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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
17/56

第十七話 約束は守る

 目の前に広がる豹変した部屋の光景に、ただただ四人は目を見張るばかりだった。縦長の石畳に当たる部分がせり上がり、階段のようになっているのだ。カインは目を丸くしながら階段に触れる。

「この部屋から繋がってる部屋の謎を解いたら、二階に繋がる階段が出来るんだ」

「さっさと次の部屋に行こう!」

 既に西の部屋の入り口の前に立ち、リリーが三人を手招きしている。頷くと、カインはシャープやロナンと共に走りだした。雲ひとつ無い真っ青な空に、太陽は頭上高く昇っている。


「気持ち悪い!」

 開口一番、ロナンが吠える。西の部屋は初めて正五角形だった。のだが、そんな事に四人は気を払う余裕がなかった。部屋中にたくさんの目が開き、一斉にこちらを注視しているのだ。リリーは思わず震え上がってしまう。一つだと『怖くない』目だったが、十いくつもの目に穴が開くほど見つめられたのでは話が別だ。ロナンははっと声を上げたかと思うと、シャープを脇に押し退けた。元いたところを目がけて、火の玉が一つ飛んできたのだ。カインは『目』を睨みつける。

「危ないな!」

「生き物はいなくても、命に関わりかねない仕掛けはあるってことか」

 シャープが手に汗を握り締めながら呟く。リリーは既に元来た通路に避難していた。

「どうするの! こんなの危ないよ!」

 シャープ達もそそくさと通路の中に避難した。だが、カインはその場に立ち尽くしたきり、全く動こうとしない。そんなカインを、シャープは必死に呼び寄せた。

「どうしたんだ! さっさと避難しよう!」

 カインは三人に背を向けたままで首を振った。パチンコと革袋を取り出し、ゆっくりと構える。こちらを見つめる目を威嚇するように睨みつけながら。確かに、体を焼かれて命に関わるような怪我をするかもしれない。だが、こんなところでしっぽを巻いて逃げるのは、怪我をするより嫌だった。

「俺はじいちゃんに約束したんだよ! 必ずこの迷宮を攻略するって!」

「そんな約束! 死んだら元も子も――」

 一つの目から火の玉が放たれる。その火の玉は、一直線にカインを目がけて走る。三人は息を飲んだ。だが、カインは素早く腕を振り、その火の玉を弾き返してしまった。部屋の隅が燃え上がる。玉を構えると、カインは逆に目を撃ち抜いた。

「ごめんよシャープ。約束は絶対守る。それだけは守るって、俺たち家族の決まりなんだよ!」

 目はぎょろぎょろと周囲を見回したかと思うと、一斉にカインを睨みつける。カインはその強い双眸で、ぐるりと全ての目を睨み返した。火の玉が二つ飛んでくる。前転してかわしたカインは、二つの玉を素早く放った。たとえ不安定な姿勢でも、カインは全く獲物を逃さない。三つ飛んできた火の玉を右手左手でいなしながら、その合間を縫うように反撃する。

 突然部屋全体が震えるような低い音が轟いたかと思うと、上を向いた目が、一斉に火の玉を天井に向けて放った。寄り集まった炎はその場で炸裂し、カインの頭上めがけて雨のように降り注ぐ。歯を食いしばったカインは、外套を脱いで振り回した。見えない壁がそこにあるかのように、火の雨はカインの頭上を避けた。詰めていた息を一気に吐き出し、カインは汗を拭って一つ一つを丁寧に打ち抜いていく。

「頑張れぇッ!」

 リリーは必死に叫んだ。自分にできることは、応援することだけ。歯痒くて仕方がない。だが、カインにはそれで十分だった。腹の底から湧き上がる勇気を吼え声で表し、カインは三つの玉を一気に放つ。彼の闘志を反映するかのように、玉は三つとも命中し、目を燃え上がらせた。身を乗り出し、シャープは天井を指さす。

「カイン! 上だ!」

 上を見ると、最後の一つがこちらを見下ろしていた。悪あがきをするかのように、その『目』は火の玉を乱れ撃つ。カインは走りながらパチンコを引き絞る。一つの火の玉が、カインの胸をめがけて走る。ただ走っているだけではかわしきれないと見たカインは、反転しざまに玉を放つ。火の玉を打ち消し、猛火は最後の目を貫いた。焦点が定まらなくなった『目』の集団は、その瞳をぐるぐると回し、次々と燃え上がって消えた。カインは肩で息をしながら、さっぱりとした部屋を見回した。先程までの喧騒が嘘のように、土気色の部屋はその沈黙を保っている。

「やった……」

「すごい! すごいよカイン!」

 リリーが真っ先に飛び出し、カインに飛びついた。その瞬間、カインは思わず目を見開く。やがて目を伏せると、リリーの肩を叩いた。

「応援ありがとう、リリー」

「うん!」

「すごかったなあ。さすが百発百中の名人だ!」

 ロナンがいきなりカインの肩を叩く。カインは満面の笑みを浮かべ、右の親指を立ててみせた。

「もちろん。これぐらいやらないとな」


 部屋の外から、階段がせり上がる轟音が始まった。入り口の方角を見やり、シャープがいきなり手を叩く。

「よし! さっさともうひとつの部屋に行こうか!」

 三人は拳を突き上げ、シャープの後に付いていった。


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