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L I M I T  作者: 植井 途央
14/17

第014話 行動開始



「空間……断絶!?」



但徠 巫名は叫んでいた。

「だから、推測だって。推測。後でもう一度調べるって言ったじゃないか」

巫名の目の前には、羽祖響がいる。

二人が今いる場所は、羽祖家の2階にある響の自室。向かい合うように座っていた。

二人はたった今、川原から走って逃げてきたところだった。

「何でそう解ったのよ」

巫名が訊く。

響は少し口籠り、“推測”を話し出す。

「今日俺達の目の前でお前に倒された大男がいただろ」

“お前に倒された”の部分で少し顔をしかめた巫名は、それでも頷く。

「あいつは、禊祭りのときに、航を追い駆けていたんだ」

「知っているわ」

響の言葉に軽く答えた巫名に少し驚きつつも、響は続ける。

「航は、あいつの事を知らないと言った。勿論、俺もそうだ。でも、なぜか俺達は狙われる対象になってしまった」

「日頃の行いの悪さじゃなくて?」

「……話を逸らすなよ。で、俺が考えた事なんだけど、」

「うん」

「航を追い駆けたあの男は、今日発見した空間断絶と関係があるんじゃないかな…って」

「……理屈は何となく分かるような気がしないでもないけど」

「で、今日俺が狙われていた理由をそれに当てはめて考えると、」

「考えると…どうなるの?」

流石に巫名は痺れを切らしてきた。本題を聞きたいのだろう。

「航は、俺達よりも先に、あの空間断絶を発見していた……ってのはどうかな?」

響は自信満々な表情を作っている。

「…えっと、そのせいであのときに追い駆けられていたと?」

引き攣った笑みを浮かべながら訊いてくる巫名に、頷く響。

「じゃ、訊くけど、あの男は何者?」

響の自信に溢れる表情が、一瞬で崩れ去った。

「あの空間の事を知っていて、なんらかの関係がある人…かな」

響の声にさっきまでの自信がない。

「やっぱり解らないじゃん」

巫名のトドメで、深く落ち込む響。マンガなら、ズウゥンという効果音が背景に踊っていることだろう。

しかし、

「ああ!そうか!その手があったか!」

数秒後、さっきの落ち込みが何処かへ一転、響の顔に再び笑みが戻った。何か新しいことでも思いついたのだろう。

すぐに、

「但徠さん、次はいつになるか分からないけど、画期的な方法を考え付いたんだ。今日はもう帰っていいよ。俺はこれから計画を練るつもりだから」

そう言い、勉強パソコン机にダッシュで向かい、シャーペンで何かを一心に書き始めた。

邪魔するのも悪いかなと思った巫名は、そのまま響の家を後にすることにした。



「うわ!」

航は跳んでいた。

足元を衝撃波が駆け抜ける。靴底に、深く鋭利な切断面が現れた。

(誰だ!?コイツ!) 

航の目の前では、深紅色の長髪の人物が、腕の長さほどある短刀を振りかざし、横に薙いだ。

目にも留まらぬような速さで振られたそれは空中で衝撃波と化し、航と、隣にいるローラに襲い掛かる。

「はっ!」

ローラは瞬時に対外に強力な空気の対流を生み出し、ベールのようにそれを纏った。

そして、もう一つ発生させた竜巻で航の体を受け止め、自分の近くまで運ぶ。

「ぐぇ」と、嫌な悲鳴を上げて背中から地面に叩きつけられる航。その上を、衝撃波が通り過ぎ、地面に巨大な穴を穿つ。


「貴方は何者なの!?」

ローラが目の前の人物に叫ぶように訊いた。

対して、

「今は名乗る必要は無い。おとなしく付いて来れば話してやってもいいだろう」

深紅色の髪を揺らして、航とローラの目の前にいる女性が答えた。余裕の表情しか浮かべていない。

(何なんだよ…いきなり!)

