第二章
王との会話は、思っていた以上に悪いものになった。
エドランが何か予想外のことを言ったからではない。むしろ逆だった。いちばん最悪だったのは、彼があまりにも予想どおりに話したことだった。どれほど平然と、普通の人間なら少なくとも一瞬は声色を変えるべき内容を、言葉として整えていくかということだった。最初の短い呼び出しのあと、アヤノだけ先に下がらせ、彼だけが残された。大広間でもなく、評議の場でもなく、決定がまだ国家の意思としては固まっていない、だがもう「知らなかったふり」はできない、あの脇の部屋だった。
エドランは座るようにも言わなかった。
自分も立ったままだった。
二人のあいだには机があった。障害物というより、これが二人の人間の会話ではなく、一人の人間と、自分の欲するものをよく知っている権力との会話なのだと示すためのものだった。
「ほとんど間違いなく、善意の招待ではないと分かっているな」
彼がそう言うと、王はすぐに答えた。
「もちろんだ。だが、それで渡航の必要が薄れるわけではない」
「誰にとって必要なんだ」
エドランはわずかに首を傾けた。
「全員にとってだ」
彼は鼻で笑った。
「便利な答えだな」
「便利な答えが長生きするのは、たいてい、そこにいくらかの真実が含まれているからだ」
その瞬間、殴りたくなった。本当に机越しに掴みかかりたくなったわけではない。ただ、内側で古い、粗い怒りが立ち上がるのを感じた。誰かの代価について、冷えきった計算のまま語れる人間への怒りだった。
「普通に話せ」彼は言った。「王としてじゃなく、人間として。片方はいまだ“聖女”と見なされ、もう片方は、その国の基盤すべてへの脅威と見なされている場所へ、その二人を送り出そうとしている人間として」
エドランは、乾いた長い視線で彼を見た。
「普通に、か。いいだろう。普通に言えばこうだ。お前たちが行かなければ、向こうは起きたことについて、自分たちに都合のいい物語を固める時間と余地を得る。お前が彼女を力で囲い込んでいる、彼女は折られている、講和は圧力のもとで結ばれた、まだ何もかも取り返せる――そう言うだろう。行けば危険だ。行かなければ、次の戦争をほぼ確実に呼び込む。しかも今度は国境ではなく、もっと後で、もっと厄介な形でな」
彼は黙った。
それはまさに、自分が聞かされると分かっていた内容だった。だからこそ余計に腹が立った。
「お前は“次の戦争”を、ただの悪い展開みたいに言うな」彼は低く言った。「また死体が積み上がるってことだろう」
エドランは目を逸らさなかった。
「拒否の代価として語っている」
「お前は“代価”って言葉を軽く使いすぎる」
「いや」王は言った。「その言葉が、いまのお前にはようやく痛く聞こえるようになっただけだ」
その瞬間、部屋の中が本当に静かになった。外側ではなく、内側が。人がこの会話を続けるか、それとも何か取り返しのつかないことをして終わらせるかを決める前に訪れる、あの静けさだった。
彼はゆっくり息を吐いた。
「向こうで彼女に何かあったら」彼は言った。「俺は神殿だけじゃ済まさない」
エドランの表情は変わらなかった。
「それもすでに計算に入っている」
それが最悪だった。
残酷さではない。
冷酷さでもない。
彼の怒りさえ、すでに要素として織り込まれている、その事実だった。
彼は別れの言葉もなく部屋を出た。廊下を歩きながら、自分の怒りが何の助けにもならないと感じていた。ただ、ずっと解けない緊張を余計に維持させるだけだった。平和は公式には結ばれた。だが、それで何かが清算されたわけではない。彼も、アヤノも、結局は人を殺してきた。彼は直接。アヤノは、いつも自分の手でではなくとも、同じ機構の中で。それなのに、またしても彼らは、単なる政治ではなく、死者が他人の口を借りてしゃべり始める場所へ押し戻されようとしている。
部屋へ戻ると、いつもより少し暗かった。夜になったわけではない。ただ、リラが片方のカーテンを引いていて、光が柔らかく落ちていた。カイラは自分の寝台に横向きに寝そべり、腕を頭の下に入れていて、彼が入るなりすぐこちらを見た。アヤノは窓辺に片足を抱え込むように座り、外ではなく、ガラスのどこかに答えでもあるかのように、その向こうではない場所を見ていた。
