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L I M I T  作者: 植井 途央
12/17

第012話 ローラ



一方、カリウス星……



「は…働く!?ここで?俺が!?」

航は素っ頓狂な声を上げていた。

『そうじゃ。ヌシがここに来たからには、何もせずに過ごせる訳がないじゃろ』

キールが応答する。

航は、昨日に泊めてもらった代償にと、キール老人の家の使用人として働いてくれないかとの申し出を受けていたのであった。

そして、航の返事は、

「無理ですよ。俺なんかに」

素っ気無かった。

しかしキールはこれに負けず、

『それでは、今夜の宿はどうするのかな?』

反撃してきた。

「うっ」

航は言葉に詰まった。ここぞとばかりにキールが追い討ちをかける。

『仕事を教えるから、付いてきなさい。まぁ野宿をしたいのなら止めはせぬ、勝手に出て行くがよい』

「………」

航は、無言で付いていくことにした。そして、

(無理だ。この老人(キール・カタストロフ)に悪知恵で勝つことなんて!)

と、前をすたすたと歩いて行く老人を見て心の中でずっと僻んでいた。



『ここじゃ』

キールがまず航を案内したのは、昨日入った2対のソファが据え付けてある部屋だった。

「ここで…何をしろと?  まさか掃除ですか?」

『いや。掃除は雇い家政婦がしてくれる。ヌシは、…そうじゃのう。書庫の整理でもしてもらおうかの』

「はぁ…?」

航が驚いたのは、書庫の整理を頼まれたことでなく…

「この家って、家政婦も雇ってたんですか!?」

『応。そっちも、ヌシと同い年くらいだったかの』

キールは目を細めて、言う。

「俺と同い年……どんな趣味があるんですかあんたは!!!」

『や、違うんじゃ。家政婦の方は、自分から働きたい、との、言ってきたんじゃよ』

うろたえながらも、キールが答える。

「で、今その人はどこに…?」

呆れながらも、航が訊く。

『もうすぐ来るはずじゃが…』

キールが書庫の窓から外を見るように首を動かした瞬間、

キールが身に付けている翡翠色の剣形ペンダントがいきなり宙に浮かび、淡い光を発し始めた。

『お、丁度来たようじゃの』

ペンダントを手に持って、『展開』と呟く。

ペンダントが発光を止め、声が流れ始めた。


[…カタストロフ様、只今参りました]

『入ってよろし』


キールが落ち着いた声で言う。


[では、今からそちらへ行きますので]


再び、ペンダントから声が響く。

そして、声が終わるか終わらないかのうちに、宙に浮いていたペンダントは、キールの手を離れた。


「今のは?」

航は疑問をそのまま口にする。

『家政婦じゃが?』

キールが軽く答える。

「いやそうじゃなくて、ペンダントの力の方ですよ」

『ああ』

キールが頷き、説明してくれた。

これがまた、非っ常に長い話で、説明し切れそうに無いので要約すると、いわゆるインターホンのような物だということだ。

「そうですか…」

朝礼で校長の話を長々しく聞かされた後の学生気分を味わい尽くした航は、精神力で間を持たせるための 相槌を打つ。


丁度その時、

コンコンと、ドアをノックする音。

『お、来たようじゃな。入ってよいぞ』

ドアに向かってキールが言う。ガチャリと音を立ててドアが少しずつ開いていった。

そして、入ってきたのは…―――――


「あ――――――っ!!!」

航は叫んでいた。入ってきた家政婦も、驚いているようだ。

「竜巻の女の子うわっ!!!」

言った途端に室内に起きた竜巻で飛ばされる。

「竜巻いうな!」

『そうじゃ。彼女を怒らせたらいかんぞ』

宙を飛ばされる中、家政婦の少女とキールの声が耳に届く。

「とにかくここを下ろせぇ―――!!!」

宙をぐるぐる振り回される中、必死に叫ぶ。

家政婦の少女とは、昨日航を崖から落とした張本人だった。

書庫の本を数十冊巻き込んで空中で回転しまくった後、航は地面に降ろされた。

「何すんだよ!」

降ろされた途端に航は怒鳴った。巻き込まれた数十冊の本の角が当たって体中がズキズキする。

「何?まだやって欲しいわけ?」

少女が不敵に笑う。

「俺にМ系の趣味はねーよ。それより!どうしてお前がここにいるんだよ!?」

「家政婦として雇って貰っているからじゃない。バカね」

明らかな嘲笑の言葉に、再びムカついた航は反撃を試みる。

「そうじゃねぇ。どうして周りの住民はできないのにお前だけが竜巻を発生させられんのかを訊いてんだよ!それもそのペンダントのお陰か?」

しかし、

『いや、違うのじゃ』

キールの声で制止された。

「はい?どういうことですか?」

航は自然に訊き返していた。

『読んで字の如く、じゃ。彼女の能力は、ペンダントのせいではない』

「じゃぁ、あの竜巻はどこから?」

航の頭が混乱してきた。

『昨日話さなかったかの。ヌシ以外にも異界から飛ばされてきた者がおると。』

航は落ちてきた直後の事を思い出す。あの時確かにキールはそんな事を言っていたような気がする。

「…まぁ、聞いたような気もしますけど…それが何か?」

キールは深い溜息をつき、『これだけ言っても解らんのか』と嘆くように言い、

『彼女もヌシと同じように飛ばされて来たのじゃよ』

(…ああ!!そういうことか)

