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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
22/56

第二二話 嵐の前の静けさ

 程なくして、『と』と『も』が刻まれた二つの歯車は見つかった。ロナンは再び手袋をはめ、三人を下がらせる。

「よし。これとこれを押せばいいんだな……よいしょ」

 ロナンはまず『と』が刻まれた歯車を押す。硬い音が部屋中を満たす。そのままとなりの歯車まで小走りし、もう一度『も』の歯車に力を込めた。木と木のぶつかり合う音が壁の奥から聞こえてきたかと思うと、部屋中の歯車が軋みを上げて回り始める。規則的な音に四人が耳を傾けていると、部屋の北側にあった扉の鉄格子が持ち上がった。カインは会心の笑みを浮かべる。

「よし! この調子で行こうぜ!」

笑顔で四人はハイタッチを交わし、新しい部屋の扉を開く。瞬間、リリーの胸元で『真実の鈴』が真実を見抜いた。リリーは鈴を外して顔の高さまで持ち上げる。

「この部屋に何かあるみたい」

 ロナンは腕組みをして正方形の部屋の向かいを見つめる。そこにはただの扉があった。鉄格子も無ければ鍵穴もない、本当にただの扉だった。

「別にこれといった仕掛けは無さそうだけどな」

「宝箱があるかもしれないから、探るだけ探ってみようぜ」

 それだけ言うと、カインは当てもなく歩いているリリーの後ろに付いていく。シャープはその後ろ、しんがりにロナンが付いて歩く。まるで親に付いていくヒヨコだ。

「何が隠れてるのかな」

 リリーが壁伝いに歩きながら、背後の方へわずかに顔を向ける。

「また不思議な道具かも知れないぞ」

 ロナンはそう答えたが、カインはうなじを掻きながら壁を見上げる。屋根があるせいで薄暗いこの部屋は、天井近くに松明が何本も灯されていた。その炎を見ていて、カインはどうでもいい記憶が頭をよぎる。歯を見せて笑い、カインは冗談交じりでこぼした。

「いや、もしかしたらまたパチンコの玉かもしれないな」

「それはあんまりだなあ。がっかり――」

 シャープはカインの冗談をロクでもないと思ったが、鈴のけたたましい声を耳にして口をつぐむ。壁の表面がいきなり溶け出し、金色の文字が浮かび上がり始めた。その下には、小さな窪みが出来上がる。もう見慣れてしまったので、さして驚きもしない。リリーはまずその窪みを調べ、いきなりカインを指差した。

「ビンゴ」

「ほんとかよ」

 言ったカインまでもが豆鉄砲を食らったような表情をし、リリーが投げてよこした炎の玉を受け取る。無数の目との戦いで大分消費していたため、ありがたいといえばありがたいが、肩透かしには違いない。カインはため息を付いてしまった。

「昔の挑戦者が諦めた理由もわかる気がするな。苦労して見つけた宝がパチンコの玉だったらがっかりするもんな」

「まあ、それはおまけみたいなものさ。重要なのはこっちだよ」

 シャープは金文字を見上げながら呟く。


 心を燃すとも頭を燃すな。直感を頼るものに道は開けない


「なんだろう? でも、ここの部屋はもう扉が開いてるぞ」

 カインは腕組みをしてシャープを見上げた。彼は頷くと、扉の方角を向く。『見たまんま』というのも直感には違いないから、あの扉が本物である確証はなかったが、ともかく開けてみなければ話が始まらない。三人を引き連れ、シャープは扉の正面まで歩いて行く。

「さあ、とりあえず開けてみるぞ……」

 四人は息を呑んだ。シャープは恐る恐る扉に体重をかける。だが、楽々とその扉は開いてしまった。シャープは目をつむって眉を掻く。

「何だろうね。こういうのを『大山鳴動して鼠一匹』っていうんだろうな」

「なんだそりゃ?」

「予想より大したことがないってことさ」

 ロナンに説明しつつ、シャープは円形の部屋に足を踏み出す。右斜め奥に扉があり、左斜め奥にまたしても金文字が刻まれている。シャープは頭を軽く掻きながら部屋中を見渡す。

「また何も無しか。まあ、無いに越したことはないんだけど」

 リリーは鈴を握りしめた。手の内の鈴はだんまりを決め込んでいたが、彼女の心臓は早鐘を打っている。

「何だか怪しい。『嵐の前の静けさ』っていうもん」


 目を見張れ。その眼で何者をも見逃すな


 金字を眺めた後、カインは扉の方角に目を向ける。次の部屋の怪しい雰囲気がその隙間から漏れ出てきているような気がしてならない。カインは生唾を呑み込んだ。

「確かに。何もなさすぎる。いきなり恐ろしい仕掛けが待ってそうだな……」

 三人が入り口で足踏みをしている中、ロナンは一人扉に向かって足を踏み出した。

「それでも、行くしかない。だろ?」

 中々小粋なことを言ってくれる。頼もしいロナンの言葉にカインは口角を持ち上げた。駆け寄ると、ロナンの背中を思い切り叩く。

「わかってるじゃんか! もうそろそろ夜だぜ。次の部屋を攻略したら、さっさと帰ろう!」

 三人はそれぞれ相槌を打った。カインは出し抜けに右手を三人の目の前に突き出す。リリーは右手をそこに重ねる。ロナン、シャープも重ねた。

「よし! 行くぞ!」

「おーッ!」

 四人は新たな部屋へと走り出していった。


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