第011話 安堵
ゴスッ!
響の後ろで鈍い音がした。
(何だ…?)
とっさに振り向いて、気付く。
「えっ!?」
思わず声に出てしまう。
(何で……ここに……?)
“捜索兵”ゾルス、響にとっては“禊祭りの時の大男”が、響の後ろに倒れていたからだ。
そして、その背後からはもう一つの声。
「羽祖君!大丈夫だった!?」
但徠 巫名の声がした。
「何が…どうなって?」
河川敷の斜面を滑るように降りてくる但徠に、訳も分からずに訊く。
「気付かなかったの? その人が、羽祖君の肩に手を掛けようとしてたんだよ!」
聞こえた途端、響は、但徠の声に一瞬のひっかかりを感じた。
(何で、この男が俺の敵だと解ったんだ?)
「右手」
響の表情を読み取ったかのように、但徠が言い放った。
鋭い声での一喝に、響は反射的に首を下に向ける。
「うわっ!何だこれ!?」
響は驚きを隠せない。
響に手を掛けようとしていた大男の反対の手、
ゾルスの右手には、拳銃のような―――確実に殺人目的の武器であろう何かが握られていた。
「狙われているのも気付かないなんて、何やってたの? また忍坂君のこと?」
図星を突かれて一瞬怯みそうになった響だったが、同じ事故現場にいて自分と同じように悩んでいる但徠には、あの空間の事を話してもいいと思った。
「まぁ、そうなんだけどさ。つーか、俺、発見しちゃったんだよね」
響の顔には満面の笑みが広がっていた。
「な…何を?」
多少引き気味に但徠が尋ねる。
それに対する返答は、但徠にとって大きな衝撃だった。
「航が、生きてる可能性」
最初は、嘘かと思った。しかし、羽祖 響はこのようなことで嘘はつかない。
「どうして解ったのよ」
心の奥では信頼していても、つい声を出して確かめたくなってしまう。
「見たら解る」
響の答えは、素っ気無かった。
答えた瞬間、再びラジコンの操縦バーに力を込める。
空中で旋回していたラジコン飛行機が、響の頭上を通過し、看板の真上を通過し、川のほうへ進んでいった。
そして、それは、2人の見ている目の前で、
消えた。――――
「は?―――――――えええぇぇぇぇぇぇ!?」
但徠が大声を出す。
「シッ!気付かれたらどうする!」
響が、目の前に倒れている大男に注意を払い、言う。
「だ、だって、き…消えたんだよ!あれ!!」
但徠の声は焦ったままだ。
「…俺だって最初に見つけたときは焦ったさ。でも、こういう所があるのなら、っと。」
操縦バーを前に倒す。
ラジコン飛行機が再び空間から表れ、響のほうに向かって飛んでくる。
両手を使ってキャッチした響は、ラジコンの電源を切った後、満面の笑みを浮かべて言う。
「この中のどこかで航も生きてるんじゃないかな…って、思えたんだ」
響の声には、自信が満ち溢れていた。
「かも…知れないね」
但徠が同意しかけたとき、
「…ぅ……うん?」
大男、ゾルスが目を覚ました。
響と但徠は一瞬向き合い、
「逃げるぞ!」
響の一言で駆け出していた。
「んなっ!」
ゾルスの意識が戻ったときには、もう二人の姿はなかった。
「畜生、逃げられたか!」
トランシーバーのような通信機器を取り出し、叫ぶように言う。
「“SIMS”最高指揮官!応答を頼む。情報交換ワームホール発見者の少年を、取り逃した。背後には共犯者がいる模様!」
「知っている」
すぐに返答された。
………
「私は、どうなったのですか!」
訳の分からないゾルスが叫ぶ。
「背後から石礫を投げつけられたようだな。当分後頭部が痛むだろうが、辛抱したまえ」
対する最高指揮官の応答は、呆気なかった。
ゾルスの足元には、そのとき投げつけられたであろう拳大の石が転がっていた。
言葉に打ちのめされたように、ゾルスはがっくりと膝を突く。
逃げていった響達を追い駆ける気は、起こらなかった。
小分けしすぎたかもしれない……まあいいか。問題ない