航とローラには、襲われる訳が分からなかった。




事の発端は今朝のこと………


航がキールの家にやって来てからおよそ2週間が過ぎようとした時。

航は、キールから中央広場に行ってもいいとの許可を受けた。中央広場は、航がカリウス星に飛来して来たときの落下地点であり、キールとの最初の出会いの場でもあった。これまでキールが許可を出さなかったのは、広場から再び何処かへ飛ばされるのを恐れてのことだ。その後、約2週間の調査の結果、広場にはそのような場所は無いと確認され、『行きたいのなら行って来てもよい。暇つぶしくらいにはなるじゃろ』というキールの言葉に甘えて外出したのである。

外は寒かったが広場までの道程はそう遠くなく、航が行くと言ったらオマケとしてローラまで付いてきた。

「寒い」

「付いて来なくてもよかったんだぞ」

ローラが不服を言い、呆れ交じりで返答する航。

航がキールの家に来てからここ2週間で、二人の仲はかなり良くなった。ローラは航に“バカ”の代名詞を極力使わなくなったし、そのせいか航がローラにかける言葉にもトゲが少なくなってきた。

「いいの。あたしが行きたくなっただけだから」


そして、2人が広場に差し掛かった、その時。

航達の周りの空気が他の何かによって動いたことを、ローラが感じ取った。

そして、

「伏せて!」

ローラが叫び、航が反射的に身を屈めた瞬間、…

「おわ!?」

航の髪の毛が数本宙に舞った。

「外したか…!」

どこからと無く声がし、

「忍坂 航、それと“風使い”。大人しく私に付いてきてもらおう」

寒い風に深紅の長髪を揺らし、“捜索兵(サーソル)”フィルが2人の前に姿を現した。

「誰だか解んないけど、私達が素直に付いて来るとでも思って?」

事もあろうにローラが不敵な口調で挑発するように言う。

「成程。抵抗を試みる訳か。それなら力づくでも従ってもらう」

そう言うが早いか、フィルはいきなり短刀(否剣形ペンダント)のような物を抜き出し、空中で振る。

この後、冒頭のようになったのであった。


そして、地面に次々に開いてゆく穴を避けながら、ローラと航はキール宅に向かった。何とか匿ってもらえると思ったのだ。

「航、怪我は?」

走りながらローラが訊く。

「…靴底が致命的なダメージを受けて死にそう」

航が履いている靴の靴底は、衝撃波で切断されてカパカパと音を立てていた。

そのせいで遅れを取っている航に、“捜索兵”フィルがどんどん距離を縮めていく。

「早く走りなさいこのバカ!」

航の前方からローラが叱責する。

「そんなこと言ったって俺だって走れなうわっ!」

反論しかけた航は目の前に穿たれた穴に躓き、派手に転んだ。重力が小さいためか痛みは伴わなかったが、

「わわわ!?」

転んだ体制のまま突然フィルに首根を掴まれて宙吊りにされた。

「航!」

ローラが叫ぶ。そしてローラが振り返った背後に現れた人物は…

「!!!!!! ローラ!逃げろ!!!」

「え!?」

航が過去に一度見て覚えていた顔、姿がそこにあった。

「小癪な!」

逃げるローラも、背後に現れた人物に着ている服を鷲?みにされる。

「キャアッ!」

ローラが悲鳴を上げる。掴み上げられて苦しそうにもがく。

「放して!!……っ!」

ローラが必死に右手を伸ばす。普段なら目の前に竜巻が現れるはずなのだが…

彼女の目の前には竜巻どころか風すら起こらなかった。

「どう…して…」

放心したように呟く。目の前では、航が彼女の後ろを見て目を見開いている。



(嘘…だろ…)

航は声に出しそうになるのを必死に堪えていた。

自分の目の前でローラの服の襟の部分を掴んでいる人物に、見覚えがあったからだ。

(嘘…だろ!?)

混乱する中、不意にその人物と目が合った。向こうは、かけているサングラス越しにこちらを一瞥し、

「この前は結構手古摺(てこず)らせてくれたじゃないか。“選ばれし者”よ」

不敵にフフフと笑った。

“捜索兵”ゾルスが、そこにいた。

「何を…」

「決まっているじゃないか。これからお前達を連行する」

ゾルスが言い放ち、地面を強く蹴る。

航の襟首を掴んでいたフィルも、そこから地面を蹴り上げ、跳んだ。

ゾルスとフィルは空中で、トランシーバーのような物を取り出し、叫ぶように話す。

「こちら、ゾルス。Cブロック情報収集部長官(インフォメーション・コマンダー)に告ぐ。カリウスにて、“地球”の“選ばれし者”忍坂航を確保!現在、連行中」

「こちら、フィル。Cブロック情報収集部長官(インフォメーション・コマンダー)に告ぐ。カリウスにて、“ウィラム”の“選ばれし者”ローラ・ヴィラストスを確保!現在、連行中」

2人の“捜索兵”は広場の中央辺りまで跳んだあと、高笑いだけを残して、



何も無い空間に、消えた。



行動開始というサブタイはかなり厳しい…後で変えるかもです

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