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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
14/56

第十四話 見える壁

 ブロックに守られた仕掛けは、何の変哲もない床のスイッチだった。格別固かったり、上から降りると戻ってしまうこともなく、本当に単なるスイッチだった。


 新たな部屋に足を踏み入れた四人は、再び何もない小さな部屋に驚いてしまった。しかも、今回は宝箱も、新たな部屋に繋がる通路もない。左側の壁に、碑文が刻まれているだけだった。リリーが一足先に碑文の前に飛び出し、大きな声で読み上げ始めた。

「真実を知りたくば、時にぶつかる勇気を持て? 何これ?」

 三人も碑文を間近で見ようと、扉のそばから離れる。その瞬間、金属音を響かせ、鉄格子が扉を塞いでしまった。カインは慌てて扉まで駆け戻る。辺りを探るが、鉄格子を戻せるような仕掛けはない。舌打ちすると、カインは鉄格子を蹴りつけた。

「くそっ! 閉じ込められた!」

 ロナンは特に心配もしていない様子で、頭の後ろに手を組みながら空を見上げた。

「気にしなくてもいいだろ。いざとなったらマイルストーンで外に出ればいいんだからさ」

 そうかと言って、カインは首のマイルストーンを手に取る。だが、明らかに勝手が違っていた。マイルストーンは黒く濁り、いつもの輝きが失われている。息を飲んだカインは、ひっくり返った声をあげてしまった。

「ダメだ! マイルストーンの様子がおかしいんだよ!」

「何だって!?」

 シャープがカインの悲痛な叫びに反応し、彼が立っている部屋の入口まで駆け寄った。マイルストーンを奪って眺め、シャープも思わず目をこすってしまった。普段は透き通り、見ているだけで希望が溢れてくるような緑色の光を放っている。しかし、今は禍々しい毒が中でうごめいているような有様になっている。到底使い物になりそうにない。シャープは閉じ込められた部屋を見回した。

「この部屋のせいだ。何かの魔力が、マイルストーンの力を抑え込んでいるんだよ」

「あくまで俺たちを閉じ込めようってわけか! くそっ!」

ロナンは地面を蹴る。リリーは泣き出しそうな目でシャープの胸元に飛びついた。

「お兄ちゃん、私たち、このまま……」

「大丈夫だ。ここの謎さえ解けば帰れる。とにかく、あの碑文のところまで行こうか」

 シャープはリリーを抱え上げると、そのまま碑文の前まで歩く。リリーは涙を堪えながら、頼りのシャープにしがみつくだけだった。シャープは目を細めながら、碑文を一文字一文字詳しく見つめる。

「しんじつをしりたくば、ときにぶつかるゆうきをもて。何にぶつかれって言うんだ?」

「ね、もういいよ」

 リリーはシャープから離れると、ぶらぶらと辺りを歩き回り始めた。ロナンはカインと話し込んでいる。シャープはいつものようにあごをさすりながら考え込んでいた。何も思いつかないリリーに出来ることといえば、炎の部屋の時のように、床に隠されたスイッチを探して歩きまわることくらいだった。壁に手を付き、一つ一つを丁寧に踏みながら歩いて行く。何にも起こらないまま、リリーは部屋の入口の真向かいを通りすぎようとした時だった。壁をなぞっていたはずの手が、急に空を切ったのだ。小さな悲鳴を上げながら、リリーはふらつき壁の中に体を突っ込んだ。

「うわあ! リリーが壁に埋まってる!」

 カインはこの世の終わりを見たかのような叫びを上げ、リリーを壁から引きずりだした。息を荒らげながら、リリーの頭、肩、腕に触れていく。五体満足なのを確かめると、カインはほっと溜め息をついた。

「良かった。無事かぁ」

 駆け寄ってきた三人の安堵した顔を見て、リリーは戸惑ってしまった。確かに壁の中へと入ってしまったが、埋まったのとは少し違った。『壁が幻』なのだ。リリーは返事も曖昧に、三人が止めるのも無視して、もう一度真正面から壁の中に突っ込んだ。中の光景に、リリーは目を丸くする。

「へぇ……すごいや」

中はごく小さな小部屋になっており、奥には床のスイッチがあった。リリーは大きく飛び上がると、全体重でスイッチを押し込んだ。

 途端に、入り口の鉄格子が開く。三人の感嘆が聞こえてきた。リリーは顔をほころばせると、部屋の中でガッツポーズをしてみせた。


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