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L I M I T  作者: 植井 途央
17/17

第017話 救助計画 前編


プルルルルルル………



再び、但徠家の居間で電話のコール音が響く。

時刻は午前4時半。まだ、大抵の人々は寝て過ごしている時間だ。

(響君だ)

居間のソファに少し前の時刻から座っている但徠 巫名は素早く受話器をとり、一応、「もしもし、」と言う。

受話器の向こうからは、『ああ、但徠さん。俺だけど』という、聞き慣れた響の声。

「今から行くの?」

窓の外はまだ暗い。外を出歩く人はまずいない。

『今からじゃないと駄目なんだ。人目につく時間帯だったら確実に俺達の行動は目立つ。だから、今だ』

受話器の向こうから念を押すように2回繰り返す響。

「分かった。今からそっちへ向かうわ」

『ああ』


午前4時45分、但徠 巫名は、使い慣れた愛用の自転車のサドルに跨り、羽祖 響が待つ栄川の方向へ、ペダルを大きく踏み込んだ。


「あ、結構早かったね」

栄川の河川敷で出迎えてくれた響は、薄手の黒っぽいTシャツに短めのジーパン姿。不覚にもなかなか似合っていると思ってしまった。

一方、巫名はそんな響の姿には1秒ほどしか注目せず、その後ろを凝視し続けていた。

「えと……あの……響君?」

「何?」

「その……後ろにあるのは…何なの?」

「ああ。これのこと?」

響が振り向いた後ろ、正確に言うと「川に石を投げ込まないで!」の看板の前の水面から突き出ている物は、巫名の目を疑わせた。

(やぐら)式の梯子さ。四つの梯子を組み立てて強度を増したんだよ」

巫名の目の前の(響が言うには)梯子は、軽く5メートルは上空に伸びていた。

「あの梯子は何処から?」

「うちの親父が土木建築業の材木業者で、梯子くらい家に大量に置いてあるからだよ」

響は後ろを見ながら言う。

「どうやって運んだの?1人じゃ時間掛かるし…まさか親に頼んで?」

「…違うよ。昨日航があの空間に連れ去られた後に、“親には絶対に言わない”ってことにしたじゃないか」

「じゃぁ誰に?」

「ああ、それは…」

響が言い終わらないうちに、巫名の耳に遠くから“ブロロロ…”という音が聞こえた。

自動車のエンジン音のようだ。

「まさかと思うけど、あの車がそうなわけ?」

巫名は訊きながら自分の顔が引き攣って行くのが解った。

「そのまさかだよ」

しれっとした顔で響が答える。

「知らない人に頼んだの!?信じらんない!」

巫名が絶望したように言う。

「知らない人じゃねぇよ。もうすぐ分かるだろ」

響が言った直後に、先程までブロロロ…と音を立てて走ってきていた自動車が目の前で砂利を弾き飛ばしながら停止した。その中から、

「おう、羽祖の坊主。これで最後だぜ」

一人の男性が現れた。巫名は、声や見た目から何となくその男性に見覚えがあったのだが、結局思い出すことが出来なかった。

「誰よ。この人」

「あれ、知らなかったっけ」

ひそひそ声で二人が遣り取りする。その二人の目の前で、自動車から降りた男性が荷台から折り畳み式の梯子を取り出す。

「おい、ここでいいのか」

櫓梯子を指差しながら男性が響の方を向いて言い、

「あ、その櫓梯子の中央辺りに立て掛けてください」

響が指図する。まるで子分が親玉に命令しているような感じだ。


「だから誰なのよ」

巫名の口調がさっきよりも怒りを帯びている。響は思わず後退してしまいそうになった。

「えーと、あの人は……」

冷や汗をかきそうになりながらも、響が答えようとした瞬間、

「これでいいだろ」

またもや会話を男性が遮った。

「……えと…はい。ありがとうございました」

響が横目でちらりと巫名を見る。巫名は目の前の男性に睨むような視線を送っていた。それを見て、響は一言言葉を付け加えることにした。

「…忍坂さん」

「ええっ!?」

巫名が驚きの悲鳴を上げた。現在響達二人の目の前に立っている男性は、高校時代に海枌市の暴走族グループを仕切っていた人物、忍坂 純一だった。昨日、ある用があって河川敷まで来た彼に、たまたまそこで会った響がある程度の事情を話して今日来てもらっていたのだ。

