第十三話 ひさしとブロック
四人は顔を見合わせた。目の前の部屋は、どんな形なのか見通しが付かない。それもそのはず、目の前にはシャープでさえ手を伸ばさないと上に手が置けないほど大きなブロックが五つあり、視界を遮ってしまっているからだ。だが、この部屋が四人に与える違和感はそんなところから来ているのではない。ロナンは上を見上げて呟いた。
「この部屋さ、天井低くない?」
三人は何度も、小刻みに頷いた。この部屋には異様な圧迫感がある。今までの部屋は突き抜けるほど高い吹き抜けだったにもかかわらず、手のひらを返したようにこの部屋の天井は低い。シャープが勢いをつけて跳べば、間違いなく天井に触れられるだろう。ただ、この天井はブロックの外側に限るらしく、ブロックの方からはわずかに光が漏れていた。シャープはブロックに手を触れながら、差し込む光を見上げる。
「ひさしになってるんだな。向こうはきっと明るいんだよ」
「どうしてわざわざひさしになんかするんだろ?」
カインは首を傾げる。今まで完全な吹き抜けだったのに、どうして今更ひさしなんか取り付けるんだろう。そんな疑問が頭の中で渦を巻く。十秒の間考えたが、カインに神殿迷宮の創造主の考えを立ちっ放しで理解することは叶わないらしい。諦めると、三人を放ったままカインはぶらぶら周囲を歩き始めた。ブロックの角を曲がり、カインは思わず声を上げて驚いてしまった。そこにはまた五つのブロックがあったのだ。壁側には、鉄格子の降りた扉がある。もしやと思い、カインはもう一つの角を走って曲がった。
「そうか! 天井が低いのはこのせいか!」
カインは手を打った。またしても五つのブロックが通路を作り出しているのを見て、カインの予想は確信へと変わる。通路の向こうから、三人が現れた。
「おい。どこへ行ったか心配したじゃないか。見通し利かないんだから、勝手にぶらぶら歩かないで欲しいな」
シャープが大股で歩いてくる。カインは苦笑いすると、ブロックを軽く叩いた。
「でも、わかったよ。このブロックの奥にこの部屋のドアを開ける仕掛けがあるんだ。このブロックを押して、どうにかして中に入らないといけないように仕向けたいからこの天井は低くなってんだよ」
「そっか。天井がなかったら上を抜けようとする人がいるもんね」
わずかに漏れ出す光にリリーが目を細めていると、いきなりロナンがど真ん中のブロックを押し始めた。何の抵抗もなく、ブロックはゆっくりと動き出す。
「別に仕掛けという程の仕掛けじゃねえな。これを押してどかせば……って、ん?」
ブロックはいきなりびくともしなくなった。必死に押しても、初めてブロックを押そうとしたときのように足が地面を滑ってしまうだけだ。うなだれるように頭をブロックに軽くぶつけると、自分の仕事ぶりを黙って眺めていた三人の方に振り返る。
「駄目だ。うんともすんともいわない」
「この石畳一枚分しか動かせないんじゃない?」
リリーは自分とシャープが乗っている石畳の上で飛び跳ねた。シャープは隣のブロックを指差す。
「他のも動かしてみてよ。そしたらはっきりする」
「よっしゃ」
ロナンは再びブロックを押し始めた。リリーの言った通りで、石畳と底面積が同じブロックは石畳一枚分の距離を動いて止まる。シャープはその様子を見てあごをさすった。頭の中では既にどう押せばいいかの答えは出ている。みんなにその考えを話そうとして、シャープは目を瞬かせた。またしてもカインがどこかへ行ってしまったのだ。だが、溜め息をつく間もなくカインは駆け足で戻ってきた。息が弾んでいる辺り、結構な速さで飛ばしていたのだろう。
「何してたのさ?」
「走ってたんだよ」
「どうして?」
「暇だから」
シャープはため息混じりにカインの髪を鷲掴みにし、くしゃくしゃにしてしまう。
「一応カインはリーダーなんだからさ、あんまりふらふら動かないで欲しいな」
「へえい……一応ってどういう意味かな」
カインの呟きは、シャープに届かなかったらしい。何の反応もなく、シャープは地図と鉛筆を取り出す。床に地図を広げると、シャープはブロックを書き出し始めた。縦に五つ、横に五つのブロックが一定の空間を取り囲んでいる。
「多分、この部屋のブロックの配置はこんな風になってる。こっち側はもう押してしまったからどうしようもないけど、まだ入口側が残ってるから、そっちで攻略しよう。いいね?」
三人は頷いた。シャープは入口側に並ぶ五つのブロックのうち、真ん中の三つを丸で囲んだ。
「で、真ん中の空間に入るには、まず、前に押すことのできる三つのブロックのうち、端の二つを前に押す。すると、真ん中のブロックが左右に押すことが出来るようになるんだ。そうしたら、真ん中のブロックを左右に押す。これでいいのさ」
「なるほど。よし! みんなでぱぱっとやっちゃおう!」
「賛成!」
四人はカインを先頭にし、入り口まで走り出した。




