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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
15/56

第十五話 真実を告げる鈴

 三人が喜び合う声を聞きながら、リリーは胸を張り、堂々と壁の中から姿を見せた。

「どうよ?」

「すごいよリリー! リリーを連れてきて良かった!」

 手放しの賞賛を上げながら、カインはリリーを抱きしめた。うっすら頬を赤らめ、リリーは腕をつっぱりカインと距離をおく。自信たっぷりな笑顔で腕を組んだが、動揺したせいで少々声は震える。

「そ、そうよ。す、すごいでしょ」

「じゃあ、これもそうかも知れないなあ」

 シャープは碑文を見上げながら呟いた。おそらく、『ぶつかる勇気を持て』とは、この碑文が書かれている壁にぶつかる勇気を持てということなのだろう。その隣に、ロナンが腕まくりをしながら立った。

「よし。じゃあ、俺がぶつかる!」

 ロナンは全力で駆け出し、その肩を碑文が刻まれた壁にぶつける。途端に土で出来ていた壁が割れ、ロナンは中の小さな部屋に体を突っ込んだ。残った三人が、壁の残骸を乗り越えロナンに駆け寄った。

「大丈夫か?」

 カインが尋ねると、ロナンは地面にあぐらをかいて、不敵に笑ってみせた。

「なんともないぜ」

「ねえ、向こうに宝箱があるよ!」

 走って、四人は宝箱の前で肩を寄せ合う。顔を見合わせると、カインがゆっくりと宝箱を押し開けた。中に入っていたのは、羽のような飾りがついた、こぶし大の鈴だった。カインは一瞬怪訝な顔をしたが、直ぐに思い直した。おもちゃだと思ったパチンコが活躍したのだ。この純白で、美しい彫刻が施された鈴も何やら未知の力を秘めているのかもしれない。目元に近づけると、彫刻の中にある文字が刻まれているのが見えた。

「『真実の鈴』?」

「『我、偽りを知らせる。偽りの元で、真実を顕にせん』、だってさ」

 シャープは宝箱の中を覗きながら呟いた。鈴を握りしめたカインはこみ上げる嬉しさに流され、天井めがけて白い鈴を突き上げた。


 真実の鈴を手に入れた! 真実をあらわにしてくれるらしい! でも、どんな風に?


 カイン達は部屋を引き返した。仕掛けも偶然解いてしまった(本来は真実の鈴で小部屋を見つけるはずだったのだとシャープは結論づけた)以上、行き止まりの部屋にいる意味はない。ブロックがいつの間にか元のように並べ直されていることに驚きながら、さらに前の、初めて入ったときに何も無いせいで落胆した部屋に足を踏み入れた時だった。

「何? 鈴が鳴った?」

 カインは、リリーが(かわいいから付けたいと言って聞かず)身に付けていた真実の鈴を指差す。振り回してもうんともすんともだった鈴が、この部屋に入った途端に心を癒してくれるような優しい音色を奏でたのだ。リリーは不思議そうな顔をして、首に下げていた真実の鈴を外してぶら下げる。

「どうしたんだろ?」

 シャープはリリーから鈴を受け取った。おそらく、何も無いように見えるこの空間に、何かの秘密が隠されているのだろう。目の前の高さまで鈴を持ち上げると、弾かれたように部屋の中心まで歩いて行く。すると、再び鈴が小さな音を響かせ始めた。三人がシャープの様子を窺い周りを取り囲むのも気にせず、そのまま適当な方角へと歩いて行く。音が聞こえなくなったかと思えば、引き返して違う方向へと歩く。また音が止んだと思えば、またさらに違う方向へ。

 そうこうしているうちに、シャープは空箱とは正反対の隅へとたどり着いた。鈴はけたたましいと思えるほどの音を響かせている。リリーが口元に手を当てながら鈴を覗き込む。

「ねえ? 壊れちゃわないかな?」

「大丈夫だよ。この先も使うものなのに、そう簡単に壊れられたらたまらないじゃないか」

 そう言いながら、シャープは鈴を部屋の隅にむけてそろそろと差し出した。鈴の音に揺さぶられるように、目の前の空間が揺らぎ始めた。みるみるうちに幻影は溶け落ち、目の前に一つのレバーが現れる。奇跡のような光景に、四人は思わず声を上げてしまった。

「すごい! これがこの鈴の魔力なんだね!」と、リリー

「ああ。まさに『真実の鈴』だよ」シャープだ。

「これからも部屋に入って鈴がなったら、何かが隠されているっていう証拠なんだな!?」

 カインがわくわくさせながらシャープに尋ねた。シャープが深々と頷くと、カインは部屋の中心の方へ向きながら叫んだ。

「ああ! 何だかやる気出てきた! さあ、さっさと次の部屋へ行こうぜ!」

 レバーは少々錆びており、シャープが手をかけた程度では全く動かせない。となれば、ロナンの出番だ。軽く力を込めるだけで、レバーは動いた。大きな音が部屋中で響き渡る。それと同時に、北側の何の変哲も無かった壁が動き始めた。石が組変わり、新たな通路を形作っていく。

「すごい……」

 ロナンはレバーに手をつけたまま呟いた。みるみるうちに、北の壁には新しい通路が出来上がっていた。カインは向き直り、三人に向かってガッツポーズをした。

「よし! 行こうぜ!」

「おーっ!」

 少年探険団は、未知の部屋へと走りだした。


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