最初に口を開いたのはカイラだった。
「で?」
彼はすぐには答えなかった。
床に座っていたリラが、寝台のそばからゆっくり顔を上げた。急かしもせず、ただ静かに。たったそれだけのことなのに、その視線を受けた瞬間、自分がどれほど疲れているかを思い知らされた。
「最悪だ」彼は言った。
「その“最悪”は、“気分の問題”のほう?」とカイラが聞いた。「それとも“あいつまた正しくて、その正しさごと誰か殺したくなる”のほう?」
「後者だ」
カイラは小さく舌打ちした。
「ほんと、ああいう人間がまともな理屈を持ってるの嫌い」
アヤノはまだ彼を見なかった。
「じゃあ、やっぱり行くことになるんですね」
「たぶんな」
そこでようやく彼女は目を上げた。
そこには絶望もなければ、前のような冷えた自己凍結もなかった。ただ疲れがあった。生きた、正直な疲れ。いま、このタイミングで次の一歩を踏み出したいと願ったわけではない、それでももう先延ばしにはできないと分かっている人間の疲れだった。
「夕方まで時間がほしいです」アヤノが言った。
「何のために?」とカイラ。
アヤノはほんの少しだけ間を置いた。
「もう自分が行くと決めたんだってことに、追いつくためです」
カイラは一度まばたきをし、それからゆっくり起き上がった。
「今の言い方、嫌なくらい正確だったわね」
真っ先に立ち上がったのはリラだった。
彼女はアヤノのそばへ行き、身をかがめ、ごく自然に、ほとんど目立たないくらいに額へ口づけた。慰めるでも、母親じみた仕草でもなく、ただ一つの事実を伝えるように。あなたがきついの、ちゃんと見えてるよ、と。アヤノは身じろぎもせず、逃げもせず、ただ一瞬だけ目を閉じた。
「私、ついています」リラが言った。
カイラはすぐ彼のほうを見た。
「じゃあ、私はあんた担当か」
「いや」
彼女は眉を上げた。
「ちょっと傷つくんだけど」
「一人になりたい」
カイラはいつものように棘のある一言を投げようとした。口元でそれが形になりかけたのが分かった。だが、彼の顔を少し真面目に見て、やめた。
「分かった」彼女は言った。「でも長くはダメ。あんた、一人にすると、ひどい結論をすごく真面目な顔で考え始めるから」
彼は頷き、部屋を出た。本当に一人になりたいからというより、その場にすぐ居続けることができなかったからだ。あの部屋で、彼女たち三人をもう“支え”としてではなく、“だからこそ危険になる理由”として意識してしまった、その重さに耐えられなかった。
彼は中庭へ降り、さらに下の、人通りの少ない古い通路へ向かった。城壁へ続く細い廊下の途中に、小さな窓と腰掛けられるほどの石張りの窪みがある。そこに腰を下ろした。思っていたほど長くはいなかった。一人になるとすぐに、考えは分析ではなく、自罰に変わっていったからだ。
彼はリラのことを考えていた。
現実逃避のためではない。むしろ逆だった。エドランのような相手と話したあとにこそ、自分にとって彼女が何なのかが、いちばんはっきり分かるのだ。
リラは、一度として彼を力で奪いにきたことがなかった。場所を争ったことも、自分の必要性を演出で押しつけたこともない。彼女の強さはいつも別のところにあった――ほとんど恐ろしいほど静かなところに。彼女は受け入れる。だが、それは弱い意味での“受容”ではなかった。何でも黙って飲み込むことではない。彼女の受容はもっと密度があり、身体的で、生きていた。彼女のそばでは、人は自分の中でばらばらに崩れかけていても、完全には壊れずにいられる。
そんなものが、どれほど希少なのかを、彼は知るのが遅すぎた。
部屋へ戻ると、灯りは一つしか残っていなかった。カイラはいない。アヤノも、おそらくいなかった。リラが散歩にでも連れ出したのだろうか、あるいは隣の部屋にでも閉じこもったのだろうか。リラの姿も最初は見えなかった。声をかけようとした時、水音がした。
彼女は洗い場から出てきた。手を拭きながら。こめかみのあたりの髪は少しだけ湿っていて、着ているのは家の中で着るような、柔らかな服だった。整えた“見せる姿”ではなく、それでいてそのあまりに自然な姿が彼にはひどく現実的に見えて、胸の奥で何か非英雄的なものがきゅっと痛んだ。
