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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
25/56

第二五話 森の賢者に紛れて

 狭い通路に、四人の足音が響く。目の前に広がる光景は、振り出しに返ったか、それとも前進したのか。カインは緊張して喉を鳴らす。ロナンはカインの隣に抜き足で忍び寄る。

「どうした? 不安か」

「そんな事ないよ。シャープが間違いなんてしないさ」

 目の前の視界が開ける。彼らの視線は、すぐに首から上が後ろを向いたフクロウの像に注がれた。安堵の表情を浮かべたカインは、横目でロナンと目を合わせる。

「ほら。大丈夫だった」

 シャープも安堵の溜め息を洩らすと、フクロウに向かって歩きながら三人に話しかける。

「じゃあ、三人とも――」

「わかってるって。数えたらいいんだろ」

 カイン達はフクロウの列を巡り、数え間違えたりしないよう慎重に数え上げる。最後の一体を数え、カインは列の前で待っているシャープに向かって左手のひらと右の人差し指を突き出す。

「六体!」カインだ。

「六体だ!」ロナン。

「六体だよ!」リリーだ。

「嘘だぁ!」

 カエルもびっくりの輪唱に、天を仰いだシャープはがっくり膝をついてしまった。そのまま頭を抱え、シャープは床に丸まってしまう。目を丸くしたり、開いた口が塞がらなくなったりしながら、三人はシャープのそばに駆け寄った。

「ねえ、お兄ちゃん!」

 リリーは両腕でシャープを仰向けにひっくり返した。リリーが覗き込むと、その目はうつろになっている。大の字にのびたシャープは、暗い顔でぶつぶつ呟いていた。

「前や左右が六体だったら、後ろも六体……ああ。今度こそ駄目だ。まさに『迷宮入り』だ……」

 シャープは混乱の極みに達してしまった。このままでは精神状態が危ないと本能が判断したのか、シャープはいきなり眼を閉じてしまう。深い眠りに落ちてしまったようで、悩みから解放されたその表情は爽やかだ。慌ててカインは肩を揺すぶる。

「おい! なんで寝るんだよ! この部屋の答えが出せないと帰れないだろ!」

 ロナンが目を点にしてしまっている横で、リリーはしゃがみ込んで溜め息をついた。時折見せる頼りない部分がついに表出してしまった。おそらく五分の間は、戦士の手袋付きのロナンがビンタをしても目覚めないだろう。することもなく、無意識のうちにリリーは天井の隅を見つめていた。そうしていると、何故だか彼女には不自然に見えてきた。穴が開くほど見つめると、ようやくその違和感にリリーは気がついた。シャープほどに頭は良くないものの、それでも彼女は必死に頭を捻る。

……お兄ちゃんが言っていたことに当てはめたら……

 リリーに一筋の光明がさしてきた。立ち上がると壁際まで行き、そのまま寄りかかって座り込んだ。

「カイン、ロナン。お兄ちゃんはしばらくほっとこう。暇つぶしになぞなぞでもしない?」

「そうだな。俺達はちょっとシャープを頑張らせすぎたのかもしんない」

 カインとロナンはリリーを間に挟むようにして座り込む。

「じゃあ、私から問題ね。逆立ちが出来る鳥ってなーんだ?」

「え~」

 カインが腕組みをして考え込む横で、ロナンが人差し指を立てた。

「俺、わかったぞ。キツツキだろ」

 リリーは笑顔を咲かせた。

「せいかぁい!」

「おいロナン、早いだろ!」

「わかったもんは仕方ないだろ。じゃあ、次は俺だな……」

 脱力しきった三人のやり取りは、この後十分ほど続いた。


「ほら、起きろ!」

腰をおろし、カインはシャープの顔の前で拍手する。顔を一瞬しかめたかと思うと、シャープはいきなり飛び起きた。

「ああ! なんで起こすんだよ!」

「起きて欲しいからに決まってるだろ! お前が寝てる間にリリーが答えを見つけたって言ってるんだよ!」

 シャープは慌てたせいで上手く立ち上がることが出来ず、膝立ちのままでシャープは妹の顔を見上げる。

「何だって? それは本当かい?」

 リリーはにやにやと笑いながらひざまずくと、シャープの額を指で弾いた。

「今日は私の勝ちだね。お兄ちゃん」

 再び立ち上がると、リリーは元来た入り口と向かい合う、天井の隅を指差した。

「私ね、あそこにいつもの『目』があることに気がついてたんだ。まあ、大した問題にはならないかな、と思ってたからさっきまで言わなかったんだけどね。この部屋には無かったし。でも、前後左右どの入口にも決められない、ついでに、あそこの『目』が消えていることを合わせて考えたら、もう私の中では答えが一つになったの」

 もったい付けて結論を伸ばしているリリーだが、シャープは待ちきれずに言葉を継いでしまった。

「つまり、元来た入口に入れって言いたいんでしょ?」

 リリーはしかめっ面で頷く。一番大きな手柄だから、もっと格好付けていたかったのだ。シャープの隣に座り込んでいたカインは、手を打って立ち上がる。

「よし、じゃあさっさと行こうぜ! それが正解だ!」

 リリーは真っ先に入口の前に立ち、三人を手招きした。

「よぉし! みんな、行こーう!」

「オー!」

 一気に気分が弾んできた四人は、元来た通路を駆け抜けた。


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