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第六章

癒しの後に最初に発された言葉は、感謝でも安堵でもなかった。


それは、抗議だった。


マレクは、ちょうどよい瞬間を見計らっていた。もう、彼が儀式そのものへ割り込んだとは言わせない。だが一方で、起きたことすべてを“痛ましい事故”という便利な言葉の中へ運び込むには、まだ早すぎる――そういう瞬間だった。


彼は少し離れて立っていた。いつも通り整っていたが、その背があまりにも真っ直ぐで、かえってそれだけで、どれほど腹を立てているかが見えた。


「ヴァルガルドの使節団は、ホウセイの神殿複合内において襲撃を受けた」


彼はそう言った。


「公式に平和が確認された後に。護送の最中に。貴方方の衛士の庇護の下で。外交の言葉で言うなら、これは“不運”ではありません。こちらの側が、言葉以外で応じる権利を持ちうる、明白な破れです」


若い神官たちは、たちまち身を固くした。そのうち一人は、何か反論しようとしたのか、意味を理解するより先に顔を上げすぎたほどだった。セイゲンは壁際に座ったままだった。ミライは立っていた。どちらも、マレクの言葉を遮ろうとはしなかった。それ自体が一つの返答だった。今この場で、怒りを持つ資格が自分たちの側にはないことを、理解していたのだ。


彼はアヤノを見た。


彼女はまだ起き上がっていなかった。石の上に横たわったまま、死の色こそ引いていたが、それでも痛みのあとに特有の、顔立ちそのものが少し薄くなったような疲れを残していた。壁際には三人の娘たちが座っていた。生きていた。それだけで、部屋の空気はいまだ、他人の正しさの余韻で震えていた。


それでもマレクは続けた。


「我が側は、今回の件を三つのいずれかとして理解するほかありません。すなわち、神殿内部における統制の喪失。あるいは、貴方方の名の下に動きながら、貴方方自身の把握の外にある勢力の存在。あるいは――そして、これが最悪ですが――その存在を知りながら、なお制御しきれないという事実。いずれの解釈も、等しく悪い」


「もういい」


彼はそう言った。


マレクは、すぐにはこちらを見なかった。


「敬意をもって申し上げますが、まだです。今ここで相手に先に“遺憾”や“痛恨”の言葉を並べさせるのは、あまりに都合がよすぎます」


「これは」とミライが静かに言った。「正当な抗議を、平和にとって役立たない強さにまで引き延ばそうとしているように見えます」


マレクはようやく彼女を見た。


「平和が役に立つのは、背中に毒矢が刺さらない間だけです」


よく言った。


よすぎるくらいだった。


このまま放っておけば、二人はじきに、礼節が事態を救うどころか、裂け目を公式化するだけの温度まで行くだろう。彼にはそれが分かった。


「マレク」


彼はそう言った。


今度は、ただの制止ではなく、そこで止めるべきだという線が声に入っていた。マレクは聞いた。引き下がったわけではない。ただ視線を外し、自分は納得していないが、お前がそこに線を引くなら今は越えない――そう示しただけだった。


アヤノが、ゆっくり上体を起こした。


若い神官の一人が駆け寄ろうとしたが、彼女は指先をほんの少し動かしただけでそれを止めた。自分で足を下ろし、そのまましばらく座る。それから、ミライとセイゲンを見た。


「ここで“誰が悪いか”だけを話し始めたら」


彼女は静かに言った。


「それは、この状況を望んだ側にとって、あまりに都合がよすぎます」


ミライは彼女を見た。もう以前のような皮肉はそこになかった。


「あなたは傷つけられた側です」と彼女は言った。「最初に責を問う権利は、あなたにあります」


「あります」


アヤノは答えた。


「でも、それだけをこの場の中身にしたくありません」


マレクが、ごく短く息を鼻で抜いた。不満ではない。より広い意味で、彼女のほうが正しいと分かってしまった時の、あの苛立ちに似た呼吸だった。


彼はアヤノのそばへ寄った。ただし、彼女を自分の後ろへ庇うような位置には立たなかった。


「それでも答えは必要だ」


彼は、ミライでもセイゲンでもなく、その間の空間に向かって言った。


「どれほど気の毒がるかではなく、“失敗”だったかどうかでもない。知りたいのは、ここで何が起きているのかだ。誰が、この神殿の内側で、公式に結ばれた平和を壊す賭けに出たのか。なぜそれをやったのか」