「二人には回廊を歩いてもらっています」リラは言った。「カイラは嫌がっていましたけど、結局ついていってくれました。アヤノには、神殿のこと以外を大きな声で怒ってくれる誰かが必要だったので」
彼は思わず笑った。
「つまり今、カイラは治療的な役割を果たしてるわけだ」
「その言い方はしないでください。怒りますから」
リラは近づいてきた。
急がず、遠慮しすぎず。ただ、こういう時に近づく彼女なりのやり方で。鋭さが増すだけの近づき方を、彼女は決してしない。
「すごく固いです」彼女は小さく言った。
「話が最悪だった」
「分かります」
「いや」彼は思ったより鋭く言ってしまった。「分かってない」
リラは引かなかった。ただ、より注意深く彼を見た。
それが彼を余計に崩した。もし彼女が傷ついたふりでもしてくれたなら、彼はまだ持ちこたえられたかもしれない。
「全部、もう計算済みなんだ」彼は目を逸らして言った。「俺のことも、アヤノのことも、起きるかもしれない戦争も、起きたあとの俺の反応も。全部だ。最悪なのは、たぶんあいつが正しいってことだ。しかも俺もそれを分かってる。だから誰かを引き裂いてしまいたいのに、その怒りさえもう役に立たない」
リラは黙っていた。
彼はそのまま続けた。もう止められなかった。
「うんざりしてる。まともな答えのない中で、より醜いほうと、少しだけ賢い醜さのどっちを選ぶかみたいな話ばかりだ。公式には平和が結ばれたのに、中身は何も変わってない。アヤノは、また自分を象徴に押し戻そうとする場所へ行かなきゃならない。そして、どう言い繕っても、俺もアヤノも人を殺してる。向こうへ行くって決断を、綺麗なものだなんて顔はできない。結局また同じ泥の中に入るだけだ。ただ、前より言い方が上手くなってるだけで」
リラは彼のすぐ前まで来た。
「私を見てください」
彼は従った。
彼女の顔には哀れみはなかった。ただ集中と、妙にまっすぐな優しさだけがあった。彼が自分自身を最も受け入れがたく感じる時にこそ、彼女の中に現れる種類の優しさだ。
「だったら、綺麗だなんて思わなくていいんです」彼女は言った。「正しいとも、良いとも、言えないなら言わなくていい。でも、“決断が汚れていること”と、“何のためにその決断をするのか”を、同じものにしないでください」
彼は何か言い返そうとしたが、彼女は手を上げてその頬に触れた。
「あなたはエドランのために行くんじゃない。彼の計算のためでも、紙の上の平和のためでもない。アヤノのことを、また他人に語らせないために行くんです。そして、この世界の代価を、もう見なかったことにできないから」
彼は一瞬だけ目を閉じた。
彼女の手は頬に残っていた。温かく、生きていて、単純だった。象徴でも、理屈でもなく、皮膚だった。
「もう俺は、“正しいこと”のために何かしてるんじゃない気がする」彼は低く言った。「ただ“より小さい悪”を選んでるだけだ」
リラはゆっくり近づき、額を彼の胸に押し当てた。隠れるのではなく、重さを預けるように。頭の重み、身体の熱、呼吸の上下、それらすべてを彼に感じさせるように。服越しに、その一つ一つがはっきり分かった。小さく、穏やかで、現実だった。
「じゃあ、私も乱暴に言いますね」彼女は彼の胸元に顔を押し当てたまま言った。「それが“正しい”かどうかなんて、私はもうあまり気にしていません。ただ、あなたが他人の痛みを見分けることを、まだやめていない。それなら私は、あなたの側にいます」
彼は彼女の後頭部に手を置き、髪をなぞった。彼女は顔を上げた。その瞬間、二人のあいだから余計なものが消えた。問題が消えたわけではない。ただ、身体というものが、頭ではまだ受け止めきれないことを先に受け入れさせる時があるのだと、そういう形で分かった。
先に口づけたのは彼だった。
乱暴ではない。だが、思っていたよりはるかに飢えていた。
リラはすぐ応えた。譲りもせず、導きすぎもせず、ただいつものように開いた。その開き方のせいで、口づけはすぐに“落ち着くためのもの”ではなくなった。ずっと張りつめた背筋を、やっと内側から緩めてもよい場所になった。
