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わが里程標  作者: 影絵企鵝
本編
11/56

第十一話 出づる者、継ぐ者

 シャープは痛む腹をかばいながら立ち上がると、ロナンが振り回している松明に向かって手を突き出した。

「その松明を渡してくれ。謎解きに必要みたいだ」

「ほら」

 受け取ったシャープは、先端をカインの方へと向けた。

「カイン! わかったんだ! とりあえずこの松明に火をつけてくれ!」

 カインは身震いするように首を振った。両手で何かを抑えるような動作をしながら、一歩ずつシャープのもとに歩いて行く。

「待て! 落ち着こう。ちょっと落ち着こう。よく考えるんだ。言っておくけどさあ、バカにならないよ、俺がかぶった水。氷みたいなんだ。誰かがまた犠牲になる前に、本当に穴がないか考えようぜ」

 シャープは松明で左肩を叩く。確信があったが、カインは相当水をかぶって参ったらしい。面倒だったが、カインしか火種は持っていないのだから仕方ない。彼は全て説明することにした。シャープは山の壁画へと歩きながら話し始める。

「まず、松明に火を付けて、火山の絵の火口に火をつける。で、『地の炎』から『鳥の炎』は生まれるんだから、この火で鳥の翼に火をつける。ここまではいいな?」

 一旦周りを見渡し、シャープは三人が話についてきているか確かめる。全員頷いた。満足したシャープは、松明で勢い良く竜の壁画を指し示した。

「いいかい? ここがみそなんだよ。竜だけはパチンコで直接火を付けるんだ。何から生まれるとか、継ぐとか書いてないだろ? で、最後にこの松明で人の持ってる杖に火を付ける。『鳥の炎』を『継がせる』から。これが正解さ」

 カインは首を傾げた。もう氷水なんて浴びたくないせいで、どうしても疑り深い方向に思考が持って行かれてしまうのだ。だが、シャープの答えはあらゆる事を考えても疑いようがない。パチンコを手に取ると、シャープの持っている松明を狙った。当てやすいように、シャープは長い腕を突っ張り松明の先端から体を遠ざける。

「じゃあ、ちゃんとやってくれよ!」

 そう叫ぶと、カインはパチンコで松明を撃った。赤々とした火が燃え上がる。シャープは壁画の火口に火をつけると、そのまま壁画の翼に火を灯す。それを見届けると、カインはパチンコで龍の口を撃ち抜いた。龍の口から大きな炎が燃え上がる。シャープは竜の炎を見つめながら、人の杖に炎を捧げた。四つの炎が勢いよく燃え上がり、部屋中が明るく照らし出される。光が部屋の中心に集まり、一つの小さな宝箱を生み出す。四人は一斉に宝箱へと殺到した。真正面に立ったカインは、宝箱の蓋を押し開ける。手を突っ込んだカインは、中から小さな鍵を取り出した。銀製で、優しい光を放っている。

「鍵だ! ……って、どこの鍵だろう」

 カインは鍵を天井向かって掲げながら首を傾げた。地図を開き、シャープはある一点を指さした。

「みんな、見るんだ。今入っていない扉は前の前の部屋に一つしかない。ここ以外に使うなんてありえないよ」

「そうか。じゃあ早速――」

 新たな冒険の展開に期待し、三人は盛り上がっていたところだったが、リリーは手の平をカインの目の前に突き出し待ったをかける。当然カインを始めとする男子三人組は不満げな表情だ。『水を差すな』と目が訴えている。ため息をつくと、リリーは両手を腰に当てて胸を張る。

「諸君。そろそろ日没ではないかな? 今日の任務は終了。帰ろ? キリもいいんだからさ」

 三人は顔を見合わせた。リリーの言うことも一理ある。親を怒らせてしまっては、せっかくの旅が頓挫してしまう。周りと頷きあったカインは、首に下げていたマイルストーンを外す。炎を透かし、マイルストーンは幻想的なコントラストを生み出していた。

「集まってくれ」

 四人はマイルストーンを取り囲む。カインは目を閉じると、心の中で『帰りたい』と叫んだ。瞬間、四人が緑色の光りに包まれ、迷宮の中から掻き消えた。取り残された炎が、静かに誰もいなくなった空間を照らし出し続けていた。


「うわあ!」

 四人は芝生の上に尻餅を付いた。見渡すと、一面黒い森が広がっている。薄紫の空に一番星が光っている。近くに目を向けると、神殿迷宮の数百倍は小さいが、数百倍見慣れた形の家があった。そのドアが軋みながら開く。出てきたのはマルクだった。満面の笑顔で、マルクは四人を出迎えた。

「おお。帰ってきたか。そろそろだと思っていたが、その様子だと結構進めたようだな?」

 カインは真っ先に立ち上がった。

「もちろん! もう五つも部屋を突破したんだ!」

「そうかそうか。みんな、この老人に今日の話を教えてくれないかな?」

 カイン達は、笑顔で頷いた。

「はい!」


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