ようやく理解した航に、後ろから「ホントにバカね」と少女が小さく漏らす。

「…で、それが彼女の能力に何か関係しているんですか?」

『うむ。実はな…』

キールが言いかけたとき、

「あたしから説明する」

少女が前に一歩出て制止した。「このバカにでもわかるようにね」と付け加えるのも忘れない。

そして、彼女の説明が始まった。こちらもキールの説明に負けずと劣らず、長々しく退屈だった。

こちらも同じように要約すると、もといた星の中の巫女のような存在だったのだそうだ。能力は、幼少の頃から備わっていたらしい“風使い”の能力だそうだ。

その単語だけでも明らかにデタラメに見えるのに、念じるだけで風を発生させられると聞けばもうこれは嘘と思うのが当然…なのだが、航も短時間で通算2回もその被害に遭っている。

「事情は解ったけどさ、その“風使い”の女の子が、どうして家政婦なんてベタな仕事選んだのさ?」

ビクッ!

その言葉に反応するようにキールの肩が跳ねた。頬を冷や汗が何本もの筋になって流れ落ちる。

少女がキールの方を数秒間見て、目つきを少し鋭くして、言った。

「大体の事情はあんたと同じだと思うわ」

「…というと?」

キールの顔の汗の量が増加する。

「広場にあんたと同じように落ちた後、この老人(キール・カタストロフ)にこの家に案内されたわ。流石に崖からダイブするようなパフォーマンスは見せなかったけど…。そして、ここに泊めてもらった。ペンダントも、その時に受け取ったの。そして、次の日、この老人、何て言ったと思う?」

「さあ。『今晩の宿が欲しければうちで仕事しなさい』とか?」

キールの顔からは脱水症状を引き起こしそうに汗が溢れていた。

少女は少し驚いた顔を見せてから、

「あたり。それで、ここで働いてるわ」

そう言った。

「………」

「感想は?」

「…いやぁ、自分がやっている事を人に語られたような気分だよ」

「え……じゃあ、あんたもここで働けとか言われたわけ?」

キールがソロリソロリとドアの方に後ずさりしていく。

「ん…まぁ」

そう航が答えた瞬間、少女がキールに向かって手を伸ばした。

一陣の風が吹き、キールの体がこちらを向く。

「どう説明していただくつもりですかキールさん」

少女が言い、

「そういえば、彼女が来る前に言った言葉って俺に嘘ついた事になるんですよね。キールさん」

航も同調する。

『や…ぁ……ぁのぅ…』

キールが剣幕に押し負けし、

『すまん。謝る』

小さくなって謝った。しかしその後、

『しかしじゃ。折角ワタルも使用人になると言ってくれたしの。仕事はしてもらおうかの』

と言い放った。

「えぇ俺まだそんなことちっとも言ってな…」

『問答無用!!これからはローラと共に仕事をしてもらう!』

そのままドアをバンと開けて出て行く。

「…ローラって?」

「あたしのことよ。ウィラム、っていう星から来たの」

「そ……そうなんだ。俺は、地球って所から」

「ふーん。変な名前の星ね」

ローラは、さほど関心なさそうに言った。


「それはそうとして、俺、マジで仕事すんの!?」

脳裏にさっきのキールの去り際の言葉が浮かぶ。

「あんなの冗談に決まってるでしょ」

軽く言い放つローラ。

そうなのか?と、内心に疑問に思う航。

「でも君は仕事をしてるんだろ?」

「ほとんどしてないにも等しいわ。敢えて仕事というと軽い掃除くらいかしら。それ以外はここの書庫で本を読んでいるだけだし」

ローラは微笑み混じりにそう言った。

「でも俺もその掃除とかそういう仕事やらなきゃいけないんだよね」

うろたえる航に、ローラの一言

「あんたは信用できないから、やらせない」

撃沈。

(やっぱりこの家にいる二人には勝てない…)

改めて思う航であった。




書庫の窓からは、部屋の中に光が降り注ぐ。

その時二人は、光の中に小さな人影が混じっていることに気付かなかった。




タイトルを見てスチュアートと思ったあなた残念!まだこの頃はインデックスもそこまで進んでいなかった!!……希ガス

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