彼女の手は彼の服の下へ滑り込み、腹から胸へとゆっくり上がっていった。まるで撫でるというより、筋肉と皮膚と緊張でできた彼の身体を、順番にもう一度組み立て直しているみたいだった。どこがいちばん硬いか、どこに痛みが溜まっているかを、彼自身より知っているような指先だった。
「冷たいです」彼女が囁いた。
「悪いのか?」
「いいえ。ただ、長く耐えすぎたってことです」
彼女は急がずに彼のシャツを脱がせ、彼もそれに任せた。今度は彼が彼女の服を頭から抜き取る。別の日なら、あまりにも馴染みすぎていて、ほとんど日常の延長に感じただろう。だが今は、その馴染み深さがいっそう強く響いた。誘惑の演出もなければ、駆け引きもない。ただ、長い時間を一緒に過ごした二人が、身体に先に話をさせているだけだった。
彼女は温かかった。
それがいつも、リラについて最初に彼を打つものだった。柔らかさでも、受け入れるような身体つきでも、洗ったあとの肌の匂いでもない。まず熱だった。彼女の中には、ほかの誰よりも多く熱があるように思える。彼は彼女を強く抱き寄せた。すると彼女もすぐ、胸も腹も腰もすべて預けるようにしてぴたりと重なり、その間から空気がほとんど消えた。
「こうして」リラが静かに言う。「今は考えなくていいです」
「無理だ」
「じゃあ、これを考えてください」
彼女は彼の手を取り、自分の胸に置いた。誘いでも先導でもなく、ただ思い出させるために。ここに命がある。ここに身体がある。義務でも制度でも取引でもなく、ただあなたのそばにいたいと思っている身体が。
彼は思ったより強く手を握ってしまった。
リラは短く息を呑んだが、退かなかった。ただ唇を軽く噛み、彼を見上げた。その視線は彼の中の何かを毎回のように壊し直す。やさしくも従順でもなく、最後まで開いた視線。彼が自分をいちばん受け入れがたい時に、なおまっすぐ彼を受け入れる目だった。
二人はすぐには横にならなかった。しばらく立ったまま口づけを重ね、触れ合いを深めていった。熱を煽るというより、絡まったものをほどいていくように。彼は彼女の首、肩、胸元へ唇を落とし、彼女の身体が恐怖でも寒さでもなく、すでに彼に応えて震えているのを感じた。リラは手をゆっくり下へ滑らせ、腹を越え、さらに下へと辿っていく。その指が彼を包んだ時、彼は鋭く息を吐いた。誇示するような巧さではない。ただ、彼がどう感じるかをずっと知っている女の、迷いのない手つきだった。
「正直に言ってください」と彼女は、動きを止めないまま囁いた。「本当は、行きたくないんでしょう?」
彼は目を閉じた。
なんて正確なんだ。
「行きたくない」
「分かっています」
「でも行く」
「それも分かっています」
彼女は彼から手を離し、彼を寝台へ横たえ、自分は隣に座った。裸で、少し髪を乱し、さっきまでの触れ合いの熱をまだ纏ったまま。それでいて顔は落ち着いていて、彼女が二人ぶんのことを先に受け入れてしまった時にだけ見せる表情だった。だが、それでもなお、彼自身がそこへ辿り着くのを待ってくれている顔でもあった。
「それを“犠牲”にしないでください」彼女は言った。「お願いだから。私は、いつも自分を捧げる獣みたいにして“正しい決断”に行く人を愛したくはありません」
彼はかすれた笑いを漏らした。
「厳しいな」
「はい」
彼女は身をかがめ、彼の胸へ、さらに下へと唇を滑らせた。そのまま身体を彼の脚のあいだへ沈めていく。その動きだけで、彼は欲望だけでなく、不思議な静けさまで感じた。彼女の身体のほうが、彼より先に、彼の行くべき道を知っているようだった。
「私が愛したいのは」彼女は彼を見上げて言う。「泥の中に入っていくことを“光”なんて呼ばない人です。それでも入る人。そうしなければ、自分自身を見ていられないから。そういう人なら、私は分かる」
彼は彼女を見ながら、内側の怒りのうち、余計な部分だけが少しずつ沈んでいくのを感じていた。問題そのものが消えたわけじゃない。恐れも、アヤノを神殿へ向かわせることへの嫌悪も、この世界の代価への怒りも消えない。ただ、そこへ彼を閉じ込めていた無駄な怒りだけが、少しずつ居場所を失っていった。
