たいね」

「さっさと洗おう。火に手をかざせば、いくらでも暖かくなるさ」

 シャープに言われたとおりにてきぱきと手を洗い終えると、水気を払いながら、四人でカインの祖父を探しに広場へ戻った。その途端、四人は苦笑いで見つめ合う。カインの祖父はあっという間に見つかった。かなり目立っていたからだ。祖父ではなく、その取り巻きが。

「マルク、お前も今日くらいはもっと飲んだらどうなんだ? おいおい」

「い、いや、俺はそんなにいらないかなぁ……アハハハ」

 普段は落ち着き払っているマルクが、隣にいる顔を真赤にした老人に肩を組まれて苦笑いをしている。酔った老人に囲まれている中で、カインの祖父は若々しい言葉遣いになっていた。四人に気がつくと、マルクはせわしい仕草で手招きした。

「カイン、全くお前はいいところに来たよ。さあ、ここに座ってくれ」

 マルクは開いている長椅子を指差した。四人はご老人たちに軽い会釈をしながら腰掛ける。見るや、マルクはカイン達の方に勢い良く身を乗り出す。突き出される酒をかわすのに必死なのがありありと見て取れた。目が老人たちの方に泳いだまま、普段なら考えられないような早口で話し始める。

「カイン、今日の成果を教えてくれないか。ほら、みんなも聞きたがっているし……」

 カインは苦笑しながら頷いた。

「わかったよ、じいちゃん」


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