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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
20/56

第二十話 賢者ラウリン

 四人は目の前に現れた階段に見入っていた。三十段あり、ドアまでは橋で結ばれている。魔法という力の強大さが肌にしみてくるかのようだ。だが同時に、四人でいることの心強さも互いに実感しあっていた。

「みんな。元々特別な力なんか無くても、協力すればどんなものにも立ち向かえるってことを証明しよう」

 シャープは階段の上を見つめながら、三人に話しかける。特別な返事はいらなかった。カインは手を伸ばしてその肩を叩くと、先頭を切って階段を駆け登り始めた。ロナン、リリー、シャープもその背中に付き従って、石畳の大きな階段の向こう、新しい扉へと駆け出した。


 階段を開けた先、初めての二階は、ぽつんと宝箱が置かれているだけの部屋だった。四人は静かに集まると、宝箱の上蓋を持ち上げる。鐘のような美しい音が響き渡ったかと思うと、部屋中が金色の光で満たされ始めた。驚きと感嘆が入り交じった表情で、四人が部屋中を見渡していると、宝箱の中から一際強い光が放たれた。

「眩しいっ……」

リリーが微かな声で叫ぶ。四人は思わず顔を手でかばいながら目を伏せた。それでも光は四人のまぶたを貫き、目の前を白い景色に包み込んでしまった。カインはさらにきつくまぶたを閉じる。

「一体どうなってるんだよ?」

「聞かれても分からないよ……」

やがて、鐘の音の響きが止むと同時にまばゆい光も収まった。光が焼き付き、紫とも緑ともつかない視界に苛まれて四人はしきりに瞬きを繰り返す。目が慣れてくると、四人は目の前にいた存在に腰を抜かしそうになった。

「嘘だろ」

「ひ、人が、浮いてる」

「透けてる」

「まさか、この迷宮を作ったラウリン様?」

 目の前の人物が反応した。ローブをまとい、身長以上もある杖を持ち、優しげで髭は腰辺りまで伸び、とんがり帽子をかぶっている。今までの『ラウリン様』に対する想像はこうだった。しかし、合っていたのは前半二つ。優しげどころか、その眼差し、鼻筋はタカのよう、髭も、綺麗に揃えられた口髭だけ。帽子もかぶっておらず、銀色の髪がなびいている。全身に猛禽類のような雰囲気を身にまとっていた。そんな『ラウリン様』は、四人の姿をゆっくり見回す。

「成程。今度の挑戦者は、子どもの四人組。少女までいるではないか」

 ラウリンはリリーと目を合わせるリリーは蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。たとえ向こうの景色が透けて見えるような頼りない外見であっても、周囲を圧倒するには十分すぎるほどの威風を溢れさせていた。ラウリンは目を細める。肩を縮こまらせている四人には、その表情が笑顔であると気づくまでに相当時間がかかってしまった。

「よもや子供にまで立ち入られるとは。私の作った迷宮もなめられたものだな」

 その口ぶりに、カインが少し身じろぎした。眉間にしわを寄せ、ほんの数インチだが、カインは足を踏み出したのだ。

「何だよ。『なめられたもの』って。俺達がガキだからって、馬鹿にしているのか?」

「ちょ、ちょっと。偉大な魔法使いに向かってその口の利き方は……」

 シャープは慌ててカインをなだめにかかる。眉を少し持ち上げると、ラウリンはカインの瞳、顔、立ち姿を隅々まで眺め回す。あることに気がついたラウリンは、口元を引き上げて低く笑う。

「成程、成程。そうか、お前は四十年前に来たマルクとかいった奴の子孫か」

「孫だ」

「そうか。マルクは私も思わず感心してしまうほどの威風と魔力、偉大さを秘めた魔法使いだった。……何やら焦っていたようだがな。私に向かって、『結婚式まであと一日しかないからあんまり長話しないでほしい』などとほざきおった。まあ、そこも含めて大人物だったのには違いないが。そうか、お前はマルクの孫か。やはりここまでやって来れるだけのことはあるわ」

 見た目は猛禽類だが、話してみると飄々とした風のようだ。高らかに笑ってみせ、ラウリンはさらに続ける。

「心配するな。たとえ少年少女でも、ここまでやって来た以上は例外なく賞賛すべき存在には違いない。自分の魔法に頼り過ぎている奴は、ここの『呪文封じ』にかかった時点で諦めてしまうからな」

「呪文封じですって?」

 シャープは訝しげな表情をした。ラウリンはさも意外そうな顔を返した。

「ああ。気づかなかったのか? いや、お前たち。まさかだが……」

 ラウリンは首を振りながら宝箱の上をあっちこっちと滑る。ひどく戸惑ったようだ。いきなり止まったかと思うと、ゆっくりと四人を見回した。目が少々泳いでいる。

「呪文が元々使えないのか?」

 四人は深々と頷いた。ラウリンはがっくりと崩れ落ち、杖でようやく体勢を保った。

「なんとまあ……呪文が使えないが故にここまで平然と来れたのか? 全く、お前たちには驚かされる」

 ため息をつくと、ラウリンは杖を振った。カインが右を見ると、いつの間にか扉が開いていた。ラウリンは肩を竦めながら四人を見下ろす。

「期待しているぞ。私も、そろそろこの迷宮を打ち破って欲しいと思っているところだからな……」

 ラウリンの姿が再び光ったかと思うと、宝箱の中に吸い込まれていった。


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