セイゲンが顔を上げた。


先ほどよりも老いて見えた。弱ってではない。むしろ、今日という一日があまりに多くを突きつけてきたせいで、もうそれを隠そうとしていない人間の顔だった。


「神殿は一つではない」


彼はそう言った。


若い神官たちは一斉に固まった。そのうち一人などは、目に見えて血の気を失った。


ミライが老人へ素早く目をやった。だが止めはしなかった。


「ずいぶんと早く、率直さを選ばれたのですね」とマレク。


「早く、ではない」


セイゲンは言った。


「遅く、だ」


その一語のあと、部屋の沈黙は形を変えた。


脅しの沈黙ではない。


密度の沈黙だった。


彼の中で、あの種類の鋭さがすぐに立ち上がった。危機の場でこそ先に来る、あの冷たい理解だ。神殿内部に割れ目があるのなら、それは些細な争いではない。戦術の違いや、誰がどの席に座るかといった話でもない。もっと根に近い何かを巡って割れている。


「何があなた方を分けている?」


彼は尋ねた。


セイゲンは、すぐには答えなかった。昨日まで敵だった者たちの前で、どこまで語るべきかを測っているようだった。


先に答えたのはミライだった。


「一方には、この平和を“有益な停止”として受け入れるべきだと考える者たちがいます。聖女がそれを自らの決断として認めたのなら、それを前提に生きることはできる。使いようもある。新しい関係の構造へ展開することもできる。けれど、もう一方は……」


彼女はほんのわずかに間を置いた。


「こういう聖女が存在しうるという事実そのものを、危険だと見ている」


「以前の秩序に収まらないから」


アヤノが言った。


ミライは彼女を見た。


「そうです」


セイゲンが続けた。


「あなたは、ある者たちにとって、道を踏み外した聖女でも、失われた聖なる器でもない。聖なるものが、自らの意志を持ちながら壊れずにありうる、その証明になってしまった。これは教義の異端ではなく、仕組みそのものへの異端だ」


そこまで来て、ようやく多くのことが一つにつながった。


彼は襲撃を思い返した。狙いがまず自分ではなくアヤノに向いていたこと。投げ矢には毒が塗られていたが、即死のものではなかったこと。あの妙な、急ぎながらも正確すぎた手つき。殺すためか。あるいは、“不都合な聖女”を単に場から消すためか。


マレクも、そこへ達するのが速かった。


「彼らは彼女を殺そうとした」


彼は言った。


「我々を脅かすためでも、会談を壊すためでもない。彼女を消すために」


「ええ」


セイゲンは言った。


若い神官たちは目を伏せた。そのうちの一人は、あまりに露骨な動きをした。


彼はそれを見た。ミライも見た。


「せめて、今この場では、つまらない嘘をつくのはやめなさい」


彼女は声を荒げずに言った。


「もう十分近くまで来ています。その程度の隠し方は、侮辱にしか見えません」


誰も答えなかった。


逆に、アヤノはさらに静かになった。彼には分かった。状況の輪郭がはっきりするほど、彼女の中から“個人的な動揺”だけが削ぎ落ちていく。痛みはある。疲れもある。だが、迷いは減る。彼女はそういう人間だった。いちばん恐ろしいものを前にした時こそ、名前がついたぶんだけ持ちこたえる。


「もし、不都合な聖女を殺せば」


アヤノはゆっくりと言った。味わうためではなく、論理の密度を確かめるように。


「その場所は、また空席にできる」


セイゲンは頷いた。


「そうなれば、新たな召喚が可能になる」


それが、底だった。


単純で、明晰で、吐き気がするほど筋が通っていた。


復讐ではない。狂信そのものでもない。もっと悪い。神聖を名目にした、暴力の事務手続き。生きている聖女が不都合なら、世界をもう一度“空席”の状態へ戻せばよい。そうすれば、次を呼べる。


マレクが、もう空気の中に出ていたものをそのまま言葉にした。


「つまり神殿の内部には、彼女の死を悲劇でも損失でもなく、“次の循環を開く手段”として見る勢力がある」


「そうです」


ミライが答えた。


その声には、もう皮肉も、外交の艶もなかった。ただ、乾いた怒りだけがあった。どこに裂け目が走っているかを、彼女自身もあまりに正確に理解してしまった者の怒りだった。


彼は彼女を見ていて、分かった。これは演技ではない。ミライは別に柔らかくなったわけではないし、急に味方になったわけでもない。ただ、アヤノが傷つきながらもなお、誰か一人を死なせてまで自分を治すことを拒んだ、その在り方が、彼女の中のどこかを確かに動かしてしまったのだ。ミライはたぶん、純粋さというものを長い間、外から見せるための造作としてしか見てこなかった。だがアヤノは、純粋さを、意志の向きとしてここに持ち込んでしまった。そしてそれは、認めないという選択肢を与えなかった。