「忍坂君の父親だったの?」

「そうだよ」

巫名に見覚えがあったはずだ。何しろ学校開放日の授業参観の前の三者面談のときに、自分の目の前を罵声と共に航と一緒に通って行った人物なのだから。

巫名がまだ驚いている前で、

「ほう…羽祖の坊主にもようやく彼女が出来たか」

純一がしみじみとそう漏らし、

「「違いますっ!!」」

一瞬の間も置かずに二人が即答した。


「ところで…」

まだ赤面して固まっている二人を目の前に、純一が言う。

「お前らは、あそこにある空間に入りたいんだろう?」

「え!?」

響が小さく驚きの声を上げる。機能会った時にはそんなこと話さなかった筈だ。

「どうして知っているんですか?」

巫名も驚きを隠せていない。

純一は小さく苦笑し、

「そりゃぁ、」

俺が以前向こうの世界の住人だったからさ。と、何の躊躇いも無く話した。

「「……」」

響と巫名は双方口を開けたまま固まっていた。まぁ、当然だ。

沈黙を打ち破るように、響が口を開く。

「“向こうの世界”っていうと、あの空間断絶の事ですか?」

響の頭の中にはラジコン飛行機で空間に侵入したときの記憶が蘇る。あのとき、壁に表示されていた文字は確か“SIMS”だった筈だ。

その答えに、純一は少し驚いたような顔をし、

「正確には“SIMS”だ。だが何でそんなことまで知っているんだ?“SIMS”の構成員には入った直後に守秘義務が発生するんだぞ」

「あの、それは…」

巫名が口を開きかけて、

「いや、俺から話します」

その後の言葉を響が遮った。そして、空間断絶を発見したきっかけと確認方法、そこから落ちてきた人物と航を抱えて消えていった二人の人物についても知っている限り包み隠さずに話した。

「………」

聞いている間、純一は全く持って何も話そうとはせず、真剣に聞いてくれた。ただ時折、懐かしそうな表情を浮かべていた。

「……ということです。忍坂さん。何か心当たりがありませんか?」

響が一通り喋り終わった後、純一は静かに口を開いた。

「全てにおいて完璧すぎるくらいに覚えている。何しろ空間から落ちてきた閃光手榴弾野郎は99パーセントの確立で俺の知り合いで、しかも俺と同じ海枌市出身だ。大柄な黒服と深紅色の長髪の短刀衝撃波野郎は元々俺の同僚だった奴らだよ」

聞き終わった後、響と巫名は大きな衝撃を受けていた。まさか航を連れ去ったのが本人の父親の同僚だったなんて……という思いが、二人の頭を渦巻く。

「是非、その人達と“SIMS”についてもっと聞かせてください」

響が意気込んで訊く。しかし、

「もう時間が無さそうよ」

という、巫名の一言で訊くのを中止せざるを得なくなった。ポケットから取り出した携帯電話の液晶表示には、もうとっくに午前5時半を回っている数字が表示されていた。梯子の回収の時間も含めると、もう時間は限られている。

「…しょうがねぇな。一旦入ってから話すことにするか」

「え……一旦入ってから話すって…何処へ?」

響がきょとんとする。

「当然、あの中だよ」

純一が指差すその先には、櫓梯子と、その上の空間断絶。

「でも…梯子の片付けは?」

響が不安になって訊く。

「任せときな。梯子の撤去作業くらい空間内に入ってからでも出来るぜ。これでも俺は元“SIMS”の構成員だ。大船に乗った気でいていいぞ」

純一が胸を張って自信たっぷりに言う。しかし、

(大船って…タ○タニック号じゃないといいけど……)

密かに心配する響であった。

「じゃぁ、出発するぜ」

純一がそう言ったかと思うと、突然回れ右をして背後の梯子の方へダッシュして行った。

響達もその後に続く。


カンカンコンといい音を響かせて純一が梯子を上っていく。響は慣れた手つきで後に続く。巫名は怖がりながらも必死に二人の後に付いて行った。

「ここからもう少し上の方に、入り口がある。ジャンプすれば届く距離だから、上に立ったら思いっきりジャンプしろ」

最上段に立って、純一が言った。幸い、現時刻は風が無い。もし風があったら、どんな大人でもジャンプを拒むだろう。

アドバイスの言葉を言った直後に、純一は跳んだ。跳んでからすぐに、純一の身体は吸い込まれるかのように宙に消えた。反動で、水底の土に刺しただけの櫓梯子が、グラリと傾く。

「ぅわぁっ」

巫名が小さく悲鳴を上げる。こういうのには滅法弱いらしい。

「じゃ、次俺行くから」

下に向かって声を掛け、響が最上段に立つ。

(うわ……)

冷や汗が顔に滲んで来るのが解った。5メートルという物がこんなに高かったなんて。響は自分の親を尊敬したくなった。しかし、今はそれどころではない。覚悟を決めて、強く梯子を踏み、跳んだ。

その後に、巫名が続く。最上段に立って、やはり響と同じ事を考え、跳ぼうとした。しかし、足が動かない。

(怖い)

その思いが、頭の中を駆け巡る。

(戻ろうかな…)

二人がいなくなった瞬間に、急に弱気になった。

そして、引き返そうとして後ろを向いた瞬間、

急に風が吹いて再び梯子と彼女の身体がぐらりと揺れた。少しの揺れだったが最上段にいる巫名にそれは大きな振動として伝わり、



(マズい)

そう思った時には、巫名の身体が、宙に放り出されていた。



発掘した自作小説はここまでしか書いてなかったです。

気まぐれに上げただけなので続きの要望がなければそのうち消します

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