リラはさらに身をかがめ、ゆっくりと彼を口に含んだ。見せつけるような器用さはなかった。だがそれは、彼女にしかできない仕方だった。愛撫を愛撫だけに切り離さず、そのまま会話の続きとして身体で話すような。彼は彼女の髪に指を差し入れ、強くしすぎないよう気をつけながら撫でた。すると彼女はそっと頬を彼の腿へ押しつけ、感じている、受け止めている、分かっている、とそのまま伝えてきた。
彼は急かさなかった。彼女も急がなかった。
その時、扉が静かに開いた。
彼は顔を向けた。
カイラが戸口に立っていた。いつもの軽口を飛ばすつもりで、そして目の前の光景を見て固まった。その肩越しにはアヤノもいる。一瞬だけ、四人のあいだに気まずさが生まれた。ただし、本当の気まずさに育つ前に終わる程度のものだった。
最初にそれを壊したのは、やはりカイラだった。
「よかった。あんたたち、別々の方向に勝手に沈んでるんじゃないかと思ってた」
リラは息が苦しくならない程度に離れ、彼の腿に額を当てたまま、小さく笑った。
アヤノは少し後ろに立っていた。けれどもう、よそ者としてではなかった。見ていた。そこには羞恥も距離もなく、ただ、疲れたような、それでいて不思議に温かい理解があった。
「そうしてるほうが」アヤノは言った。「ずっといいです」
彼は大きく息を吐いた。
「せめてノックくらいしろよ」
「できたけど?」とカイラ。「でもそれじゃ、いい場面を逃すでしょ」
リラは身を起こした。隠れようとはしなかった。ただ彼の隣に座り、ぴたりと脇腹を寄せて、自分の腿の上に彼の手を置いた。熱く、なめらかで、現実の腿だった。その仕草ひとつで、この場が乾いた気まずさへ戻るのを拒んでいた。
カイラは二人を見、それからアヤノへ視線をやった。
「で?」と聞く。「こいつ、聖女さまの国に連れていける顔になった? まだ?」
アヤノは少し考えた。
「だいぶ、です」
「“だいぶ”じゃ足りない」
「じゃあ、一晩ください」とリラが言った。
カイラは鼻を鳴らしたが、反対はしなかった。
アヤノは近づいてきて、寝台のそばで立ち止まり、今度は彼をまっすぐ見た。
「私はまだ、あそこへ行きたくないです」と彼女は言った。「でも、また他人に私を語らせたくはない。あなたにも、この決断を義務だけで引き受けてほしくない。それじゃ、私たちが抗おうとしているものと、あまりにも似すぎてしまう」
彼はゆっくり起き上がった。リラをそばに引き寄せたまま。身体とこの会話のあいだに、また距離を作りたくなかったからだ。
「じゃあ、俺は何のために行くべきなんだ?」
アヤノはすぐには答えなかった。だが答えた時、声にはもう前ほどの揺らぎがなかった。
「私を救うためでも、エドランのためでもありません。私もあなたも、もう向こうの古い形には戻らないって、それを見せるためです。そして、公式には平和が結ばれても、それで両国のあいだに起きたことが終わるわけじゃない。戦争を言い訳にできなくなった状態で、ようやくお互いの顔を見るためです」
カイラが小さく口笛を吹いた。
「うわ。今のは、嫌なくらい筋が通ってる」
リラは彼のこめかみに軽く唇を寄せた。
「でも、冷たい正しさじゃありません」彼女は言う。「これは、私たちの言葉です」
その時、彼は理解した。もう決断は済んでいる。
エドランによってではない。
政治によってでもない。
次の戦争への恐れによってですらない。
ここで決まったのだ。この部屋で。彼が半ば裸で座っていて、リラが全身で寄り添い、カイラが不安を皮肉で隠し、アヤノがようやく自分の国を神話ではなく、もう一度“生きた自分のまま戻らねばならない場所”として語っている、この部屋で。
彼はリラを見た。まだ濡れている彼女の口元。掌の下にある熱い腿。そして、彼女の中にいつもある、条件つきではない受容。それが今、慰めではなく、許可に見えた。
それからアヤノを見た。
そしてカイラを。
「分かった」彼は言った。「行く」
カイラは目を大げさに上へ向けた。
「ほんと、こういう妙に親密な流れでまともな結論に着地されるの、腹立つ」
リラは静かに笑った。
アヤノは長く息を吐いた。恐れだけでなく、この言葉を待っていた緊張まで、ようやく少し外へ出したような吐息だった。
彼はリラを引き寄せ、その髪に顔を埋めた。水と肌と、家の匂いがした。この世界で、本来なら持てないはずの家の匂いだった。
だからこそ、彼はいま、行けるのだ。