一方で、セイゲンの視線は、少しずつアヤノよりも彼に留まる時間が増えていた。


最初は用心深い測り方だった。


今は、ほとんど関心と呼べるものに変わっている。


「思ったより早くそこへ辿り着いた」


老人は言った。


「何に?」


「今回の襲撃は、平和そのものを正面から壊すためのものではなかった、ということに」


彼は肩を少しだけ動かした。


「筋が通ってる」


セイゲンはしばらく彼を見ていた。


「あなたは、非常に危険な人だ」


「それはもう聞いた」


「いや」老人は答えた。「その時は力の話だった。今は思考の話だ。力は人を怯えさせる。だが、こういう種類の思考は構造そのものを壊す」


ミライが、ごくわずかに笑った。


「お気に召してきましたか、導師」


「下品な言い方はやめなさい」


セイゲンはそう言った。


だが、その目つきで彼女を切り捨てはしなかった。


マレクは、もっとも危険なことばはすでに出尽くしたと見たのだろう。すぐに本来の筋へ戻った。


「では次の問いです。ホウセイは、その内部の勢力に対して何をなさるおつもりで?」


「もし立場が逆なら、あなた方がなさることと同じでしょう」


ミライが言った。


「できるだけ早く、そして外にまで恐慌を漏らさずに、その力を探る」


「それは答えになっていません」とマレク。


「いいえ、これが唯一、正直で、それでいて今日この場を即座に“神殿内部の内戦宣言”に変えない答えです」


ミライは言った。


「そして、それを望んでいるのは、すでに動き出しているその勢力だけでしょう」


アヤノは、二人を見ていた。


それからセイゲンへ視線を移す。


「あなたは、驚いてはいないんですね」


老人は、問いの意味を分からないふりはしなかった。


「こんなに早く、ここまで来るとは思いたくなかった」


「つまり、知っていた」


「知っていた」


アヤノはゆっくり頷いた。


責めるようには見えなかった。ただ、もう一つ重い石を、自分の中でようやく形になった世界の上へ静かに置いたような頷きだった。


彼はふと、自分がずっと拳を強く握ったままだったことに気づいた。指を開く。掌には、自分の爪が食い込んだ浅い跡が残っていた。怒りの深さというものは、ときに人間自身より先に身体が決めてしまう。


「割れている、というだけでは足りない」


彼は言った。


「知りたいのは、その裂け目が何の上に走っているかだ。誰がそこにいるのか。熱狂した教義の信徒か。政治を失いたくない者か。アヤノを含んだまま平和が続けば、自分たちの影響力が削られると恐れる者か。それとも、本気で、“次の聖女”を呼ぶには席を空けるしかないと信じている者たちか」


「ええ」


ミライが言った。


マレクでさえ、そこで初めて顔を向けた。


「“ええ”というのは、どれです?」


「全部です」


彼女は答えた。


「だから厄介なのです。そこには異なる人間がいます。けれど、一つの考えが、彼らを都合よく束ねている。“不都合な聖女”さえ消えれば、秩序はもう一度扱いやすくなる」


セイゲンが、さらに低い声で付け加えた。


「信仰は、そう簡単に純粋ではいられない。人はそこへ、失いたくないものへの恐れを混ぜる」


回廊の向こうは相変わらず明るかった。だが、その光はもう荘厳ではなかった。顔に対してあまりにも正直すぎるだけの光に変わっていた。


アヤノは、自分の手へ目を落とした。傷ではなく、癒しの痕でもなく、ただ自分の指へ。まだ自分のものとしてそこにあるかを確かめるように。


ミライは長く彼女を見ていた。そこにあったのは、もはや職能的な値踏みではなかった。哀れみでもない。尊重と呼ぶには、まだ彼女自身がその感情をうまく受け止めきれていない、そういう種類の目だった。


セイゲンは壁際に座ったまま、疲れを隠そうともせず、それでいて今日一日の中で初めて、自分の内側から何かを守る姿勢を取っていないように見えた。


風が、開いたほうの空間で吊り飾りを揺らした。


細い音がまた白い空気の中で震えた。今度は、さっきより少し長く耳に残った。

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